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湖に刻まれた記憶 失われた叡智を求めて-生成AIと綴る物語-  作者: Kai
- 8 - それぞれの覚悟と月夜の庭
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- 8 - それぞれの覚悟と月夜の庭 4


――作戦の全容が固まり、それぞれが己の運命を受け入れた数日後。



クロノドクサ研究所は、来るべき決戦に向けた準備で、かつてないほどの喧騒と、そして静かな緊張感に包まれていた。




サーシャやミラをはじめとする多くの研究員が、それぞれの担当となる湖へ向かう、その前日のことだった。





慌ただしく行き交う廊下で、偶然顔を合わせたティモシー、ジル、サーシャ、そしてミラの四人。




誰からともなく、皆が同じことを考えていた。




この過酷な運命に身を投じる前に、もう一度だけ。




いや、"人"として最後になるかもしれないからこそ、いつもと同じように、四人で集まりたい、と。








「…明日、準備が終わったら」




「ええ、あそこで」




「じゃあ、いつもの時間に」




「分かったわ」






短い言葉を交わしただけで、彼らの想いは一つだった。




示し合わせたように頷き合うと、四人はそれぞれの準備へと散っていく。




彼らにとっての思い出の場所…セラフィナ湖が見渡せる、あの庭園で会うことを、心に決めて。


















そして、作戦開始を二日後に控えた日の夕暮れ。



研究所のカフェテラスや食堂は、別れを惜しむ人々でごった返していた。




これから危険な任務に就く仲間と最後の言葉を交わす者、故郷の家族との面会のためにデリバリーを受け取りに来る者、そして、ただ黙って肩を寄せ合い、同じ時間を過ごそうとする者たち。



誰もが、この束の間の平穏が、いかに尊く、そして儚いものであるかを理解していた。






考えることは、皆、同じだった。






カフェでハーブティーを受け取っていたティモシーの隣に、静かな気配が立った。




サーシャだった。





「…君もか」




サーシャの言葉に、ティモシーが視線を向けると、彼の腕には見慣れた洋菓子の箱が抱えられていた。



そしてサーシャもまた、ティモシーが持つ紙袋から、色とりどりのグミのパッケージが覗いているのに気づく。






二人は、どちらからともなく、ふっと息を漏らすように笑った。






「ミラは、ここのカスタードシュークリームじゃないと、機嫌が悪くなるからな」




「ジルは、こういう時ほど、こういうジャンクなものを食べたがるでしょうから…」





互いに、ここにいない仲間を思って用意したささやかな贈り物。




その偶然の一致が、張り詰めていた二人の心を、少しだけ解きほぐした。






「行くか」




「はい」





二人は、取り留めのない会話を始めた。




明日の天気のこと、新しく導入された魔道具の使い勝手、昔、まだ幼かったミラが実験で起こした小さな爆発事故のこと。




モイラが現れる前の、何でもなかった日常のように。




その、あまりにも些細で、平和な雑談が、かえって二人の胸に、切ない現実を突きつけていた。




食堂にたどり着くと、案の定、二人の騒がしい友人が、肉の塊が並んだショーケースの前で揉めていた。




「だから、景気づけには、こういう分厚いお肉を焼いて食べるのが一番なんですってば!」




ジルが、大きなステーキ肉を指差して力説する。




「非合理的なの。



これから重要な任務に就くのだから、栄養バランスを考えたメニューを選ぶべきなのです。



タンパク質、ビタミン、ミネラル…こちらの、シェフのおすすめコースの方が、どう考えても優れているのよ!」





ミラは、ジルの隣で腕を組み、冷静に、しかし一歩も引かない構えで反論している。





その光景は、この数年間、何度も繰り返されてきた、彼らの日常そのものだった。



その、あまりにも変わらない、いつも通りのやり取りを目の当たりにした瞬間、ティモシーの視界が、不意に滲んだ。




(ああ、そうだ…僕たちは、いつもこうだった…)




この日常が、明日にはもうないのかもしれない。




この仲間たちと、こうして笑い合うことも、もう二度と…。





込み上げてくる感情を抑えきれず、ティモシーは、溢れそうになる涙を隠すように、俯いた。







そのティモシーの肩の微かな震えに、サーシャは気づいていた。



彼は何も言わず、ティモシーが持っていた紙袋を黙って渡すと、その大きな手で、彼の頭を少し乱暴に、しかし、どこまでも優しく撫でた。




「…ほら、行くぞ」



そのぶっきらぼうな声に、ティモシーは顔を上げることができた。





サーシャは、そのままミラとジルの間に入ると、手際よく仲裁を始める。





「二人とも、喧嘩するな。



 どうせ、全部持っていくんだから。



 ジル、その肉は僕が焼いてやろう。


 

 ミラ、君の言うコースも頼んで、皆で分ければいいだろう?」






 「で、でも…!」



 「サーシャがそう言うなら…」






なんだかんだと言い合いながらも、サーシャの言葉に、二人は渋々といった様子で頷いた。






まるで、ピクニックの準備でもするかのように。



四人は、それぞれの好物や飲み物を手分けしてバスケットに詰め込んでいく。




そのやり取りは、これから死地に向かう者たちのそれとは思えないほど、賑やかで、そして温かかった。






「早くしないと、夜が明けてしまいますわよ!」




「あなたが、いつまでもお肉にうるさかったからでしょう!」




軽口を叩き合いながら、四人は、たくさんの思い出が詰まった、夜の庭園へと歩みを進めていく。




月明かりが、セラフィナ湖の静かな水面と、そして、四人の若者たちの最後の夜を、優しく照らし出していた。












――夜の庭園に、パチパチと焚き火がはぜる音だけが響いていた。



セラフィナ湖の水面は、漆黒と群青を混ぜたような夜空を映し、無数の星屑をきらめかせている。




時折、湖の奥深くで、光の粒子が追いかけっこをするように走り抜け、その軌跡がどこまでも美しい碧い揺らめきを残して消えていく。




彼らがこのクロノドクサの研究所で出会ってから、もう8年の月日が流れていた。一番最初に来たのは、没落貴族を装った、わけありの天才研究者サーシャ。




続いて、社会に馴染めずにいたところを叔母に導かれたティモシー。




そして、天才ゆえの孤独を抱えた少女だったミラ。最後に来たのが、スポーツ万能で快活な、脳筋と名高いジル。





出自も性格もバラバラな四人だったが、彼らはここで様々なものを見て、感じ、共に生きてきた。





そして今、これ以上の世界の危機を防ぐために――その身を犠牲にしようとしていた。






その割には、驚くほど穏やかで、和やかな夜だった。







――――――――――







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