表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/45

- 5 - 湖の庭園と 4


テオとイーサンが去り、無機質な廊下に二人きりになると、レンは壁に寄りかかり、深くため息をついた。





「さて、どうする。王子様?


大人しく部屋で保護されて、お呼びがかかるのを待つか?」





ネイトは首を横に振った。





その瞳には、疲労と、それを上回る研究者としての探究心、そしてわずかな不安が宿っている。





「いや……局長が言っていた、検査用の魔道具とやらを少し見ておきたいと思います。


それに、レンが使うという実験室も気になるし」



「物好きだな。どうせ、ろくなもんじゃないだろうが」





レンはそう言い捨てたが、ネイトの提案に異を唱える気はないようだった。



むしろ、この息の詰まるような待機時間を持て余していたのかもしれない。













二人は、テオが示していた区画の奥へと進んだ。



いくつかの扉が並んでおり、それぞれに厳重な認証装置が取り付けられている。





最初に目についたのは、「第一医療検査室」とドアに刻まれた部屋だった。



特殊なガラス窓からは、内部に並ぶ最新鋭だが冷たい印象の医療用魔道具の数々が見える。





ベッドのようなものや、人体を調べるのだろうと思われる複雑な形状の装置もあった。






「……大層なもてなしだな。



 医務室ともずいぶん違うが俺たちが何をされるのか、見当もつかん」





レンが皮肉っぽく呟く。


ネイトはガラス越しに内部を観察しながら、静かに言った。





「見たところ、精神波の測定や魔力循環の詳細分析を行うためのもののようですね。


我々が見た夢などが、どれほど深刻な影響を及ぼしているか、徹底的に調べるつもりなのでしょう」






その声には、わずかな諦観が滲んでいた。



隣の「高度処置室」と書かれた部屋も同様に、中を窺い知ることはできても、認証なしでは一歩も入れそうにない。





「ま、今は入る権限もねぇだろうしな。


で、俺の“実験室”とやらはどこだろうな?」




レンが促すと、ネイトも顔をゆっくりと動かし通路の最も奥、ひときわ重厚な扉を指差した。




「あそこじゃないかな?」




そこには「特秘共鳴実験室」という、いかにも曰く付きといった名称が刻まれている。






「これか……名前が趣味が悪いと思わないか?」






レンは吐き捨てるように言い、認証の魔道具に手をかざした。



局長から一時的なアクセス権は与えられていたらしい。





重々しい音とともに扉が左右にスライドすると、内部の空気が圧力を伴って流れ出してくるのを感じた。





実験室は、思ったよりも広かった。



壁一面に並ぶのは、レンですら見たこともない複雑な制御盤と、魔力の流れを可視化するであろう水晶の導管。





そして中央には、例の騒動の発端となった水盤が、今は静かに水を湛えて鎮座している。



部屋全体が、強力な結界で幾重にも保護されているのが肌で感じ取れた。






「……やりすぎじゃないのか、これは。



問題があると言ってもさすがに古代遺物の一つや二つ、解析するのにこの厳重さは」






レンは呆れたように天井を仰いだ。



ネイトも、その異様なまでの設備に息を呑む。






「それだけ、我々が見たもの…


そして、これから君がここで試そうとしていることが、危険だと判断されているということなんでしょうね。


あの"何か"とやらの干渉を、完全にコントロール下に置こうとしているのか…」






レンは水盤に近づき、その黒曜石のような水面を覗き込む。





「どっちにしろ、いい気分じゃないな。


あの悪夢の続きを、ここで見せられるのは勘弁願いたい」





昨夜の悪夢の残滓が、まだ頭の奥にこびりついている。



あの黒と赤の奔流、荊の感触、そして、魂を直接掴まれるような絶望感。



できることなら二度と見たくないと思うのは人間として当たり前の感情だろう。







ネイトも静かに頷いた。






「私も――。


 あの感覚は…忘れようにも忘れられなくて。



あれは、単なる夢ではなく―――




何か、もっと根源的な…




我々の存在そのものを揺るがすようなものだったと思います」







ため息を吐きながらネイトは続ける。







「――レン。



君も昨日、いや、今日になるのか―――





夢を見ましたよね?



内容は白昼夢と変わっていましたか…?






…私が見た夢は違うんです。




あの白昼夢とは全然違うんです。



同じ空間でも景色も異なって





――でも"続き"で、"繋がっている"とわかるのに―――




あんな悲惨な現場や痛みはなく、何かを探していているんです。






でも―――見つからなくて、それで――」








彼は自分の胸に手を当て、苦しげに息を吐く。





「今後、我々はどうなるんですかね。


この現象が、何をもたらすのか――



まさか王位継承権まで関わってくるなんて





シャロンは降家が決まってますし


姉上に外交から離れてもらうなどできるのかと思うと―――」






無意識か姉姫の話になったら胃に手を当てる時点で母上と同類の彼女を思い出して少し頭が痛くはなるが、今考えていても仕方がないだろう。






「さあな。



だが、ろくなことにならないという気はしなくもないが、継承権の事をいま考えても仕方がないだろう。



特に姉姫の事を考えると胃が痛くなって、これからの検査に問題が発生するかもしれないから、いま考えるのはやめておけ。




いざとなったら、ビリー達も居るんだ。





従弟でいざとなったら姉姫に押し付けるより、どうにかなりそうなのが居るんだからいまは自分のことだけ考えてもいいんじゃないのか?」







レンは呆れ混じれに笑った。








―――――――その時だった。







静寂に耳鳴りがしそうな空間に大きな地鳴りの音が聞こえたかと思うと足元から、突き上げるような激しい揺れが二人を襲った。






経験したことのない規模の揺れだった。





壁に据え付けられた機材置き場から機材のぶつかる音が聞こえ、天井からは埃がぱらぱらと舞い落ちる。







「なっ…!?」




「地震か…!? 」







二人が体勢を立て直そうとした瞬間、実験室中央の水盤が、まばゆい様々な光を放ち始めた。







静かだった水面が激しく波立ち、まるで意志を持ったかのように波立ち始める。








「おい、あれを見ろ!」






レンが叫ぶ。




水盤から、水と共に眩い光の粒子が噴き出した。



それはまるで、無数の光の粒子が乱舞するように室内を満たしていく。





そして、水面からは、ありえない速度で蔦のようなものが伸び始め、様々な燐光を放つ不可思議な花々を次々と咲かせていく。





花の甘く香しい薫りと水盤とは全く異なる滝や湖の傍にいるかのように水の匂いが、実験室に充満する。







「これはいったい…!?」







ネイトは目の前の光景に言葉を失う。




蔦はあっという間に床を覆い、壁を伝い、天井にまで達しようとしていた。



光の粒子はますますその輝きを増し、視界を白く染め上げる。







レンは咄嗟にネイトの腕を掴もうとした。







「ネイト、逃げ…!」







だが、遅かった。



蔦は生き物のように二人へと迫り、足首に、腕に、容赦なく絡みついてくる。




抵抗しようにも、その力はあまりにも強い。







光と花と蔦と水が織りなす混沌とした奔流は、瞬く間に二人を飲み込み、その意識を水盤の奥深くへと引きずり込んでいった。








声にならない叫びを上げる間もなく、レンとネイトの姿は、溢れかえる光と植物の中に完全に掻き消されていた。








――――――――――







ブックマークの追加やいいねやコメント貰えたらすごく喜びます。

物語を書く元気にもなるので応援してもらえると嬉しいです。








また「AIで可視化するぼくの頭の中。」というエッセイ形式で自分の体験やAIとの日常会話から自分でも驚くような特性や傾向、そこからの気づきをまとめて行こと思っているので両方応援してもらえると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ