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- 4 - 月の花 3


2時間後、急ぎで作った指示書と確認連絡を終えたレン、ネイト、テオの三人は局長室を出る前に、ネイトが局長とレンへ視線を向け、静かに言った。




「……今のうちに、テオの適性試験もやっておいた方がいいのではないでしょうか?


彼も協力したいと言っていましたし」




「まあ、ついでと言ってはなんだがな。


本人も乗り気みたいだし、やってみるか」





局長が肩をすくめる。


レンが思わず口を挟む。




「危険性は大丈夫なのか?」



「封鎖する前にテオも受けておけば、年齢の可能性も考えられるだろ?



言い方が悪いが、身内である程度洗えるなら今は少しでも情報は欲しいし、仕方がないだろ」






テオは「ああ」と快活に笑った。




「やらせて欲しい。


  俺だって、たまには知的な部分で少しは役に立ちたいしな」











研究所地下の隔離分析室。



昨日の件があり、入場が規制された場所に遺物も遺物からの抽出内容も含めすべてがこの地下に移動されていた。





いくつもの水盤が交差する静かな空間に、魔力分析装置が低い唸りを上げていた。




テオは、白衣の職員から促されるままに、片手を端末の魔力導入盤に置いた。




「ふーっ……緊張すんな、って言っても無理な相談か、これは」




テオは自嘲気味に笑いながら深呼吸を一つ。



レンたちが通ったルートと同様、魔力波長の共鳴と反応の有無を測る手順だ。



盤面が青く淡く輝いたのは最初の数秒だけだった。




あとは、ほとんど反応が消えたように光がうっすらと発光しては消えていく。




「……やっぱりダメか。まあ、そうだろうとは思ってたがな」




奥の操作卓に座るジョッシュ局長が、水盤越しに眉をしかめ、どこか残念そうに、しかし想定内といった様子で呟いた。




テオは手を離し、苦笑を浮かべた。





「そっか。俺も“選ばれし者”じゃなかったか。


すこしばかり、期待したんだけどな。」




肩をすくめるその声には、照れとも悔しさともつかないものが混じっていた。





「いやいや、予想通りってだけだ。


俺なんか全力でで魔力流したのに、全く反応もしなかったからな?


ま、俺はな"欠片にも恐れられるやつ”だからな」




ジョッシュ局長は手のひらをひらひらさせながら、冗談めかしてそう言ったが、その視線はなにかを読み取ろうとする研究者のものだった。





その横で腕を組んでいたレンがぼそりと呟いた。





「つまり、反応が出るのは"年齢"ではないということか。


俺たち、ネイト、エオスに共通して……


そして局長やテオがダメだったことを考えると――――」




「あぁ、残念ながらな。


俺様ほどの男でも、選ばれないこともあるってこった」






ジョッシュ局長は肩をすくめて苦笑を浮かべるが、どこかそれ以上を言いたげな空気を滲ませていた。





テオが床を見ながら口を開いた。





「でも、年齢以外でだと、ひい爺様の違いか?


でもエオス嬢は王族の血が流れてないよな?


…まさかの隠し子?痛っ!!!」





「まったく、お前はなんでそう迂闊な発言をするんだ。」





局長に叩かれた頭をなでながら、テオは続ける。






「そうなると、次に考えられるのは……既婚かどうか、とか?」





テオはぽつりと投げたその仮説に、一瞬室内の空気が静止した。



レンが小さく鼻を鳴らした。





「さすがに雑だろ、それは。


それに、既婚かどうかを基準にしてどう測るんだよ。


欠片が婚姻届けでも読むってのか?」



「まあまあ、レン、理屈じゃなくて傾向として、だよ。


今反応してる個体ってのは、未婚の若年者ばっかりだろ?


ネイト王子もそうだし、お前さんもエオス嬢も


…あ、レンは妙齢か。」




ジョッシュ局長が手元の資料をめくりながら、やれやれという顔で加える。





「既婚か未婚かで反応が変わるなら……


 次の検体は、極端に若い未婚者。


つまり幼児になるわけだが……さすがにそれはなぁ」





レンが即座に首を振った。





「無理だな」




「倫理的にも、運用的にも問題がありすぎる。


それに、子どもにあんなもんが出る可能性があるものに魔力を注がせるのは、さすがに気が引けるというか、ありえねえだろ」





「ああ、俺も反対だ」





レンは背後の壁にもたれたまま、静かに同意した。




ジョッシュ局長が椅子をくるりと回して立ち上がった。




「ということで、この仮説はひとまず棚上げだ。


今試せる手札がない以上、他の可能性を探るしかねぇな。


ま、原因はそのうちわかるだろ。




今は月花だ。


これ以上考えて無駄に脳みそ疲れさせんのはなしな。」





「了解です」





ネイトが静かに応じ、レンもひとつ、深く息を吐いた。


テオも軽く拳を握り、「よし、俺は俺の得意分野でがんばりますか」と笑った。


ジョッシュ局長はそんなテオを見て、少しだけ目を細めた。




「その気合い、嫌いじゃねえぞ。ま、無理すんなよ」



その言葉には、年長者――いや父らしい気遣いが滲んでいた。














研究所地下の隔離分析室での打ち合わせを終え、部屋から出ようとすると局長が声をかけた。




「レン。


これを部屋に帰ってから確認してくれ。



この幻影も気になっているんだろ?


称号が休みになった間にこれも今後の対策を考える必要がある。


対策は今すぐでなくていいが、寝る前までに一度内容は確認してくれ




あと、それ機密扱いだから部屋で一人で見ろよ。


ネイト王子。そんな顔をしてもだめだ。



これは研究所の仕事で臨時の応用ではなくこれからの研究に組み込む必要があるからレンじゃないとダメなんだ。」





仕事を振られ、眉をあげ不満を表すレンと仕事を振られずとても良い笑顔のネイトにジョッシュは呆れながらそう伝える。




納得はしなくても、お互い立場があるのもわかる二人は場を濁し、レンは書類と小さな投影の魔道具を手に取り、ネイトは懐から通信機を取り出し、静かに言った。





「私は一度サイラスと話してきます。彼にも王宮や私の仕事周りに確認を一度したいので。


連絡は逐次、こちらからも入れるようにしますが、何かあったらすぐに連絡を貰えますか?」



「了解。……気をつけろよ、ネイト王子」






局長がごねられなくてよかったと顔に書いてあるのをしり目にレンが軽く手を振る。



ネイトはふっと笑みを返し、背を向けた。











ネイトを見送り、レンとテオも夕食の時間にも近くなり込み合い始めたカフェテリアへと移動した。



ドアが開くと、ふわりと香ばしいコーヒーと甘い菓子の匂いが漂ってくる。





「……腹減ったな」





テオが腹を押さえる。





「さっき軽食食ったばっかりだろうが」





レンが呆れた声を出すが、テオはまったく気にせずカフェの奥を見回す。



すぐに、ケイリーとエオスが一角のテーブルで手を振っているのを見つけた。





「ケイリー! エオス嬢!」





テオが大きな声で手を振り返し、レンも仕方なくその後に続いた。













席に着くと、ケイリーが柔らかく微笑んだ。





「御義父様のところ、大変だったみたいね?」


「……まあ、いろいろとな」





レンが椅子に深く腰掛けながら短く答えた、そのときだった。


別方向から、ひょっこりと現れた人物がいた。





「よう、オリバー!」





テオが声を上げる。


オリバーは手にトレーを持ったまま、こちらへとやって来る。





「お疲れ。なんか、局長の部屋に呼ばれてたんだって?



お嬢さんらについてはミレイア様の担当になって、俺もこっちで「レンの補佐を」と言われてきたんだがいまどうなっているんだ?」





「ああ、説明はそれしか受けてないのか?」




レンがオリバーの様子に気づき、目を細めると、オリバーは肩をあげて答えた。


そして言い淀んだ後、ぽつりと落とした。





「……ミレイア様が、あのお嬢様方の担当になったって、大丈夫なのか?


あの別館貴重なものも沢山あるんだぞ?


保護の魔道具とかちゃんと使っているのか...?」





ピタリ、とカフェテリアの喧騒が遠のいたように感じられた。




レンは肩を揺らさず、低い、地を這うような声でただ一言。





「……さすがに、いや、どうだろう……。


あの人は…連絡を入れたほうがいいのか…?」



「レンでもわからないのか...」





オリバーは真っ青になり、トレーのカップを危うく落としそうになった。


エオスもそんなオリバーの様子にわずかに身を縮める。





「あの……レン殿下のお母様って、どんな方なんですか……?」




エオスがおずおずと尋ねる。


レンは鼻で笑った。





「研究所内ではレンでいい。殿下は必要ない。


……まあ、そうだな。


局長や所長が可愛く見えるぐらいには―――


厳しい、いや自由というか「あれ」な人だ」





エオスは思わず口に手を当てた。




「……所長や局長より、厳しい…え?自由…?



  えっ、それは……」




「ただ俺たちの平穏な日々は、思ったより早く戻ってくるのかも知れないな。


 ―――あとは母上が破損するまでの事をしていないことを祈ろう」




ケイリーがくすりと笑い、オリバーも苦笑を浮かべる。













空気が少し和んだところで、レンがテーブルに肘をつき、皆を見回す。





「で。エオス嬢。


連絡があると思うが、安全が確認されるまで寮での待機となる。


他のメンバーもそれぞれ役割が決まっているから、他の人間が出ているからと出歩かないように。




守らないと最悪の場合、研究所から退所させることになるから忘れないようにな。」





エオスが目を丸くする。





「えっ、そうなんですか? 」




「ああ。


ここは、あのお嬢さんらの相手が終わった母上と、あとお偉いさん方の指揮本部になるらしいからな。」





オリバーは頭を抱えた。





「あああ……、機材とかはどうするんだ。


 仕方がないにしても準備期間が欲しかった」





レンは淡々と言い放つ。





「もうどうしようもない。どうせまたすぐ変わる」





エオスもオリバーも、新たな環境に向け、それぞれ静かに息をついた。











「悪い。先に休む」




皆が話している中、カフェテリアで簡素なデリパックを受け取ると、レンは一言つげて静かに立ち去った。





この日だけ割り振られた仮設部屋へ向かう。











仮部屋は、必要最低限の家具しかない無機質な空間だった。


レンはデリをテーブルに放り出すと、無言で小さな投影の魔道具を取り出した。


それは、局長室で受け取ったばかりの特別資料。





――レンは魔力を軽く流し、起動する。





先ほど見た月花の映像とはまた違う。


過去のまるで―――本当に生きているかのような立体的な月花の記録だった。








――――――――――






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