break it fast!!
コンコン「朝食が出来上がりました。ダイニングでお待ちしております。」暗転した意識をしわがれた声の天使が朝食への誘いで覚醒させる。急いで準備を済ませ、ダイニングへ向かう。時刻はちょうど7時を指している。昨日の面々は既に揃っているようだった。
佐々木生死牢、一人を除いて。「ああ、彼ですか。彼は荷物が無くなっていたので、もしかしたら早朝お帰りになられたのかもしれません。この食卓も寂しくなりますね...。」と天使が料理を運びながら説明する。その食卓には昨夜のような活気はなく、カチャカチャと食器の音が鳴るばかりであった。食卓を囲むメンバーの様子もどこかおかしい。紬は着けていた眼鏡を外し、源太郎は右腹を押さえ、金次は夕食時飲んでいた薬を持ってきていない。食事も簡素なもので、食パン1枚に、目玉焼き、ミルクが並んでいる。「誠に申し訳ございません。昨夜の寒さで水道が凍ってしまって、水を使う料理がご用意出来ませんでした。まあ、よくあることなんですが...」天使がこの澱んだ空気を払拭しようと、冗談めかして言った。
手早く食事を済ませた一同は食後の祈りのためダイニングからチャペルへ向かった。「おい、天使さん。なんだか嫌な予感がする。鍵束があるなら持っていくのがいいだろう。」ダイニングを出てすぐのところで金次は言った。「...?はい、かしこまりました。」と天使が承諾すると、キッチンの奥に戻りじゃらじゃらと鍵束を持ち出した。裏口に到着し、扉開けると、雪はすでに止んでおり新雪が高く積もっている。しかしその中で一際目立つのは、裏口からチャペルへと伸びる2つの足跡だった。「なんだぁ?先に誰か来てんのか?」といぶかしげに源太郎は言った。「はて?扉が開きませんね。鍵は開けたままにしていたつもりですが。少々お待ちください、ただ今鍵を使って開けますので。...あれ?」天使が鍵をカチャカチャと回しながら扉を押すがビクともしない。「しょうがねぇなぁ。普段使わないならもういいだろ?...ふんっ。」源太郎はフラフラと身を乗り出し、その恵まれた体躯をバネのようにしならせ、音速の左腕を振りぬいた。
鍵はバキィッと豪快な音を立て、丸太のような剛腕はずっぽりと扉に収まった。源太郎が腕を引き抜くとその穴から勢いよく風が吹き出し、ミシミシと音が鳴った。と同時に扉が外側へとはじけ飛んだ。何とか扉には当たらなかったものの、その衝撃波に皆驚きを隠せない。「おいおい。どういうことだこれは!」「びっくりした~!。」と吹き飛んだ扉の残骸からチャペル内部へ向き直ると、不愉快なぐらい生暖かい風と、異臭が漂ってきた。
不快感を露わにしながら中に入ると、そこには変わり果てた聖域の姿があった。飾ってあった雑貨や小物類は散乱し、椅子や机の一部が破壊されている。そして嫌でも目に付くのが半ばからポキリと折れてしまった十字架。昨夜の威厳はどこへやら、地に落ちた十字には人が磔にされている。いやそれはもう人とは呼べなかった。すでに物へ、焼死体へと変わってしまっている佐々木生死牢だ。かろうじて人であったと認識は出来るが体の所々はすで灰になっており、顔の半分は骸骨のそれへと変貌している。これが罰だとするなら、彼は一体どんな罪を犯したのだろう。カランカランと寂しそうに響く鐘の音は歓迎を告げるものから、終焉を告げる音へと様変わりしていた。