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前世魔王の私、婚約破棄されてヤサぐれた結果狂犬に。しかし素敵な飼い主が見つかりました。

作者: みき

読みにきてくださりありがとうございます。

楽しんでいってくださいませ。

 レーカー伯爵邸にある決闘場。


「ふははは!何を寝てる!まだ戦いは終わっていないぞぉ!」


 白磁の武舞台に転がる木剣を手にした30人の血まみれの男たちを前に、私は高らかに笑うと、


「仕掛けてきたのは貴様らだ!無事に帰れると思うなぁぁ!」


 青ざめた顔で震え上がる男どもに木剣を構え、


「血祭りだぁぁ!ヒャッハァァァ!!」


 邪悪な笑みを浮かべ飛びかかった。その様を見た男たちは、


「「「ま、魔王!」」」


 と口々に震えながら言った。


「そうです!私が前世魔王です!」



………

……



 無駄に豪華絢爛なシャンデリアが煌めく国王執務室。


「今……なんと?」


 ヤサグレ前のお淑やかな私は、それは誰が見てもその美しさに目を奪われる見目麗しい令嬢じゃったぁ。


「婚約破棄だ!」


 彼ーー『ジス・ミルカ』は、そんな見目麗しい私を前にして、ピンクの髪がなんとも愛らしいクソ女!……間違えた。見目麗しいブスを横に置いて婚約破棄を宣言した。


「お前のようなバケモノを女としてみろ……そんなことできるわけないだろ!」


 イラついた様子で言った。


「消えろ」


 突然のことに絶句した私は、ジスの使用人たちによって王城からポイされた。


「……」


 言葉が出なかった。


 前世ーー魔王として勇者と相打ちで死ぬまでの16年の人生……魔族は人ではないから人生というのもおかしいな……まあ、いいか。


 それを振り返ってもここまで混乱したことなんてなかった。


 転生してから強いものが全て正しいミルカ王国で私が継ぐ予定の伯爵の地位を狙ってくる領民たちを薙ぎ払う日常の中で、納得のいかない王命によって無理やりジスと婚約させられた。


 ジスは国王の一人息子、それに70になってやっとできた念願の我が子だった。


「是非ともジスにこの国を継がせたい!」


 そう言って国王は、当時すでにミルカ王国で敵なしだった5歳の私を呼んで土下座して頼んできた。なぜか頬をひくつかせながら青筋を浮かべていたけど。


「しかしジスは魔力を持たぬ!このままでは国王の椅子を狙う市民どもに殺されてしまう!どうかお前の力で我が子を守り抜け!これは王命だ!従え!」


 地に伏したまま偉そうなことを言う国王。


「……」


 とりあえず教育しておいた。


「あなたさまのそのすんばらしい!もうこの国で並ぶものがいない天下無双のお力を!このおいぼれの願いを叶えるためにお貸しくだせぇ!」


 四つん這いの国王に私は腰掛け、必死に訴えるその願いを叶えてやることにした。


 昔から私には変なクセがあって、怯えながら頼ってくるものに愛着が湧いてしまう。まるで子犬のようで放っておけない。だから、


「お前が『エリザベス』……か」


 本当は逃げ出したいくせに、なんとか王子の威厳を保とうと必死で恐怖に抗うジスの姿に私は愛着が湧いた。


「王子の地位は俺のもんだ!」


 弱っちいジスは毎日のように狙われた。


 「ママ~食べられないよぉ」とメイドに甘える時、「ママ~」とメイドに甘える時、「抱っこ!」とメイドに甘える時……メイドは嫌々ながらも仕事と割り切って対応していたけど。


 私はそいつらを蹴散らした。その度にジスは私に恐怖しながらも「ありがとう」と尻尾を振った。


 そして婚約を結んで10年、私は毎日のように狙われるジスを守り抜いてきた。


「婚約破棄だ!」


 私以外の女を横に置き、突然ジスは私に噛みついた。


「なんてことない。私に尻尾を振っていた子犬が少し噛み付いただけのこと……」


 というにはあまりにも気分が沈んだ。心に大きな穴が空いてしまったような喪失感。


"ありがとう"


 前世と今世を見渡してもそれを言われたことなんて一度もなかった。自分が思っている以上に"情"がうつってしまっていたようだ。


(なら、いっそのこと力で……)

 

 とも思ったけど、


"これからはこの「ヒナ」と二人で争いの絶えないこの国を対話をもって平和にしていく"


 執務室から運び出される前にジスはそんなことを言っていた。


「……」


 私は振り返り、しばらく白亜の城を見つめたあと歩き出した。


 それから自領に戻った私は、不在の期間に居座っていた領民を蹴散らし、再び「伯爵」として君臨すると、その座を狙って毎日のように領民が襲ってきた。


 そして心にポッカリ穴が空いた私は、


「血祭りだぁ!ヒャッハァァァ!!」


 ヤサぐれて狂犬となった。


 その様から「世紀末令嬢」と呼ばれるようになった。


 理由は「ヒャッハァァァ!」といえば世紀末だから。


 そして今日も今日とて楽しい楽しい血祭りだ!


「さあ、お前たちの血は何色だぁ?」


「ひっ!」

 

 木剣を舌なめずりし、まずは一番近く……


「残念だったなぁ!まずはお前からだぁ!」


 と見せかけて1番遠くに転がっているヤツに照準を定め襲い掛かった。


「お、おお、おたすけぇぇ!!」


 震えながら命乞いをする男。


「……たくっ!しょうがねえな」


 怯えながら懇願する男の姿がどこかジスと重なったように見えた私は斬撃を途中で止めると、ため息を吐きながら木剣を腰の鞘にしまった。


「ふぅ……」


 男は安堵の息をもらした。


「夜襲を仕掛けた挙句に、私の屋敷を吹っ飛ばされたから私も頭に血が昇ってしまった。今度からはしっかりと正面から挑みに来い」


 私は男たちに言い、


「今回のことはこれで目をつむってやる。わかったら今日の農作業に備えてさっさと帰って寝ろ」


 今回の襲撃の被害を唯一受けなかった屋敷別邸へと歩き出した。


「「「あ、ありがとうございます!」」」


 よかった、と喜び合う男たちは、


「な。噂通り震えて命乞いするヤツは見逃してくれただろ?」


「ああ。とんだ甘ちゃんで助かったぜ」


 仲間同士でヒソヒソ話し合う。


「……聞こえてんだよ」


 しかし聞こえないように話していた会話の内容も地獄耳の私には丸聞こえだった。


「アヒャヒャヒャッハアア!やはり……殺!」


 振り返り様に木剣を抜き放ち、


「死ねぇぇ!!」


「ひぃぃぃ!!」


 男たちに斬りかかった。その時


「っ!」


 背後の方から絶大な……まるで世界最強の古龍を思わせる気配に私は思わず動きを止めて振り返った。


「ちょいと失礼しますよぉ」


 その男は屈強な肉体に無精髭をたくわえ、片手に酒瓶を持って千鳥足で歩いてきた。


「なんだ!」


 ふざけた男の様子にイライラが止まらず声を荒げた。


「そーんな怒んなくてもいいじゃないっすかぁ、ひっ、うぇぇ……ただちょっと催したくなりましたのでおトイレをお借りしにやってきた次第であります!……ひっく」


 これまたふざけた態度で敬礼する男に、


「そうか……なら、死ね!」


 怒りが沸点を超えた私は、殺意全開で斬りかかった。



………

……



「うぃぃ……急に斬りかかってくることないじゃないですかぁ……ひっく」


「ず、ずびばぜん」


 斬りかかって5秒……私は男に土下座していた。ボコボコに腫れ上がった顔で。


「まるで狂犬だぁ……そんなあなたにプレゼント」


 男はそう言うと亜空間を出現させ、


「あーれー……おお!これこれぇぇ」


 何かを探し始めるとしばらくしてお目当てのものを発見したようで嬉しそうに笑うと私に近づき、


「隷属の首輪ァァ!」


 私に首輪をつけやがった。


「な、な、何してんだテメェ!」


 私が叫ぶと、


「今日から君は僕のイヌー!よろしくね、ポチ」


 頭を撫でられた。


「って誰が!……キャン!」

 

 飼い犬につける定番名前ランキング一位というありふれた名前に不服だったわたしがツッコもうとしたら、隷属の首輪による絶対服従が働き可愛らしく鳴いてしまった。


「よーしよーし!」


「キャン!ハッハッハッ……じゃねえぇぇ!もっと私に相応しい名前にしろぉぉぉ!!」



◇◇◇



一方その頃……ジスたちはというと。


「ヒャハハハ!あのバケモノ女がいなけりゃこんなもんだぜ!」


「何が話し合いだ!バカバカしい!この国は力が全てなんだよ!弱い奴はただ淘汰されるだけ!それがこの国の当たり前で日常なんだよ!それもこれもお前たち王族がそんな国にしたんだろ?今さら話し合いで平和な国?……バカじゃねぇのか」


 エリザベスがいなくなった王城を王都民に襲撃された。


「話し合えばわかる」


 ジスは歩み寄ろうとしたが、現在の力至上主義になって500年。今さらそんなことで分かり合える人間なんてこの国に存在していなかった。


「こ、こんなはずじゃ……」


 エリザベスを放り出し2週間、140代国王ーージス・ミルカはその地位を奪われた。



◇◇◇



「エリザベス!伏せ!」


 隷属の首輪を付けられて1週間。


「バウ!」


 元エリザベス・レーカー伯爵邸、現レイスト・ブラック伯爵邸の庭園にて、二人の男女が仲良さそうに戯れていた。


「よーしよし!偉いぞぉ!」


 男は首輪に取り付けられたリードを手に、愛しい女の頭を撫で、


「バウ!バウ!」


 女はそんな男に嬉しそうに撫でられている。


「あははは!」


「ハッハッハッ!」


 仲睦まじい二人。使用人たちもそんな二人を微笑ましげに見守る。


 来月には婚約を発表する予定の二人。きっと幸せな未来が


「……待ってるわけねぇだろぉぉぉ!」

最後まで読んでくださりありがとうございます。

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よろしくお願いします。

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