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7アランside2

「……父上、申し訳、ありませんでした。俺が、馬鹿でした。領地の勉強を逃げてばかりで何も知ろうとしていなかった」


俺が謝った事で父の興奮は少し収まっているが、今後の事態を考えているのか頭を押さえてしまっている。


「……事実上の婚約破棄だ。我が家の責任だ。侯爵家からの技術者はすぐに引き揚げられる。せっかく我が家が持ち直してきたというのに。侯爵は娘がこのような状況では婚約を続ける事が出来ない。慰謝料は要らないと言っていたが、こちらとしてもそのままで良い訳がない」


そこから茫然自失となっていたようで父が何を言っていたのか頭に入ってこなかった。



 翌朝早くに目が覚めた。昨日の事を思い出し、重い身体を無理やりに起こし部屋の中を探し始める。ガサガサと探し始めてようやく見つけた。

 クローゼットの奥にしまい込まれた手紙の束。封を切られることのないままそれは束ねられて置いてあった。


 俺は覚悟を決めて一枚ずつ封を切って手紙を読んだ。俺の体調を気遣う内容や庭の花が綺麗な事、今日は何を勉強したのか、兄と喧嘩した事などたわいもない話が書いてあった。そう、なんでもないたわいのない話ばかり。


だけど、今になってマノアの気持ちに触れた。涙が止まらない。


後悔ばかりしている。今は毎晩マノアが元気になるように祈りを捧げる。




 その後、父と執事のガルボに謝り、俺は領地に向かう事にした。俺がやれる事は少ない。だが今までやってこなかった分をやるしかない。

父は王都で仕事があり領地に赴く事はできない。母が偶に領地に帰って仕事をしているのだという。

 領地でやらなければいけない事が沢山あるけれど今の俺は何も出来ない。


父は慣れるまでガルボを付けてくれるようだ。これからは期待を裏切らないように頑張らねばと思う。


「坊ちゃん、領地に帰る前に必要な物を買いに行きましょう」

「そうだな。ガルボ、有難う」


 そうして俺はガルボと護衛と一緒に平民の服を着て街に出掛けた。領地では毎日視察をしたり、手伝ったりもするらしく動きやすい平民の服も沢山必要なのだとか。それに自分一人で身の回りの事をしなければいけないとガルボから聞いたので必要な日用品を中心に買い物をしていた。


「坊ちゃん、これで準備は整いましたね」


 ガルボと話をしていると、視界の端にはノーラが映った。今はまだ療養と称した謹慎中なのではなかったのか?

俺は不審に思い、気づけば後を追っていた。当然ガルボも護衛もノーラに気づいたようで黙って俺の後に付いてきてくれている。


 彼女は目的があるようで雑貨店等に目もくれず早足で路地裏に入ると一軒の店に入っていくのが見えた。ここは何の店だ?俺は路地裏に入った事が無かったので不思議に思っていると護衛の話ではどうやら酒を提供している店らしい。

 貴族が来るような店ではないが平民の中では割と有名なのだとか。


それにしても昼間から酒を飲んでいるのか?



 俺は疑問に思いながらもそっと店に入った。店の外は扉一つでよくわからなかったが、中に入ると思ったより広くて客も多く昼間からエールを飲んでいる人達が多くいた。


「昼間からエールを飲むものなんだな」

「そうですね。仕事終わりや休日の人もいますから」


 護衛の言葉に俺は納得する。ノーラはというと知り合いの男がいたようで真ん中の方に一緒に座ってエールを飲み始めていた。

 俺達はノーラに気づかれないよう後ろの席に座った。昼間からエールを飲むことに少し抵抗感があるが、飲み屋に来て何も注文しないのは怪しまれる。

 ガルボは人数分のエールとつまみを幾つか注文した。


そして乾杯をすると、後ろから大声で笑っている声が聞こえてきた。どうやら彼女は酔いが回ってきたらしい。俺達は頷き合い、耳を傾ける。


「キャハハハ。楽しいわっ。私もあと少しで伯爵夫人よ!私に感謝しなさいっ」

「流石伯爵夫人!計画通りだな」


計画通り……?


その言葉に一同眉間に皺が寄った。


「そうねっ。あの女はもうすぐ死ぬわっ」

「でも毎日解毒剤飲ませているんだろ?治りそうだがな」

「馬鹿ね。毒は一種類だけじゃないわよ。貰った毒にほんの少しだけカテ草の茎を粉にして混ぜたのよ。ほんの少しだから医者は気づかなかったようね。飲んでいる解毒剤だけでは治るわけないに決まっているじゃない」


……カテ草の茎?


 俺は毒のある草なんて知らなかったが護衛の顔色が明らかに変わった。護衛はカテ草の茎の事を知っているようだ。


「抜け目ないな!流石俺の相棒。何も知らない旦那は幸せだなっ!こんな女が伯爵夫人になるなんておー怖っ」

「怖くなんてないわよぉ。アランの前では猫を被っているに決まってるじゃない。彼は格好いいし、周りからの評判もいいのよ?私もそろそろ噂が広まって貴族界では真実の愛を貫いたヒロインになっているはずだわっ。真実の愛を邪魔する女は死ねばいいわっ」

「俺の考えた事をそのまま実行するなんてなっ。ククッ。騙される奴等が悪いんだぜ」


 それからもノーラは男と仲良くエールを何杯も飲んで楽しく会話をしていた。反対に俺達は真実を知って三人とも怒りを堪えるのに必死になっていた。


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