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12.兄来たる

式典を明日に控えた日、やって来たのは父ではなく長兄のルークだった。父は落馬して腰を痛めて動けないという、珍しいことだ。

「副将軍閣下自らのお出迎え、痛み入ります」

兵の前では仰々しい様子の兄だが、3人だけになると態度が変わる。

「久しぶりに来たが相変わらずデカい屋敷だな」

「家は縮んだりしない」 

「無礼な兄ですみません」

「シャーリーが謝る必要はない」

アルフレッドとルークは同級生だった。固いフレッドと軽い兄だが仲は悪くないらしい。


メイドと護衛を隣室に下がらせると、兄の表情が変わった。

「落馬は嘘だ、親父が嫌な予感がするというので、残ってもらった」

「レーゲンスブルク卿が?」

「親父の予感はよく当たる、戦場生活が長いからな」

「兄様は離れて大丈夫なの?」

「陛下にも伝えるためだ、こちらも備えた方がいい。式典と夜会には帯剣の許可を得たい、フレッド、進言してくれるか?」

「もちろんだ」

兄がこれだけ慎重になるなら、予感は方便で裏付けがあったのだろう、不安で胸がざわざわする。


そんな私の不安を打ち消すように、兄は明るい声で話題を変えた。

「愛称呼びとは、滞在中にずいぶん距離が縮まったようだな」

「兄様と違ってフレッド様は気遣いしてくれますから」

「でも良かったよ、踊ってもらえなくて泣いてたおまえは流石に可哀想だった」

「ルーク、それは…」

「兄様!」

「痛い!ヒールで踏むなよ。じゃ、俺は移動で疲れたから休ませてもらうよ」 

そう言って兄は部屋を出ていってしまった。


フレッドと2人きりで残されて、気まずい沈黙に耐えられず口を開いた。

「あの、若き副将軍で数々の武勲を上げられた殿下に憧れている令嬢は沢山いまして…。私もそんな中の一人で、一度だけダンスに誘われたら一生の思い出になると思ったのです。本当にそれだけで、今は反省して二度と殿下を煩わせないと自分に誓いましたので、安心してください」


「…私は貴方を泣かせていたのか」

「いえ、私が子供だからです。自分から動くこともしなかったので、本当に殿下は気にしないでください」

「殿下ではなく、フレッドと」

「あ、はい」

「…明日の夜会は私にエスコートさせてもらえないか?」

「それは困ります」

「なぜ?挽回する機会をくれないか?」


辺境伯領の小さな夜会とは違う。王宮にフレッドと同伴したら、『父親の威を借りて王弟殿下に取り入ろうとする田舎令嬢』と揶揄されることだろう。

そう説明して、フレッドの申し出は辞退した。

「それに2人目を身籠った義姉から、ルーク兄様をしっかり見張るよう頼まれておりますので」

「ルークは愛想が良すぎて誤解されやすいからな」

とりあえずエスコートは断れたが、ダンスは申し込むと宣言されてしまった。

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