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レーゲンスブルク辺境伯領

辺境伯の要塞に早馬が到着した。

「閣下にご報告します。アハト軍が国境に進軍。ルーク様の第一部隊と接触しました!」

「すぐに援軍を派遣する。エドガー準備はよいな?」

「第二部隊、出立の準備が整っております」

「王軍が到着するまでは、守りに徹し被害を最小に抑えろ」

「承知」


「お兄様ご武運を」

「お前も無茶はするなよ」 

「分かってます」

妹のシャーロットがぷっとふくれてみせる。

兄妹のやり取りに張り詰めた空気が少し和んだ。

『3人共誇れる子供達だ』

辺境を統べる将軍レーゲンスブルク辺境伯は一瞬父の顔になったが、執務室に入ると冷徹な指揮官に戻っていた。


「シュタイナー副将軍閣下の率いる王軍が到着しました」

「シュタイナー閣下をこちらへ」


足早に金髪で背の高い美丈夫が入ってきた。

アルフレッド・ヨハネス・シュタイナー、王弟ながら実力で昇進を続け28歳の若さで王国軍の副将軍の座に就いている。

「閣下自らのお越し痛み入ります」

「レーゲンスブルク閣下の働きに感謝する。本題に入ろうか」


2つの国の国境に接する辺境伯領、交戦的なアライジャ公国とは長年小競り合いを続けてきた。対策として時間をかけて領のあちこちに魔石による罠を仕掛けてある。


「『光の檻』に追い込んで、ひとまとめに拘束します。閣下の隊には北西からの攻撃をお願いします」

「承知した」


辺境伯の娘シャーロットはもうすぐ20歳になる。一昨年王都の学園を卒業して、辺境伯領に戻ってきた。

長兄の兄ルークはアルフレッドの同級生で既婚で、妻は2人目を妊娠中。次兄のエドガーは23歳、婚約者がいないのでかなり人気がある。3人の母は4年前に病気で亡くなっているが、辺境伯はそのまま独り身でいる。


シャーロットは診療所の建物の前でアルフレッドの出立を見送っていた。黒鹿毛の馬に乗る彼の金髪が陽に輝いてとても綺麗だと思った。

シャーロットは去年まで王都の叔母の家から、王立学院に通っていた。その時に何度か凱旋するアルフレッドを見かけ、密かに憧れていた。

アルフレッドは戦場で自分の姿を隠さない。わざと敵の注意を引きつけて、味方を動きやすくする。そのやり方は有効だがとても危険だ。


(副将軍閣下は自分の命を重くみていない)

それは危ういことだとシャーロットは思う。王弟殿下という立場でいらっしゃるのになぜなのか?

負け戦が続いているアハトの軍は疲弊している。父は今日決着を付けるつもりかもしれない。

兄達とアルフレッドの無事の帰還。兵にも死人が出ないようにと祈り、シャーロットは執務室に移動して戦いの行方を見守る。



領内での戦いとなれば、地形を熟知している辺境伯軍は圧倒的に有利だ。徐々に敵軍の包囲網を狭め、罠の発動の準備をする。

だが事態が悪い方に動いた。伏兵に襲撃された王国軍の一部隊が敵軍の方に追い込まれていく。

「どうする、光の檻が使えなくなる」

と、ルークが単騎で部隊の前に乗り込んだ。近くの敵を薙ぎ倒すと王国軍の兵を誘導して逃し、罠の発動合図の狼煙をあげた。


「発動!」

迷いのない父の声が執務室に響く。 

「閣下、あの位置ではルーク様も檻に囚われます!」

側近が叫んだ。

光の檻はスピードを上げ敵兵を囲む、そこに残ればルークは嬲り殺しとなるだろう

「ルーク兄様!いやあぁぁ!」

シャーロットは思わず叫んでいた。


完全に檻が閉まる直前に中で何かが弾け、兄の馬、続いて黒い馬に乗った騎士が檻の僅かな隙間から脱出した。

「ルーク兄様!」

「フレッド閣下か…あの場所に転移を?」

父の声に今度は嬉しさがこもっている。

「お2人とも怪我を負われているようです」

主力兵は光の檻に囚われ、残党を味方の兵が捕縛していく、大勢は決した。


2人はただちに診療所に運び込まれた。ルークは腕からの出血が酷いが普通に喋っている。アルフレッドは馬上で意識を失って、ルークが手綱を引いて戻ったという。足にも怪我を負っている。

「馬ごとの転移は体力の消耗が激しい、散々戦った後で発動したから負担が激しかったはずだ」

治癒師と医療師がアルフレッドの手当に当たる。

シャーロットはルークの傷を縫う医療師の助手に入る。

「はい薬湯、全部飲んでね」

「うぇ、これ不味いんだよな」

「マディ先生、兄は麻酔なしで始めていいそうです」

「待ってくれ、飲む!」

麻酔の薬湯なしで縫われた経験もあるルークだった。


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