九条守 メタトロン視点
私は契約の天使メタトロン。今依り代を探してるのっ。
はい。えー、まあ探してるとはいえ、もう決まっているんですけどね、依り代は。
今高校一年生の九条守君です。隠れオタクの高校生で、見た目は普通。ただ、成績はとても優秀、と。私の依り代なんだから当然ですね。ポイントは隠れオタク、です。オタクだったら、私の依り代に二つ返事でなってくれるでしょう。
今の居場所は、……家に帰ってる途中でしょうか。今のうちに行っちゃいますか。
お、おや。様子がおかしいですね……。私のかわいい姿を見たらイチコロだと思ってたんですが。自信なくしますね……。ここは全部説明してから依り代になってもらいますか。
かくかくしかじか。
端折りながらの説明でしたが、何とか納得していただいたみたいでよかったです。これで私にも依り代ができます。さ、早く儀式の準備をしなければ。ただでさえ最後なのに、ここで時間を無駄にできません。
★★★★★★★
……、…………、ああ、そういうことですか。ここまではうまくいってますね。
儀式を終え、守の心の中に私の居場所を作ることに成功した時、思い出しました。この光景を見るのも久しぶり、というか、懐かしいというか。さてさて、とりあえずソファーとベッドでも用意しましょうか。
おや、もう私を呼びましたか。では、改めて挨拶といきましょうかね。
背後から声をかけると、守はとても驚いたように私の方を振りまきました。ふふん、かっこいいでしょう、この光輪は。少し透けているところがいい、でしたよね。少しだけ、話すことができました。もっと、話したいところですが天使長から呼び出しを食らってしまいました。残念です。
ミカエルの依り代って確か、――なんですよね。一目見ただけではただの幸薄そうな女子大生なんですが……。あれ?今こっち見ました?もしかしてばれてる?や、やめておきましょう、変なことを考えるのは。
そ、それより、今は未来のことを見ておかなくては。確か、ルシファーの依り代だから……。いました。相変わらずルシファーは翼の色を真っ黒にしているんですね。勘違いされますよ。堕天使だー、って。いや、あながち間違いではないですね。
未来にちらっと視線を送ると、こちらを見てから視線を一回外し、大きく瞬きを3回してから再び私を見てきました。……しっかり覚えているようで。あとは、ミカエルが依り代全員に自分の戦闘シーンを見せてからおしまいと。そこで強制送還。
再び道路の上に戻されました。あとは帰るだけですが、私はそろそろガス欠なので少し休ませてもらいましょう。これからもう一つ大仕事があるんですから。守の断りを得てから、守の心の中に帰ります。守の家族構成は、確か両親が別居中の一人っ子だったはずです。その上一人暮らしだったはずですから、私と話していても誰にも異常者として見られないでしょう。なぜって?私達天使は依り代かリクレッサーにしか見えない存在なんで、本人は私と話しているつもりでも、傍から見たらただひたすらひとりごと言ってるだけなんですよね。
……おやおや?これは一体……?何が起きたのでしょう?
……いえ、これはルシファーにだけ伝えておきましょう。急いで契約についての説明をしなくては。
私の契約の神性は基本的には対価を払うことで効果を得られるというものです。ここで重要なのが、契約者です。私はあくまで基本的には仲介人ですので、契約者になることはありません。では、どのようにして契約を使うのか。守一人では使えないのではないか、と思うでしょう。
しかし、その時には対価を払う相手と、その分の報酬を支払う相手が同じであればいいのです。例えば、足を速くしてくれ。その代わりに今晩筋肉痛で苦しむから、みたいな感じです。まあ、実際にはこの程度ではダメなんですが。
ここまで話せばわかるでしょうが、私は仲介人としてその契約が対等なものかどうかを判断しています。そして、契約が一度結ばれた後でも、それが途中で対等なものでなくなった場合には廃棄され、その契約がなかったことになります。
さて、ここで守。あなたには実際に契約を結んでもらいます。二つほど。
一つ目の契約内容は――――。
対価は――――。
……ふふ。こんなこともできるんですよ。すごいでしょう?鳥肌が立つでしょう?守は世界の救世主になれるかもしれませんね。
では二つ目。
契約内容は先の契約をある時まで忘れること。
対価はその間はあなたを死なせない。私が守りましょう。何があってもです。
……契約は結ばれました。さあ、今日はお疲れでしょう。おやすみなさい。
最後に三つ目の契約。
契約内容は―――――。
対価は今の私の力の――%。
これで、仕事はおしまい。さて、私も眠りましょう。
★★★★★★★
朝です。昨日は気が付いたら寝てしまっていました。おかしいですね。私は四六時中寝れる代わりに、これまで寝落ちはしたことがなかったんですが……。まあ、そんな日もありますか。
さて、今日から本格的にこの守という少年を観察していきますよー。おー!
あ、授業は真面目に受けているんですね。確か、成績は優秀だったはずですがそれでも努力を惜しまないのは好感が持てます。依り代としても十分活動してくれそうですね。あのリクレッサーとかいう化け物は私達では手出しできませんから、依り代のやる気があるのはいいことです。
おや、運動は苦手みたいですね。動きに覇気がありません。守の心の中にいるせいか、考えることは頑張ればわかりますよー?なになに?……適度な運動は大切、これは分かる。でもこれは過剰ではないか、とな?んーと……、もやしっ子ですね。私が鍛えてあげましょう。
仲のいい友達は一人しかいないみたいですね。しかも幼馴染。ならこれはかえってチャンスかもしれませんね。ぜひとも、他の依り代と親密になってもらいましょう。私も楽ができそうです。
……うーん、行動を見るだけではただの真面目な根暗野郎としかわかりませんね。少しだけ、心の奥にもぐってみましょうか。
……ふーむ、なるほど。そういうことですか。簡単に言うと重度のナルシスト、と。優秀な人ほど陥りやすいというあれですね。まあ、私の依り代に適性がありまくりですね。なんか癪ですが。あと少しで学校も終わりみたいですし、それから基本的な戦い方を教えていきましょうか。
メタトロン先生のー?戦い方教室ー!か・い・こ・うー!
はい、では早速始めていきましょうか。まずは、さくっと時間を止めましてー、何が起こっても大丈夫なようにしますよ。時間が止まっていたら、何をしても影響はない、というか干渉できないのでね。なので建物に思いっきり攻撃しても誰かに当たっても何も問題はありません。
さて、次は戦い方ですね。右胸あたりに意識を集中させてみてください。そしたら、井戸から水をくむ感じで引き出してみてくださいね。……いい感じですよー。はい、ストップ。では、それを体の外に汗をかくのと同じイメージで出してみてください。……おお、刀ですか。いいですね。それがあなたの天装、私の依り代になったことであなたに発現したものです。天装であれば、リクレッサーを攻撃し、倒しきることができます。でも、刀をしっかり扱えないとだめなので、これから特訓ですね。
……え?なぜ右胸なのかって?それはあなたの右胸には新しく神臓ができたからですかね。ちなみに私が普段いるのもここです。で、その神臓を通じて私の天使パワーがあなたの体に流れていくということです。また、天使パワーはデザイアと呼ばれることもあるみたいですね。とはいっても、無尽蔵に私の天使パワーが使えるわけでは無いので気を付けてくださいね。たとえ依り代でも限度がありますから。流しすぎるとあなたの体が壊れます。
ん?斬撃を飛ばせるのかって?まだ無理ですね。
と、こんな感じでしょうかね。まあ、習うより慣れろ、です。私がストップかけるまで振り続けてください。どの動きがいいのか、よりもまずは重さに慣れてください。
――“集合”――
特訓を始めてから二か月ほどたった時、また突然ミカエルの招集が来たわ。まったく、事前に連絡くらいしてほしいわね。……口調が違うって?ふふん、私も大人になったのよ。
そこで、タッグを決めることになったのだけどここで問題が発生。当然だけど、誰と誰が組むかでね。私としては誰でもいいんだけど、一部の依り代から不満が出たのよ。なんでも、男同士は嫌だの組む相手が男なのは嫌だのとね。中には一人がいいとかいう子もいたわね。本当に面倒くさいでしょう?結局、ミカエルが最終決定を出して、守は正義の子とくむことになったみたい。他は慈愛と誠実、裁定と節制が組んだみたいね。で、残った絶望の子は遊撃担当に収まったわ。最初から一人はかわいそうね。
その後、ミカエルから依り代全員に携帯が渡されていたわ。それを通して、連絡や任務の命令が来るみたい。まあ、ミカエルほどの力があれば、裏世界に発生したリクレッサーのこととかもわかるのかもしれないわね。
次に実際に戦ってみましょう。ってなって裏世界に行くことになったわ。ちょうどリクレッサーが湧いたのかもしれないわね。さ、守。特訓の成果を見せてあげましょう。
……おやまあ。正義の子は強いわね。完全に武器を使いこなしているわ。弓ってかなり狙ったのに当てるのは難しいのよ。特に的が動いているとね。それなのにウリエルの支援があるとはいえ、しっかりと当てられている。
それ以外は特に目立った子はいないわね。守も頑張っているけどまだまだ。もっと隙を減らしていかないと、相手が複数だと怪我するでしょうね。
それが終わったら、会議室に戻されてすぐに解散になったわ。でも
「ちなみに天使は直接戦うことはできない。許されているのは、支援だけだ。」
と、解散の直前にミカエルが言い残していたわね。そんなことみんな知っているはずなんだけど、守と正義の子と絶望の子以外は知らなかったみたい。天使との仲が悪いのかしら?まあ、私達の仲がいいから問題ないわね。
それから一か月ほどで、守もリクレッサーと戦うことに慣れてきたみたい。最初は私が支援をしっかりやってあげないと危ない感じだったのに、今では私は後ろで見ているだけよ?危なさそうだったらすぐに助けられるようにはしているんだけれども。
そんな時に、ミカエルは守と正義の子に合同任務を出してきたわ。まだ早いと思うのだけどね。それにウリエルと一緒、か……。
案の定、ウリエルは真面目過ぎね。裏世界とはいえ、私達ですらまだリクレッサーを感知できていないんだからまだ話していてもいいと思うんだけどね。無駄話はダメだ、なんて。仕方がないから、私がウリエルの話し相手になってあげたけど。それにしても、守と正義の子、確か希だったかしら、は随分仲がいいようね。これまで見てきたけど、そこまで仲がいい人は幼馴染の圭介君以外にいなかったのに。
そんな時に私の感知圏内に何かが入ってきた。間違いない、リクレッサーね。しかも数は30。多いわね。二人で倒しきれるかしら。守の立てた作戦はつまりはいつもと同じ。自分が攻撃を受けないように、後ろに下がりながらひたすら耐久戦を挑むというもの。でも、守は気づいているのかしらね?それって希ちゃんのことを全く信頼していないってことになることに。
結局、希ちゃんに全く信頼していないことがばれて、信頼するよう言われていたわね。私もそうするべきだと思うわ。信頼する相手が圭介君だけじゃ少なすぎるし。まあ、今は戦闘の方に集中しようかしら。いつも通り、遠距離からの投石攻撃を分散させるように風の結界を張って、あとは観察ね。危なそうになったら思いっきり後ろに引っ張れば大丈夫。あとは守と希ちゃんの二人でゆっくり減らしていけば大丈夫ね。
あ……。天使パワー残量を考えていなかったわ。あと少しでなくなってしまうわ。守の言葉で思い出したけど、使い切ったら守の中に戻されちゃうじゃない。それに守が気づいたせいで無茶を言い始めたわ。それにもう止められないわよ、この頑固者は。今回ばかりは私の失態ね。仕方ないわ、守の看病はしっかりしてあげましょう。
私の全力の天法を使い終わった直後、守がすごい速さで動き始めたわ。というのも普段、守は思考加速と行動加速を一時的に使っているのよ。スイッチのオンとオフを使い分けてね。でも、今は常にそのスイッチをオンにしているのよ。つまり、常に集中力を100%に保っているということになるわね。そんなことは普通の人間にはできないし、できてもすぐにエネルギー切れを起こしてしまうでしょうね。それに問題はそこだけではないの。今回の契約だと、守が力を使えば使うほど私の天使パワーが守の中に流れていってしまうから、使いすぎると天使パワーに体を壊されてしまうのよね。つまり、今守は全滅させられるか、自壊するかの瀬戸際というわけね。まあ、自壊する前に私が無理やり止めるのだけど。
……何とか全部倒しきれたみたいね。それにしても、希ちゃんまで最後にあんな捨て身の行動をとるとはね。似た者同士じゃないの。
パチン。と音がした。
次の瞬間には守の部屋に移動していた。