合同任務 後
「こんな感じの作戦はどうだ?」
守君が突然そんなことを言い出しました。それにしても作戦ですか。私が遠距離しかできなくて、守君は近接しかできない、っとなると取れる行動も限られてくると思うのですが。私には思いつかない作戦が思いついたのでしょうか。
「まず、最初に希が狙撃銃であの真ん中に攻撃を撃ちこんでくれ。」
最初に切り札を切ると。まあ、数を減らすというためであれば当然といえるでしょう。数はそれだけで脅威になりますから。私はリクレッサー2体に囲まれたらそれだけで詰んでしまうでしょうし。
「そうしたら、敵の数も減るだろうが当然やつらも俺たちの場所を明確に認識する。攻撃をした希の方にリクレッサーのやつらは殺到するだろう。」
そうなるでしょうね。リクレッサーは何となくで私達の居場所を把握してい移動しているみたいですが、攻撃をしたらこちらの居場所をしっかりとわかるようになるようで、一気に攻撃した人の方に走ってきます。ソースは私。
「そこを俺が止める。まあ、止めるって言ってもやつらの行動を遅らせるって感じか。基本的にはひたすら逃げと防御だけ。少しづつ後ろに下がりながら飛び出してくるのがいたら、そいつだけ攻撃する。」
なるほど。確かに後退しながらひたすら防御していれば、囲まれることもなく安定するでしょうけど。でもそれはあくまで何もしないよりまし、といったところでしょう。とても危険な行為です。特に刀を持って数か月の少年にとっては自殺行為に近いはず。
「そこを弓で攻撃してくれ。危ないと思ったら希も後ろに下がりながらでいい。安全で攻撃が当たる距離を維持してくれ。」
なぜ私の心配を?守君の方がはるかに危険でしょう?気を少し抜いただけで、囲まれそうですが。
「それはかなりリスキーなのでは?少しのミスで致命傷につながりかねないと思いますが。」
「ああ、大丈夫だよ。最近刀の使い方とかの練習もしてるし、メタトロンもいるしな。
それに死にそうになったら、その時は全力で逃げるよ。」
……本当に?嘘ついてません?なんか少し目が泳いでいるような気がしますが。もしかして……。
「そうですか。それでは、その時は私の所に来てください。近いほうが私の弓もしっかり当たりますからね。」
「そしたら、希が危なくないか?近接の攻撃手段がないのにリクレッサーを近づけたら、万が一のことが起こるかもしれないぞ?」
「私にはウリエルがいるので。それに守君も守ってくれるでしょう?」
守君はポカンと口を少し開けてフリーズしている。ああ、やっぱり守君も同類ですか。天辺高校のテッペンというのを噂で聞いてもしかしたらと思っていましたが。それにさっき言っていた作戦も露骨ですね。
「私とあなたはタッグです。私のこともしっかり頼ってくださいね。」
その私の言葉で、守君もピンときたようで、でもどこか納得したような、安心したような表情をしました。
「……まったく。希もかよ。
……分かった分かった。今回は希のことを頼らせてもらう。」
「今回も、ですよ?」
「……善処する。」
ものすごい微妙そうな顔しながら、守君はそう言ってくれました。ようやく見つけた同類です。見逃す手はありませんね。守君は大きく深呼吸を一回すると、
「まあ、1分後にやつらの中心に攻撃頼む。」
と仕切り直すように言いました。
★★★★★★★
――まったく、なんで前に出てくるかな。
目の前で矢が刺さったリクレッサーが消えていくのを見ながらそう心の中で軽く毒づいた。ちらっと後ろを見た時、20メートルくらい後ろに希の姿が見えたんだけど。
「やるわね。希?だったかしら?弓持って近接戦挑むだなんて。」
「そう!メタトロン、もう一回頼む!」
全力で後ろに飛びながらメタトロンに話しかける。希がいなかったら、あそこで死にはしないだろうけど大怪我くらいは覚悟しなければいけないところだった。
「はいはい。――天法・シルフの羽衣――。」
メタトロンの声と共に俺の前に風の膜が再び現れた。そこに同じように突っ込んでくるリクレッサーの集団。……やっぱり知能がこいつらにはなさそうだな。まあ、罠とかしかけられたらそれだけで危険度が急上昇するからそのままでいいんだけど。
当然のように体勢を崩したリクレッサーを刀で切りつけ、もやに戻す。そいしてそこを狙ったかのように後ろから矢が飛んできて、もう一体を消滅させた。
――残りは15体、か。多いな。まだ半分くらいか。
「メタトロン、あとどれくらい使える?」
「そうね。あと5回といったところかしら。それだけ使ったら私はあなたの体の中に強制的に戻されるわ。」
5回が比較的安全に戦える回数。一体ずつだと10体残るか。希の弓のことも考えると、最低でも5体残る。裁定でもそれだから、当然それ以上残ることもあるだろう。っていうか、ほぼ100で残る。
「……多少の無理は必須っぽいな。」
「あら、それは私が禁止にしたはずだけど?まだ、守の体はそれについていけないって言ったわよね。前回使った時のことを忘れたのかしら?」
「今回は目をつむってくれ。踏ん張りどころなんだ。」
「……分かったわよ。看病くらいなら私がしてあげるわ。」
メタトロンは手のひらの上に魔法陣を展開させながら、渋々とそう言ってくれた。そんなメタトロンの言葉を聞いて、少しホッとする。一回試して倒れて以来、試そうものならリクレッサーを放置して連れて帰ろうとしてきたからな。
「全力全開で行くわよ。――天法・シルフの逆鱗――。」
メタトロンの手のひらの上の魔法陣が消えると同時に、前方の上空から突然風がとてつもない強さで地面に向かって真下に吹きつけられた。あまりの風圧に巻き込まれたリクレッサーは片膝をついて、動けないでいる。重力魔法かな?それに……なんか俺に向かって跪いているみたいだな。いや、今はそうじゃない。あと少しできっとメタトロンの天法も効果が切れてしまうだろうし。しっかり準備しておかないと。
目をつむって、意識を集中させる。海に潜るように、深く、深く……。
大きく息を吐いて、吐ききったら、ゆっくり目を開ける。
すると、ちょうどメタトロンの天法が効果を失ったようで、リクレッサーが動き始めようとしていた。
「今よ。やりなさい、守。」
そのメタトロンの疲れたような言葉と同時にまっすぐリクレッサーの集団の方に走っていく。自分の体はいつも通りに動いている感覚だが、リクレッサーの動きは普段の半分くらいの速さに見える。あっという間に一番手前のリクレッサーの所にたどり着き、刀を軽く振り胴を半分に斬った。もやに変わる様子を確認もしないで、次のリクレッサーも同じように斬る。今度は起き上がろうとしていたせいか、無防備になっていた首を切り裂いた。
その時、後ろから希が放った矢が少し離れたリクレッサーに迫っているのが見えた。でも、残念なことに少しずれている。これじゃ当たっても腕だろう。だったら、軌道修正してあげればいいだけ。
「ふっ!」
その希が狙っていたリクレッサーに、その通り道にいたのを胴を分断して倒してから軽く蹴りを入れた。すると、ちょうど矢が当たるような場所に移動させることができた。
トンッ!
矢がきれいに当たったのを見てから、近くにいたリクレッサーを次の標的に見据えた。でも、もうすでに体勢を立て直してしまっていた。これじゃ、一撃で倒すことはできないな。あと残りは10体。
それでもやることは変わらない。まっすぐ距離を詰めて、思いっきり刀を横凪に振る。少し後ろに逃げられからか、右腕しか斬れなかった。そしてカウンターのように残った左腕を振るってきた。
普段であれば、当たっていただろうけど今の俺には当たらんよ。
振り切った刀を全力で引き戻しながらその左腕を斬り落とした。そして両腕を斬り落としたのを首を斬って倒しきる。希の矢もちょうど一体を倒していた。
――まずい!全然気づかなかった!
その時釣られるように希の方を見ると、生き残っていたリクレッサーが2体希の方に向かっていた。1体はもしかしたら何とかなるかもしれないけど、2体はダメだ。希はあそこまで近づかれるのが初めてだったのか、逃げるという選択肢を忘れてしまっているようだし。
俺の周りにいるリクレッサーを無視して希の方に全力で走り始めた。その途中で、一体を倒すことができたが、左腕あたりに何かが当たったような気がした。それを無視して走っていくと、何とか希に向かっている2体の背中に追いついた。
「はああああ!」
全力で反撃されることを度外視で横凪に振って2体を同時に倒しきった。
希の方をちらっと見ると、驚いたような表情をして固まっている。怪我とかなさそうだな。頼られてるんだ、怪我なんてさせられないよな。
「よかった。間に合った……。」
そう何とか言った後、意識を手放した。
★★★★★★★
――そこまでしますか。
目の前で左腕を曲げられない角度に曲げた守君が私の前で意識を失っています。先ほどまでの戦いぶりはそれはすさまじいものでした。ウリエルの支援天法で私の目は遠距離が見えるだけでなく、2秒ほど先の未来が影のように見えます。その目で見たからこそ、その動きはおかしかったのです。私の放つ矢と同じくらい、いやそれ以上の速度で移動していたのでしょう。私の矢が当たるようにリクレッサーの体の位置を調整していたようですから。
でも、それはやはり無理をしていたのでしょう。こうして今目の前で倒れているのですから。私は大丈夫だといったのに……。
いえ、今はリクレッサーを倒さなければ。残ったのは守君のおかげで、6体ほどに減っています。これを倒しきるには、……
「……ウリエル。あとどれくらいですか?」
「……もうできています。が、本当にやるんですか?まだ希の体は二発目には耐えられないかもしれません。」
「守君がここまでやったんです。あとでしっかり文句を言ってやるためにもやります。それに、」
――もし、ここでやらなかったら、私は自分のことが嫌いになります。それに守君は“テッペン”ですが、私も“一番星”なんですよね。守君は知らないでしょうけど。
手に持った弓を分解し、再び狙撃銃を作りました。そして残ったリクレッサーにその銃口を向けて、構えます。そして、
「……発射。」
私達の所に走ってきているリクレッサーの中でも中心にいるのをめがけて銃弾を撃ち込みました。そして、当たった瞬間光の球のようなものが出来上がり、全てのリクレッサーを巻き込みました。そこで新しい発見をしました。遠くでできる球よりも近くでできた球の方が大きかったのです。
そして、それが消えるころには何もそこには残っていませんでした。
「はぁ、はぁ。」
そしてそれを確認した後、ものすごい倦怠感と眠気に襲われ、私も守君と同じように意識をゆっくりと手放しました。
★★★★★★★
「へえ、この二人はよく頑張ったね。私が助ける必要がないなんて。」
「そうですね。しかも、正義と契約ですか。これも因果というものでしょうか。」
「さあね。でもそうだとしたら、残酷だね。神なんてなるもんじゃなかったかな。」
「御冗談を。主様のおかげで今があるのですから。」
「……それもそうだね。だれも気づいてないけど。
ああ、一応二人は家に送ってあげておいて。」
「お任せ下さい。」




