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契約天使様の依り代  作者: きりきりきりたんぽ
3章 双子の呪縛
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斬り落とされた火蓋 その5

 メタトロンの言葉と共にその手にレイピアのような細剣が現れた。


「開け。」


 そしてその持った細剣を地面に突き刺した。すると、メタトロンの右半身に体の中心から朱金色の入れ墨のようなものが走る。それは背中の翼と光輪にまで広がり、そこから神々しいオーラが放たれる。空色の瞳は右目だけが金と赤の二重構造を取っている。


「さあ、構えなさい。でないと数秒後には死んでいますよ。」

「ッ!しゃがめっ!」


 次の瞬間、真横に何かが走った。斬撃のような透明な何かが空中を走り、その軌道にあった悪魔の剣をまるで豆腐のように簡単に分断した。悪魔本人は直前でレヴィアタンの言うことを聞いてしゃがんでいたから直撃はしなかったようだ。


「えっ!?」「嘘ッ!?」「ヤババッ!?」


 三体の悪魔たちは突然のことに驚きながら後ろに飛んで距離を取っている。彼女たちが持っていた剣は確かに斬られていたが、いつの間にか治っていた。


「よく躱しましたね。いえ、よく気づきましたね。一体どうして気づけたんでしょうか。」

「ふん、聞かれて答えると思っているのか?」

「いえ、一応聞いておこうと思っただけです。そこまで興味ないので。では続けますよ。」

「ッ!飛べッ!」


 直後、地面から土の鋭い槍が大量に突き出された。でも、悪魔たちはレヴィアタンの言葉に従って空に飛びあがっていたから誰にも当たらない。


「さて、そこでよけられますかね?」

「くそっ!魔法――ルナの瞳!お前らそれで生き残れ!」


 空をさっき見た斬撃のような透明の何が大量に駆け抜ける。それを空中で変な姿勢になりながら回避する悪魔たち。でも攻撃の数があまりに多いせいか、よけきることはできていないようだ。

 攻撃が止むと、体中に裂傷がある三体の悪魔とまったく傷を負っていないレヴィアタンが宙に浮かんでいる。


「……一騎打ちと行こうじゃねえか。」

「はい?」

「だから、こいつらに手を出すな。その代わりあたしが戦ってやる。」

「何を言っているのか分かりませんね。どうせ皆死ぬんですから、せっかくならまとめて殺してあげようとしているんですが。」

「そしたらあたしは刺し違えてでもお前かその結界にいる依り代を殺すし、そこに転がっている依り代にもとどめを刺させるぞ。」

「……まあいいでしょう。お前が一番面倒くさそうですし。先にお前を殺してあげましょう。」

「よし、その約束しっかり守れよ。

神臓拡張――魔界再臨 嫉妬渦巻く狂気の饗宴エンヴィー・フェスティバル!」


 レヴィアタンの言葉と共に緑色のオーラが全方位に放たれる。俺とメタトロンを飲み込んでもまだ広がる。そして、そのオーラが通り過ぎたところは地面が沼のようになっている。俺の体は結界の中にあって地面には触れていないけど、地面から生えていた土の槍がどろどろになっているからその様子が見て取れる。

 でも戦っている当の本人たちは全員が地面から浮いているから直接的な被害はなさそう。……意味あるのかね?


「これはあたしの精神世界の具現だ。努力では決して敵わぬ才能に対するとどまることのない嫉妬心が作り出したあたしだけの世界。ここでだけあたしは嫉妬を忘れられる。なぜならこの魔界内にいるだけで毒により体力を削られ、衰弱によりデザイアを削られる。それどころか、削られたそれはあたしに供給される。だからたとえあたしより強くても、誰であろうとこの魔界内にいる限りはあたしよりも弱くなるんだよ。」

「そうですか。まあ私には効きませんがね。」

「だろうな。だが、これを発動することができたということが重要なんだよ。あたしは努力だけでお前ら才能の塊に手が届いたということの証明になるんだから。」

「……私は別に才能など有りませんでしたよ。できるのは契約だけ。他の天使と違ってそれだけしかできなかったから、出番が滅多になかったんですから。

 私の天界再演(これ)だって実際できるのは契約を一方的に天使パワーでごり押ししてるだけなんですから。」

「フン、デザイアでごり押しした程度で空間に干渉できてたまるか。

 ……そろそろ無駄話もいいだろう。」

「そうですね。終わりにしましょうか。」


 レヴィアタンが禍々しいデザインが施された短刀を構える。その短刀自体の刀身も緑がかっていて、そこからも絶えず緑色のオーラが漏れている。対するメタトロンは周囲に数本の刀を浮かべている。

 そして――。


 双方が放った斬撃が二人の中間地点でぶつかり、それを合図に激しい戦闘が始まった。

 レヴィアタンは短刀から緑色のオーラをまとった斬撃を繰り出し、それをメタトロンが操る刀がそれを空中で受け止める。そしてメタトロンは先ほどとまったく同じの斬撃のような何か――さっきの話を聞いた感じだと空間属性ってことなのか?――を繰り出す。それをレヴィアタンは受けることはなく確実に躱し、カウンターに魔法を放つ。その魔法も俺が食らったものよりも何段階か威力も範囲も上のものになっている。俺に食らわせた時、レヴィアタンは最大の魔法だって言ってたけど、それは間違っていたのか?もしあってたら例の魔界再臨の効果なのかね。

 炎の龍が地面にぶつかりその体を氷に変える。それを今度はメタトロンの刀がバラバラに切り裂き、レヴィアタンめがけて空間属性の攻撃を大量に放つ。

 ……ん?でも確かメタトロンは関係ないって言ってたけど。じゃあいったい誰から?

ドサッ、という音が後ろから聞こえてきて、振り向いた。そこにはさっきまで宙に浮いていた三体の悪魔の姿があった。それと俺を包んでいるような結界があと3個見える。

 って言うことは、自分の部下から力を奪っているのか。それでもレヴィアタンを覆っている緑色のオーラは少しづつ小さくなっている。

 つまり、レヴィアタンの強化は時間の問題だ。部下が倒れればメタトロンが勝つ。


 でも、メタトロンからも朱金色の入れ墨のようなものがどんどん体の中心に戻っている。特に空間属性の攻撃の後には確実に。だから、メタトロンも時間が経てばたつほど不利だ。


 じゃあ、どちらが先に倒れるかの持久戦ってことなのか。でもメタトロンにはどこか余裕があって、レヴィアタンにはそれがない。

 それに当然のように気付いているメタトロンが激しい攻防の中で口を開く。


「いつまで続けるんですか?私には勝てないことぐらい気づいているでしょう?」

「ああ!気づいてんよ!でも、今は引けねぇ!」

「部下から力を奪っているから、ですか?」

「それだけじゃねえ!あたしがそうするべきだと思ったからだ!」


 血を吐くようにそうレヴィアタンが叫ぶ。それと当時にこれまでの戦闘の中でも一番とは言えないまでも、結構威力と攻撃範囲共に高い魔法を放つ。


「遥か昔の戦争で!あたしはお前ら天使に勝てないのはお前らが天才だからだと言い訳をして!嫉妬をし続けた!最悪なことに、それで罪性(タレント)は強くなってしまった……!」

「それの何がおかしいのですか?別に当然のことでしょう。」


 メタトロンは迫りくる炎と雷の龍を無数の空間属性の斬撃で切り裂きながら会話を続ける。


「いいや!あたしは、嫉妬なんてしちゃいけなかった!いや、嫉妬できる資格なんてなかったのさ!あたしは何もしてなかった!ただ生まれ持った力をいたずらに使うだけで!何も考えていなかった!何も特訓もしてないかった!」

「……今はそれができていると?」

「ああ!だから!


――嫉妬させてくれ。」


 その言葉を最後にレヴィアタンは体中のオーラを手のひらに集中させる。そこにはこれまで見たことのないほど複雑な魔法陣が幾重にも重なっている。それと同時に後ろで三体の悪魔が倒れる。おそらく全部の力を取られたのだろう。


「……あれはまずいですね。妨害したら暴発しそうです。なら、向かい打つしかありませんね。」


 そう言うとメタトロンは刀をしまった。そして両手を肩幅ぐらいまで開いた。すると、体に走っていた入れ墨が体の中心にものすごい勢いで戻っていく。その代わりにその両手に目に見えるほどのデザイアが集まって白く発光し始める。


「大罪魔法・原罪――嫉妬(インヴィデア)!」

「天界、収束。すべては契約の名のもとに――!」


 レヴィアタンの手から嫉妬の名を冠するにふさわしい強烈な魔法が光線として放たれる。二人のに残っていた氷の龍の残骸を飲み込みながらメタトロンに迫る。

 対するメタトロンは広げていた両手を勢いよく胸の前でクロスさせた。すると、二本の太い空間属性を持った斬撃がレヴィアタンめがけてまっすぐ放たれた。


 そして二人の最大威力の攻撃がその中間地点でぶつかり――。


 メタトロンの斬撃が光線を食い破り、レヴィアタンの体をその勢いのまま分断した。


「ふう、ようやく終わりましたね。戦闘は久しぶりだったので疲れちゃいました。」


 レヴィアタンの体が空から落ちてくるのを見届けてから、俺の所に来てそういう。

 うーん、そうとは思えないけどな。普通にぴんぴんしてるし。


「今日の私の戦い方は守も使えると思うのでしっかり覚えておいてくださいね。」

「俺にそんなことができるかよ。」

「できます。というかできないと困ります。なので何が何でもできてもらわないと。」

「まあやるだけやってみるよ。」


 できるかどうかは知らんけど。


「そうですね。じゃ、他の皆さんを治したら帰りましょうか。そこで話さないといけないこともありますし。」


 そう言って、俺の周りにあった結界を解いて他の依り代たちがいる方にふわふわ飛び始める。

 そして希のいるところについた時、


「――お前らか、禁忌に触れたのは?」


背後から突然声がした。

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