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契約天使様の依り代  作者: きりきりきりたんぽ
3章 双子の呪縛
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混ざる世界 重なる世界

 翌日、再び電車に乗り事務所に向かった。昨日未来の家に帰ってから出る直前までずっと修練場にこもっていたんだけど、あっという間だったなぁ。……昨日も同じことを考えてた気がする。はあ、これだから気が進まないことをしたくないのに。


『おやおや、随分お疲れのようで。』


 頭の中で楽しげな声が響く。メタトロンの方から話しかけてくるのは珍しいな。最近修練場でいつも一緒だから日常生活の中ではあんまり話しかけてこなかったんだけど。


『ほんとだわ。なんで俺がこんな目に合わなきゃいけないんだか……。』

『さっきまであんなに生き生きとしてたのに、そんなに嫌なんですか?お金だってもらえるでしょう?』

『別にお金はどうでもいいんだよ。困ってないし。でも、あそこは常に雰囲気がギクシャクしてるからいるだけで精神が削られるんだよ。』

『まあまあ、別に死にはしないんだからいいじゃないですか。裏世界での戦闘と違って死と隣り合わせっていうわけでもないんですから。』

『それはそうだけどな。』


 まだそっちの方が自力で対処できるからいい。あの雰囲気は俺がどうしたって変わらないでしょ。本当につらいわ。

 あ゛ー、普通に修練場にこもってたかった。あの二人に同情なんてするんじゃなかった。いつの間にか目の前に立っているマンションを眺めながらそう思う。


「……行きましょうか。本当に気は進みませんが。」

「そうだな。行くか……。」


 そうして俺たちはマンション(魔境)に足を踏み入れた。


 最上階の事務所の部屋にエントランスから呼び出しをかけようとした。すると、マンションの内側から誰かが出てきたようで自動ドアが開いた。そしてその人が俺たちの前で立ち止まって


「あ、お疲れ様。15分前に来てもらって悪いね。」


と声をかけてきた。誰かと思いその人を見るとラフな格好をした山田さんだった。まあ、確かに昨日愛梨に絡まれなかったら今日も10分前に来てただろうし。


「いえ、でも山田さんはこれからどこか行くんですか?」

「いや、ちょうど帰ってきたところかな。で、時間的に二人が来そうだったから下で待ってたっていうわけさ。昨日の今日でありえないとは思うけど万が一に備えてね。」


 まあ昨日のあれは山田さん達先輩方からしても異常だっただろうし。それに備えようとするのは当然か。それにこれ以上事務所の評判を下げたくないっていう考えもあるだろうし。俺は評判とか気にしないから全然わからないけどね。


「今日は昨日伝えた通り、インタビューの最終確認です。って言っても緊張する必要はないんじゃないかな。前とは違うのは僕以外の人がインタビューをするってことだけで、それ以外は同じだから。」

「いやー、だとしたら安心できませんね。」


 エレベーターの中で山田さんにそう説明されたけど、全然安心はできないんだよな。また無茶ぶりをされるかもしれないし。あの無茶ぶりには確信を持って答えられるって言いきれないぞ。

 その俺の返しに苦笑いをしながら、本番じゃそんなことはされないよ、と答えてくれたところでエレベーターが最上階についたようで扉が開いた。

 すると、昨日みた景色とは違った光景が広がっていた。空気が淀んでいるというか、文字通り黒ずんでいるというか。そう、()()()()のようなものが空気中に漂っているのだ。


「え?これは……?」


 山田さんが思わずといったようにつぶやく中で俺はすぐにメタトロンに話しかける。


『メタトロン、これはどういうことだ?もしかして裏世界にたまりすぎたっていうやつか?』

『いえ、そんなにたまっていないはずです。それにもしそうだとしたらミカエルからすぐに連絡が来るでしょうし。』

『じゃあこのもやは裏世界とは無関係?』

『いえ、これは確実にあちらから漏れたものです。でも一体どうやって……?すぐにミカエルに確認を取ります。』


 どうなっているんだ?本当に訳が分からないぞ。でも確か前の時も似たようなことがあったような。


「と、とりあえず、事務所に行こう。よくわからないけどとりあえず誰かいたら何か知ってるはずだから。」


 山田さんはそう口早に言うと、大慌てで事務所に入っていってしまった。


「希、これはまずいかもしれない。」

「ですね。あのもやは裏世界のものだとウリエルが言っていましたし。……とりあえず追いかけましょうか。もしリクレッサーが居たら、山田さんではすぐに殺されてしまいます。」


 気は全く進まないけど、行く以外の選択肢がないもんな。希の言葉にうなずいて事務所ある部屋に入った。すると、その部屋の中は異常尽くしだった。廊下の壁も地面も天井も、至る所に小さい魔法陣が書かれていて廊下を照らしている。しかもよく見ると半分くらいが発光していてそれが緑色で、もう半分が発光していなくてそっちが血で書かれたような暗赤色をしている。


「とりあえず、不気味でしょうがないけど、行くしかないよね。」

「……そうですね。……はあ、なんでこんなところに来てしまったんでしょう。」


 廊下を渡りきって事務所につながる扉を思いっきり開ける。するとその先には以上に広い空間が広がっていた。事務所に置かれていた机やソファーは原型をとどめてはいなかったが、その残骸と思えるものが床に転がっている。そして部屋の奥には仲川さんと安藤さん、川嶋さんの三人と愛梨と一誠が向かい合うように立っている。


「一体どうなっているんだ……?早く事情を説明しろよ!じゃないと、……。」

「……うるさい。」


 山田さんの叫び声に対して、川嶋さんが無造作に手を振るった。その一見すると無駄な行為にいやな予感がして気が付いたら思わず山田さんを突き飛ばしていた。

 するとついさっきまで山田さんが立っていた場所を緑色の光の塊が通過して、壁にぶつかって大きな穴を開けた。その様子を見た川嶋さんが舌打ちをしながら続ける。


「チッ、避けられたか。」

「な、なん……。」

「山田さん、逃げてください。もうあなたの手に負えるような状況ではないです。」

『メタトロン、契約だ。いつものに()()も加えてくれ。』

『……分かりました。ちょっと準備が間に合わなさそうなので時間稼ぎをお願いします。』

『何のだ?』

『説明している時間がありません。ただ、間に合わなければ大変なことになります。』


 メタトロンからは簡単な返事しかもらえなかったが、契約は無事結ばれたようだ。右胸から体中にデザイアが流れていくのを感じる。

 まさか、今が例の予言の時なのか……?


「い、いや。あいつらとは長い付き合いなんだ。話せばわかるはず……。」

「そんなはずはないでしょう。さっきあなたに見向きもせずに攻撃したじゃないですか!当たったら確実に死んでいたでしょうし、死体だって残っていたか分かりませんよ。」


 希に引きずられながら山田さんが部屋の隅に運ばれていく。運がいいのか、仲川さんと安藤さんは一誠と愛梨と向き合っているだけで身動き一つしない。でも、残った川嶋さんからは憎悪のような何かに染まった真っ黒い瞳を向けられている。その引き込まれそうな瞳と視線を離さないようににらみつける。


「……なぜお前達はそこまで冷静なんだ?いや、そんなことはどうでもいい。死にたくなけりゃ、さっさと帰れ。俺たちの標的はあのクソガキ二人だけだ。あのお方が来たらここから出ることもできなくなるぞ。」

「普通だったらこんなところを見られたら逃がさないだろ。なんでそんな親切なことを言ってくるんだ?」

「別に誰もこんなこと信じないだろ。魔法みたいな攻撃をされた、だのこんなマンションの一フロアに異常な広さの部屋があっただのを警察に言ったところでよくて妄想、悪けりゃ公務の妨害で逮捕されるぞ。

 ……っとそんなことを言っている間に到着されたようだ。……残念だ。」


 最後の小さい言葉の直後、窓ガラスが割れてそこから人が二人部屋の中に入ってきた。


「!お前は……。」

「やあやあ、久しぶりだね、九条君に希。僕は二人に会いたかったよ。」


 その人物は松下君とレヴィアタンだった。

 松下君は体の半分近くが緑色の呪いのようなものに覆われていて露出している右胸には以前と同じ紋様が浮かんでいる。


「さあ、これで役者は全員揃ったな。出てこい、我が眷属。コンプレックス、レヴィア、メイア。」

『!やっぱり!まずい、間に合わない!』


 レヴィアタンの言葉の直後、川嶋さんと仲川さん、安藤さんの体から一人ずつ悪魔が半透明の状態で出てきた。


「外典術式の準備はできてるな?……よし、起動させろ。」


 3体の悪魔が無言でうなずいたのを確認したレヴィアタンが号令をかけた。それを合図に彼らは空中の一点めがけて手を差し伸べる。

 すると、その一点にめがけて彼らから緑色のオーラのようなものが放たれ、集まり、暗緑色の玉が出きあがる。そしてその玉に惜しみなくオーラが放たれ、吸い込まれていく。傍から見てもどんどんその玉に力が凝縮していくのが分かる。次第にその玉は異様な存在感と威圧感を放ち始める。


「希、いいから早く逃げなさい!じゃないと死んじゃいますよ!」

「黙ってウリエル!逃げようにも足が……、それに守君だって逃げてないじゃないですか!」


 そんな声が背後から聞こえてきた。振り返ろうとして体の異変に気が付いた。……体の動きが鈍い。おそらく希ほどではないが、俺も普段通り動けない。


『守!あれが出来上がったらここら一帯が吹っ飛びます!時間を!お願い!』

「ん?やめとけ、メタトロンの依り代。この状況下じゃろくに動けないだろ。動かないならあたしたちもまだ手を出さないでやるから。」


 俺の動きを察知したかのようなタイミングでレヴィアタンが釘を刺してくる。その言葉に動きかけた俺の体が再び止まる。

 ……でも、俺がやらなかったらここら一帯が吹っ飛ぶんだもんな。じゃあ、やらないと。それに俺は、俺だけはこうなることが分かってたじゃないか。覚悟を決めて大きく足を前に踏み出し、体重を乗せる。


「はぁ!」


 緑色の玉にエネルギーを与えているであろう、3体の悪魔めがけて今放てる最大の斬撃を横薙ぎに放った。その斬撃は白い跡を空気中に残しながら3体の悪魔に迫る。しかし、


「邪魔をするな。あとで遊んでやるから待ってろ。それにしてももうこんなことができるようになっているとはな。」


その声と共に俺の右腕が斬り落とされた。この感じは、……あの時と同じか。

 デザイアを右腕に回して止血をしながら今起こったことを考える。よく見ると、レヴィアタンも右腕がなくなっている。しかもみるみるうちに修復されていっている。……ん?回復速度を逆算すると俺の右腕よりも斬り落とされている部分が長くないか?もしかして……。

 右腕の止血をすぐに終えて仮定を確信に変えるために動き出す。あれが正しいことを確かめるには切り札の一つをさらさないといけないけど、しょうがないか。


「まだ来るのか?まったくしょうがないな。もう発動させろ。」


 そのレヴィアタンの言葉を聞いた悪魔が緑色の玉に向けていた手をギュッと同時に握りしめた。すると、緑色の玉にひびが入りそこから光が漏れ始める。


「「「外典術式 混ざる世界(クレイジーゲート)」」」

『正典術式 重なる世界(アナザーゲート)!』


 緑色の玉のヒビが線に変わったその時、メタトロンが俺の体から飛び出して薄灰色の玉を握りつぶした。

 直後、俺の視界を緑色の光と薄灰色の光が塗りつぶした。

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