インタビュー
大幅に遅刻しました。すいません。
「社長、今日はゲストを連れてくるって言ったんですからちゃんとした格好をしてくださいよ。なんでほとんど下着みたいな恰好をしてるんですか。」
「ああ、すまない。さっきまで筋トレをしていてな。着替える時間がなかったんだ。」
一誠の苦言に対し、ハンガーにかけてあったジャケットのようなものを着ながらそう言うと並んでいた椅子のうちの上座に当たる席に座る。
「さて、先ほども言った通り私がこのモデル事務所スクーラーの社長、郷田丈夫です。お二人もどうぞ席に座ってください。
あと一誠、お茶を人数分頼んでいいか?」
「あ、それならあたしがやるよ。冷蔵庫に入ってるやつでいいんでしょ?」
「ああ、助かる。」
社長に言われたまま席に着くと、テーブルに愛梨がお茶を運んできてくれた。それが俺と希と社長全員にいきわたったところで再び社長が口を開いた。
「では、まずお二人の名前を伺ってもよろしいですか?」
想像よりも柔らかい声でそう聞かれた。
「九条守です。」
「新井希です。」
「九条君に新井さんですね。分かりました。一応学生証などを見せてもらってもよろしいでしょうか?」
身分証にはならないらしいんだけどいいのか?ま、出せって言うのなら出せばいっか。ポケットから財布出して学生証を出す。希も同じように学生証をテーブルに置いている。
その時ソファーに座ってくつろいでいた一誠が声を上げた。
「社長。二人とも僕達と同じ高校だから大丈夫じゃない?それに主席だよ。」
「確認だよ。二人のことを疑っているわけでは無いが、うちは会社だからね。……うん。ありがとうございます。確認できました。」
学生証に載っている顔写真と俺たちの顔を見比べ終えた社長が学生証を俺たちの前に置いて返してくれた。そこで社長は一息つくとその顔に浮かべていた笑みを引っ込め、経営者として毅然とした表情を浮かべる。
「さて、今回お二人を招いた企画についての趣旨をまず話させていただきます。
今回の企画は高学歴の学生を対象にしているわけですが、その理由としては高学歴という言葉がパワーワードだからですね。その言葉が雑誌の表紙に載るだけで人目を引くようになりますし、特に近年ではその傾向が強いです。つまりは話題性です。それがないのとあるのとだったらあった方がいいですからね。
次に、今回インタビューをさせていただくのですが、その内容は日常的なことになります。というのも人間というのは未知なものに対して好奇心を掻き立てられるものです。なので優秀な人の日常というのはかなりの人に対して需要があるということですね。
以上の二点をファッションと絡めて宣伝するというのが本企画の趣旨になります。」
ご理解いただけますでしょうか?と社長は続けた。
ふむ。理にかなってはいるな。確かにそれなら俺たちが呼ばれたのも理解できる。これでも全国でトップクラスの高校の首席同士だからな、その優秀の枠の中に入るだろう。容姿については自信がないが、何も言われないということは大丈夫なのだろう。
でも……。ま、いっか。気になることはいくつかあるけど、どうせ今回だけの付き合いになるだろうし。
「趣旨は理解しました。その上で質問があるのですが、事前にお二人に伺ったところ賞金というものがもらえるそうで。」
「ええ、今回の企画のゲスト様にはそれぞれ5万円ずつを賞金をして差し上げようと思っておりますが。」
「そちらだけ辞退してもよろしいでしょうか?私はお金を望んでいるわけでは無いので。」
……あー、お金が地雷ワードっぽかったもんな。
「本当によろしいのですか?正当な報酬なので特にご心配頂く必要はないのですが。」
「はい。いりません。頂いても逆に困ります。」
決意は固そうだな。それにしても逆に困る、か。詮索をするつもりはないけどなんかあったんだろうな。
「そうですか。九条君はどうしますか?」
「あ、いただきます。」
もらえる物はもらっておかないと。別にお金に困っているわけでは無いけどね。あまりにあっさり答えたものだから社長は少し拍子抜けしたような様子だった。
「分かりました。
では、今回の契約書にサインをお願いします。内容についてはすべて説明しましたが、一応一回読んでくださいね。」
社長がテーブルの上に契約書を滑らせてくる。……ふむふむ。これは契約書というよりも個人情報の取り扱いについてが大部分か。まあ、別に所属する訳でもないからそこまで契約書に書くものもないか。
一通り目を通してからサインをする。それを社長に手渡すと、社長はそれを持って奥の部屋に入っていった。そしてすぐに契約書を二部ずつ持って帰ってきた。そのうちの片方を受け取り、バックにしまう。
「では、早速インタビュ―に移りましょうか。
場所はこの部屋の隣ですね。インタビュアーは今隣の部屋にいる山田健人です。
一誠、健人を呼んできてくれ。」
「えー?しょうがないな。でも山田先輩で大丈夫?専門のインタビュアーを呼んだ方がいいんじゃない?」
「いいから。呼んできなさい。」
「……はーい。」
ソファーに沈んでいた一誠が起き上がっておくの扉を開けて、山田せんぱーい、と呼びかける。すると、すぐに先ほど見た長身のモデル然とした男性が出てきた。
「一誠、お前はもっと態度を改めろ。さっきのこともそうだが……。」
「あーはいはい。そうじゃなくて社長が呼んでるよ。」
「……社長、要件は何でしょう?」
うっわ、めちゃくちゃ不機嫌じゃん。そりゃそうか。後輩にあんな舐められた態度を取られたら不機嫌になるわな。
「すまないね。ちょっと、二人のインタビュアーをしてくれないか?今日が本番じゃないが、慣れておいてもらいたいしな。それにお前もやりたいだろ?」
「まあ、それはそうなんですが……。じゃ、例の話を3人とお願いします。」
「ああ、任せなさい。では、そういうことだから隣の部屋で頼むよ。」
「はい。……では行きましょうか。」
そこでようやく俺たちに目を向けた山田さんは俺たちが立ち上がるのを待ってから、ゆっくりと扉へと向かう。軽く礼をしてからその後を俺たちも追う。
隣の部屋はかなり整理整頓がされていた。さっきの部屋を普通の生活部屋だとしたらこちらはモデルルームのような感じだ。明るい色の家具で整えられた部屋に通された俺たちは居心地の悪さから若干挙動不審気味になる。
「適当なところに座ってね。それとさっき社長も言ってたけど今日は練習だからそんな緊張しなくても大丈夫だよ。インタビューにはいくつか定型文があるからそれを一通りしていくつもりだから。もしかしたらその後適当にアドリブも入れていくかもしれないけどね。」
大きなソファーにそろって腰を掛けると、山田さんはその向かい側に椅子を持ってきて座った。
「じゃあ、まずは男の子から始めようか。
自己紹介をお願いします。」
え?俺から?できれば二番目がよかったんだけど、直接目を見られて言われたら逃げられないな。しょうがない。
「九条守です。天辺高校に通っている高校一年生です。」
「ありがとうございます。ではいくつか質問をさせていただきます。
…………。」
「では、質問は以上になります。ありがとうございました。」
20分後、ようやくインタビューが終わった。なんか取り調べを受けている気分だったよ。結構細かいところまで聞かれるのな。自分でも忘れかけていたことを無理やり思い出して喋ったよ。
てか、しっかりアドリブもぶっこんできたし。まだ深く聞いてくるのはいいよ。思い出せたから。でもアドリブもいくつかあったぞ。なんだよ、テストで点数が取れるような方法を勉強する以外で教えてくださいって。大喜利か何かか?
しかもその質問してきたとき山田さん怖いくらいにこやかだったし。俺は当然だけど希の顔もひきつってた。
「では、次は女の子です。
自己紹介をお願いします。」
「あ、新井希です。星辺高校に通っている高校一年生です。」
そして再びこの小奇麗な部屋に地獄が顕現した。たださっきと少し違うことは俺はもう終わっているということ。ごうごうと燃え盛る火事を対岸から眺めるとしよう。
「……質問は以上になります。お疲れ様でした。」
……乙。隣でかなり疲れた顔をしている希を見ながら小さく呟いた。
この人えげつないことをするな。最初の方で勉強するときに考えていることを聞かれていた時はへー、って思うこともあったけど、途中から心の中で合掌してたからな。特に例のアドリブの時は。だって、テストであった面白い話をしてくださいだったよ?これはひどすぎる。まずテストって面白いものじゃないからその中から面白いものって言ってもたかが知れてる。それに面白いっていうのもやばい。完全主観だから面白いかどうかわからないよね?
「お二人とも、お疲れ様。このお菓子食べていいからね。そうだ、お茶も取ってこようか。」
山田さんは喜々としてお茶の準備をしている。……もしかしてこの人サ……。
「はい、好きなだけ飲んでね。余ったら持って帰ってもいいから。」
戻ってくるの早いですね。キッチンまで近いとはいえ、そんな秒で帰ってこれるもんなの?まあ、もらえる物はもらっておこう。
お菓子を食べ始めて一段落したところで、再び山田さんが口を開いた。
「ごめんね。きっと変なアドリブされて驚いたと思うんだけど、実際そんなことを聞いてくる人もいるからね。しかも初対面で。
でも今日あれだけ喋れてたら本番も大丈夫かな。」
そんな意図があったのか。まあ許せないけど。
「……うん。二人は本当に優秀だね。あの我儘っことは大違いだ。」
なんかいきなり声のトーンが下がったな。少し寂し気というか。
「二人は一誠や愛梨とどこで知り合ったんだい?やっぱり学校とか?」
……これは正直に答えられないやつがきたな。あの会議室みたいな所なんて言っても伝わらないし、危ないまであるかもしれない。もしかしたらこの人も松下君みたいに悪魔の依り代かもしれないしね。まあだから
「「はい。」」
とりあえず学校であったことにしておこう。もしかしたらすれ違ってるかもしれないし。うん、嘘ではない。きっと。
「少しあの二人について聞きたいことがあるんだけどいいかい?」
次話、13までに投稿します。頑張ります。




