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契約天使様の依り代  作者: きりきりきりたんぽ
3章 双子の呪縛
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一週間後……(修練場内)

 すさまじい速さで交差する木刀と刀が修練場内に激しい剣戟の音を響き渡らせる。動きに派手さはないもののその動きは洗練されているように見える。攻防一体ともいえる剣技を双方が繰り出し続けているのだ。


「はっ!」


「せいっ!」


 九三郎の攻撃を体の向きから予測してそれを向かい打つように技を放つ。そしてぶつかる直前で少し刀を持つ手の力を抜いて衝撃を受け流す。すると刀がはじかれ、自然に逆手で持った形になる。それを体幹をひねるように全身の筋肉を使いながら振る。それを九三郎は一歩下がって躱し、刀が通り過ぎてから再び踏み込んで木刀を振ってくる。

 それを大きく後ろに飛んで回避すると、刀にデザイアを流し込んで距離を詰めてきていた九三郎めがけて振る。その刀からは斬撃が放たれ、九三郎めがけて飛んで行った。九三郎の目がその斬撃に向いている内に体勢を立て直し、距離を詰める。しかし、隙を作れると思った斬撃に対し九三郎は動きも止めずに斬撃を放った。すると空中で斬撃が重なり、相殺された。斬撃の陰からそのまま九三郎が突進してきた。斬撃を放って動きが固まってしまっていた俺に九三郎が木刀を下段から振り上げてきた。慌てて刀を振り下ろしたが、きれいに弾き飛ばされて返す刀で頭を叩かれた。


「勝負あり。まだまだですね。」


「はあ、はあ……。手ごたえはいいと思ったんだけどな。」


 肩で息をしている俺とは違い、九三郎はぴんぴんしている。


「まあ初日に比べるととても成長しましたよ。刀すら満足に触れなかったのに、先ほどはしっかり打ち合えてましたからね。しかも読み合いもしっかりできていましたし。加速も確か使っていませんでしたよね。……うん、少なくとも依り代には負けないと思いますよ。自信持ってください。」


 ……だったらせめて一撃くらい入れさせてほしいんだけどな。


「やっぱり逆手で攻撃するのは隙が大きすぎるか……。」


「あれは奇襲攻撃ですからね。ネタさえ知られてしまえばよけるのは簡単です。なので当てたいのならば、それなりの工夫が必要ですね。例えば、相手が前かがみになっていたり、引ききったりしているときに使うとネタが割れていても当たりますね。」


 なるほど、要は相手が動けないときってことか。……そんな時が来るのかね?自分でそんな状況に追い込むとしたら大変そうだな。


「あとは実戦でひたすら戦って慣れるしかないですね。どれほど私が調整したとしてもできるのは速度とかだけで、さすがに隙をさらすようなことはできませんし。」


「あなたと比べたら守がかわいそうですよ。まだ刀を持って半年も経ってないんですから。」


 戦闘人形の肩に座っていたメタトロンがふわふわと空に浮かびながら会話に参戦してきた。


「おや、そういえばそうでしたね。そう考えると守君はとても優秀ですね。私の知り合いでも半年で私と形だけでも打ち合えるような人はいませんでしたよ。」


「そうでしょう、そうでしょう。うちの守はすごいんですからね。勉強はできるし、料理もおいしいですし。」


「なんと!料理ができるんですか!?素晴らしいですね。」


 ……なんか二人で盛り上がり始めたな。じゃあ俺は一人でこの一週間を振り返っていこうか。

 まず、初日。人任せの一誠に怒りを感じて修練場に来た。その勢いのまま戦闘人形と戦って、連続使用できる時間が十分であることが分かった。その時にデザイアの体内濃度を上げるときのリスクも知った。それから九三郎と戦って攻撃に意思が乗ってないって怒られた。それは何となく克服できたような気もするけど、直後に逆手にもった木刀に襲われて意識を失った。


 二日目からはひたすら九三郎と戦い続けた。最初は途中で気が抜けて突然動きが固まったり、刀が手から抜けたりした。だから俺は模擬線どころじゃなくてとにかくしっかり体を動かすことから始まった。でもその間も九三郎は手加減なしで(手加減はされてたんだけど)攻撃を仕掛けてくるから一日が終わるころには体中に痣がめちゃくちゃできていた。手の甲に脛みたいな移動や攻撃に必要なところだけじゃなく、脇腹や首筋といったもし刀だったら致命傷になっていたであろう場所にも痣ができていた。寝返りを打つたびに痛みが走って目が覚めたな……。


 三日目。朝から九三郎と再び模擬線を行った。少しは動けるようになってきたような気もしなくもないが、戦闘に体が移れるほどの速度ではない。結果どうなったかというと、寝るころには再び痣だらけになっていましたとさ。ちなみに朝の段階で二日目の痣は消えていた。


 四日目。また朝から九三郎と模擬線を行った。九三郎の放つ威圧にも動きにも少しづつ慣れてきて動きについていけるようになった。でも刀と木刀が当たったときに本当にたやすく吹き飛ばされてしまって、初日に一回でも打ち合うことができたのが嘘のようだった。挙句の果てには九三郎は斬撃も放つようになってきて、もうどうしようもなかった。また終わったころには痣だらけになった。


 五日目。九三郎、と、模擬線、を、行った。はい。全然手も足も出なかった。少し九三郎の動きが見えてきたせいか、余計に差が顕著になっているように感じた。とにかく九三郎の動きには余計な要素がないのだ。俺も型通りに刀を振っているつもりだったが、九三郎は常に最短距離で木刀を叩き込んでくる。そのせいで俺の攻撃は九三郎のそれよりもテンポが遅れてしまう。それに加え足さばきもおかしい。まるで地面をすべるように足を運んでくるから動いていることに気づくのが一瞬遅れてしまうのだ。まあ何が言いたいかというと、俺は一度も攻撃に回ることができなかった。ただひたすら受けることしかできなかった。多分昨日打ち合えたと思えたのは気のせいだったんだろうな……。そして当然のように痣ができた。あ、今日初めて見たけど斬撃同士がぶつかると空中で相殺されるみたい。


 六日目。今日も九三郎と模擬線をしたが、体が全く九三郎についていかない。それでも必死になって九三郎の木刀を受け続けていると、最後の一本という時に次第に俺の体にもその動きが入り込んでくるような感覚がした。それは気のせいではなく、


「せいっ!」


「はあっ!」


俺の刀と九三郎の木刀が初めて対等な状態でぶつかった。後ろに押し戻されるようなこともなく、ただ確かな手ごたえが残った。九三郎もまた同じ手ごたえがあったのか、小さく笑みを浮かべ


「おっ。いいですよ。それ忘れないでくださいねっ!」


と言いながら再び鋭く切り込んできた。それに対し、体が動くままに刀を振った。すると同じように刀が手ごたえを伝えてきた。

 それから一分ほど打ち合いが続いた。その打ち合い自体は九三郎が不意に放った斬撃で幕を下ろされた。その斬撃自体には反射的に刀で反応できたけど、十分すぎる隙ができてそこを綺麗に狙われた。

 その一撃で意識を刈り取られてその日はそれで終わった。


 ふう、こんな感じか。

 一息ついたところでメタトロンの方を見ると、食べ物の話は終わっていたようで


「……で?もう守は行けそうですか?」


「……時間的には、もう大丈夫でしょうね。体に十分増えたデザイアがなじんでいますから。あとはそれを確実に使いこなせるかどうか、ですね。」


とか言っている。……ん?もしかして俺の体内濃度の話をしてるのか?


「なるほど……。では私の方からもアドバイスをしましょう。まずは30%を目指してください。」


「30%……?」


 100%とかじゃなくてか?


「そうです。それまではただ戦闘可能の時間が増えたり、一撃の威力が上がったりするだけなんですが、30%まで上げられるとある御業を使えるようになります。私はそれのおかげで窮地をしのぐことが何度もできましたからね。」


 ……それって未来がやってた天界再演ってやつじゃないか?そうだよな。すごくないか?ディアボロスを一撃で倒してたんだよ?まあそれがどういうものなのか俺は全く分からないんだけどな!

 でも話の流れ的にしっかりデザイアを使いこなせれば体内濃度を上げても大丈夫らしい。だったらやることは一つだよな。


「メタトロン、行くぞ。裏世界に行ってしっかり使いこなせるかやらないと。」


「はいはい。まったく、そんなに急がなくてもいいと思いますけどねー。」


 やれやれとでも言いたげに首の横で手を振っているメタトロンを後ろに引き連れ、ブースを後にする。ブースから出ると、そこにはまだ老人が横になって寝ていた。普段であれば話が聞きたいから起こしたりするけど、今日はそれよりも重要なことがあるから素通りして魔法陣を起動させる。

 眩い光が視界を覆った直後俺はリビングに立っていた。


「よし、裏世界に行くぞ。メタトロン、頼む。」


「はいはい。頼まれました。」


 メタトロンが指をはじいて時間を止めると同時に裏世界への扉を開いた。それをくぐって裏世界に向かう。

 よし、リクレッサーと探そう。でもなんかめんどくさいな……、となったときにルシファーがリクレッサーを集める天法を使っていたのを思い出した。


「リクレッサーを集める天法って使えるか?」


「使えますよ。範囲はルシファーの時よりも狭いですがいいですか?」


「頼む。」


「では行きますよ。天法――邪心の吹き溜まり――。」


 メタトロンの薄灰色の光輪の上に魔法陣が浮かび上がった。そして直後メタトロンが変な体勢で硬直した。いや宙に浮いているんだけども。


「やばいですねー。挟まれる形で下位魔性(デーモン)が2体ほど来てますよ。その他40体ほど。」


 ……多いな。前と後ろに同じくらいの大きさの黒い集団が見える。まあいいかえれば修練場での成果を出すチャンスでもある。それにデーモンは剣を持っているから余計にいいかもしれない。


「大丈夫だ。その前に契約を頼む。加速だけでいい。」


「はーい。……できましたよ。」


 よーし、行くぞ。

 足にデザイアを集中させて移動速度を向上させる。あ、これも九三郎との模擬線の時に見つけた。確か6日目だったかな。気づくのが遅すぎて実戦で使えるほどではないけど、ただ足を速くするだけなら行動加速をするよりもコスパがいい。で、おそらく九三郎はこれを使って地面をすべるように移動してたんだと思う。


 あっという間にリクレッサーの投石攻撃圏内に入ったようで少し離れたところから雨のように石が降ってくる。


 ……これは思考加速を使っておかないとやばいな。


 思考加速を発動させて自分に当たる石を見極める。そして足は止めずに斬撃を飛ばしてその石だけを叩ききる。そのままリクレッサーの集団に近づいていくと、剣を持ったデーモンが突然奇声を発した。すると20体ほどいたリクレッサーが二列になって俺に向かってくる。

 そしてあと数歩で接敵するという時にリクレッサーが太い右腕を振り上げる。それと同時に俺は刀を振り、斬撃を飛ばす。するとその右腕を振り上げていた個体に致命傷が入り、その体をもやに変えた。

 それから残りのリクレッサーも同じように近づけさせないで斬撃を飛ばすだけで倒した。


「……うん。消耗は思ったよりも少ない。ここで鼻血が出てきてもおかしくないと思ってたけどな。」


「いい感じですよ。天使パワーもしっかり節約できています。」


 あとはデーモンだけか。前回戦った時は勝てなかったからな。今使える全力で行かせてもらおうか。刀をデーモンに向けて構えると、デーモンも意図を察したのか俺に向けて剣を構える。


 ふう、と一つ息を吐いて意識を集中させ、そして加速を発動させる。


「……行くぞ。」


「▲▲▲▲▲▲▲!」


 雄たけびを上げながら動き始めるデーモンと同時に俺も動く。その動きの速さは俺の方が数段速い。最初に戦った時でさえ速さだけは勝ってたんだ、今ならなおさら俺の方が速い。そしてその時に勝てなかった理由が一撃が軽すぎたこと。そしてそもそもとして刀の扱いが下手すぎたこと。

 一撃の威力を上げる方法は九三郎との闘いで分かった。九三郎の攻撃を受けるときに咄嗟にできたことだったけど、あの時俺は確かにデザイアを腕に移動させていた。

 だから、


「はあっ!!」


 デーモンに素早く近づき振り下ろされる剣をかいくぐって、その横を通り過ぎながら脇腹を切り裂いた。

 そして振り返りざまに後ろから足の腱を切る。すると、デーモンの体勢が崩れてその首が俺の身長でも狙えるくらいの高さまで落ちてきた。

 腕にデザイアを流し込み威力を上げた刀でその首を斬り落とした。

次話30日投稿予定です。よろしくおねがいします。

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