ちょっとした昔話 その2
めちゃくちゃ遅刻しました。すいません。
ブースを出ると、そこには例の老人が起きて座っていた。
「出てきたか。待っておったぞ、守。」
俺が出てきたことを確認すると、のっそりと立ち上がった。
「お主が望むなら前の話の続きをしても構わんがどうする?」
そう言えば前来た時昔話をしてもらったな。今じゃミカエルから聞いたからそれなりに知ってる。まあ誰にも教えられないから知らないのと同じかな。
「その前に一ついいですか?」
「何じゃ?」
「なんで俺にそんな話をしてくれるんですか?他の依り代もそれを知ってるんですか?」
そう、そこが分からない。ミカエルにしろこの老人にしろ、なんで俺にそんな話をするのかがさっぱりわからない。絶対何か理由があるはず。
「……さてな。特に理由はないわ。しいて言えば、お主が一番強くなりそうだから、かの。あのお方を止めるにはまだピースが足りないのじゃ。天使長の依り代に未来というイレギュラーの二人は強いがそれでもまだ足りない。あのお方を止めるには少なくともお主というもうひとピースが必要だと思った。それだけじゃ。じゃから、当然未来も知っておる。それ以外の依り代は知らん。教えたければ教えればいい。」
あのお方、か。それはおそらく運命の女神フォルティアのことだろう。止めるってことは人類滅亡を防ぐってことか。
「よいか?では前の続きじゃ。
戦争中、日を追うごとに人の数は減り続けた。何せ生まれる数はほぼゼロであったが、死ぬ数はゼロではなかったからの。食料調達に出かけた者が帰ってくるときには数が減っていることは日常茶飯事、帰ってこないこともあった。
そんな中、とうとう人の中にも神に抗おうとするものが現れた。追い詰められた人間は恩など忘れてしまう。恐ろしいほどにあっさりとな。しかも、そのものは全員が天使の力を借り受け、依り代になったものじゃった。彼らには力があった分、責任も感じておったのかもしれんがな。
そして人類滅亡に王手がかかった時、すなわち生き残りが彼らを除いて十人を切った時彼らは行動を始めた。……その体に天使を秘めた彼らはたった七人で神に抗い始めたのじゃ。彼らは鍛えていたとはいえ当時の他の者に比べるとあまりに脆弱だった。せいぜいがそれぞれ三女神の派閥の下位から中位のものと同じくらいの力しか持っておらんかった。命を捨てれば、もしくは上位の者に致命傷を与えることもできたかもしれんな。目的とはかけ離れておったから誰も試さなんだが。
とにかく七人がしたことはまず人類の現状を三女神それぞれに知らせることじゃった。もう生き残りが十人を切ると、じゃから争いはやめてくれと。じゃが、三女神は日夜戦いに明け暮れておったからの、おそらくそんな話は耳に入っておらなかったじゃろう。……戦いは収まらなかった。」
「そこで彼らは本格的に神頼みではなく自分達の手で戦争を終わらせようとした。そのためには力が足りなかった。じゃから彼らは死に物狂いで自身を鍛えた。知恵が、思考が、……情報が足りなかった。じゃから彼らは神々やその上位の眷属の戦いを見て情報を集めた。
そして彼らが立ち上がってから半年が過ぎたころ、彼らは上位の眷属とも勝るとも劣らぬ強さを持ち、神々はもちろん重要人物の情報をそろえることに大方達成した。そこで彼らは戦争の終わらせ方を考えた。どうすれば戦争が終わる?どうすれば文字通り天と地ほどの力の差がある神を倒すことができる?力を上げた彼らからして、たとえ命を賭したとしても弱らせた女神を封印するくらいしかできそうになかった。
……答えは一つしかなかった。自分達に倒せないのであれば、誰かに倒してもらえばいい。それにそれぞれの女神を倒せる存在が二人もいるじゃないか、とな。
それからというもの、彼らは第三勢力として戦場をかき乱し、時には眷属を殺しパワーバランスを少しづつ傾けさせていった。すると、たくさんの眷属を殺され弱った二柱の女神は必然に手を結び、残りの女神と彼らを明確に敵対視した。
……つまり、彼らの想定通りであり、最悪の状況になったのだ。女神たちは相手にすらしていなかったが、それはいつでも潰せるからじゃった。それに加え、彼らはどの女神にも属していないから残りの女神が助けてくれるわけでもない。つまり、彼らが皆殺しにされるのは時間の問題になった。とはいえそれこそが狙いでもあった。女神を直接相手取ることができれば、より確実に女神同士をぶつけることができるからの。そうすれば、運よく弱らせることができれば三女神を封印できると。
……今日はここまでじゃ。また来るといい。」
いつかと同じように勝手に話を切ると老人は倒れるように横になって眠り始める。……なんか怖いな。でも俺としたらまた変なところで切られた話の方が気になる。ミカエルに聞いた話と照らし合わせたら、戦争で手を組んだ女神が全能の女神ヘスティアと全知の女神ミネルヴァだろう。そしておそらくこの老人を含めた“彼ら”という七人が上手くやったのだと思うけど、残ったのがこの老人を含めて二人だということは残りの五人は死んでしまったのか。まあ過程はどうあれその結果、ヘスティアとミネルヴァが消滅してフォルティアが封印された。そのまま現在に至る、といった感じか。
「そろそろ帰りますよ、守。そろそろ皆さんも起きてくる時間ですよ。」
「ん、ああ。」
メタトロンに生返事を返して足を帰還の魔法陣に向けた。……そういえばあの老人の話だと未来は全部知ってるってことだよな。なんで嘘ついたんだろ?
リビングに帰ると、そこにはもう全員が集合していた。
「どこにもいないと思ったらやっぱり修練場に行ってたんですか……。」
目が合った希から呆れ気味にそう言われた。まあ、夕飯を食べる前に寝落ちしてたくらいだもんな。なのに起きてすぐに修練場に行くなんて呆れられてもしょうがないか。
「ほら、だから心配しなくても大丈夫って言ったじゃん?希ちゃんは心配性だなぁ。」
「……ちゃん付けはやめてください。」
からかうように告げる愛梨と、自分もちゃん付けされたことに驚きながらも訂正を求める希。……そうか、希もちゃん付けで呼ばれるようになったんだな。可哀そうに。
「さっきまで修練場にいたみたいだけど、これから戦えるのかい?昨日そう約束したと思うけど。」
一誠が心配するように聞いてくる。まあ、内心じゃ違うだろうけどな。俺たちを疑うように探りを入れてきた一誠と愛梨の二人を俺はまだ信じることができないでいる。
「大丈夫ですよ。ただ、時間を無駄にしたくなかっただけです。」
まあそんなこと顔には出さないけどな。
「そっか、なら大丈夫だね。じゃあ早速だけど行こうか。カマエル、頼んだ。」
「任せなさい。じゃあ、開けるよ。」
一誠の隣に出てきた天使がリビングに裏世界への扉を開けた。
その扉をくぐると何度も来たことがある光景が目の前に広がっている。違うのは未来以外の依り代全員がそろっているという点。……そういえば、未来はまだ修練場から出てきていないのか。
「まあ、リクレッサーが来るまでここで待機ということで。来たら、順番にタッグで倒していこう。」
一誠はそう言うと、自身の天装である盾を前に抱えて座り込んだ。
……え?ただ待つだけなの?集めたりとかってしないの?まあでもいっか。必要以上に教えなくても。
俺と希はリクレッサーを集める方法があることを知っているせいで少しだけ呆然としていたが、そこに愛梨が近づいてきた。
「あ、そういえば二人がそろった時に言おうと思ったんだけど、例のモデルの件なんだけど八月一日に撮影をするみたい。でもその一週間前からあたしたちのマネージャーさんたちとの顔合わせとインタビューをするみたいだから予定を開けといてね。」
それだけ言うと、愛梨は一誠の後ろに背中を合わせるようにして座った。
……えー、何この兄妹。現実世界とは違ってなんか不気味だな。一誠だったらもう少し何か言うだろうし、愛梨だったらもっと口調がギャルっぽいというか。
「……あの二人、向こうの時と違いすぎて怖いっすよね?」
「ああ、そうだな。なんか気味が悪いな。二人とも半分くらい存在が薄くなったというか。」
存在感皆無だった春と武が気が付いたら後ろに立っていた。いきなり声をかけてきた春よりも目の前で精神統一していそうな二人の方が不気味すぎて驚かなかった。
「あの二人は戦い方もすごいんですよ。見ていれば分かると思いますが、文字通りの阿吽の呼吸というか、二人の息があってるんですよ。」
「そうなんですか。それは見ものですね。……とはいえ、まだ来る気配がなさそうですが。ウリエル、どうですか?」
希が背後に佇んでいるウリエルに声をかける。
「そうですね。気配が全くないです。皆さんもう少し休んでいて大丈夫ですよ。」
そうか、なら少しだけ時間があるみたいだな。なら少しだけ聞いてみるか。
「聞きたいんだが、みんなはあの修練場にいた老人の話を聞いたことがあるか?」
「「「え?」」」
……聞いたことなさそうだな。しょうがない、少しだけ話しておこうか。
あの老人に聞いた話をかいつまんで話した。老人の言う神話の時代には、三人の女神がいたこと。そして今戦っているリクレッサーの親玉はその女神のうちの一人であること。その強さは想像を絶するものであるということ。
話し終えると、スケールが大きすぎて想像ができなかったのか三人とも黙り込んでしまっている。そりゃあそうだよな。話した俺にだってよくわからないし。だって最近戦ったレヴィアタンだって全盛期の欠片も出せていなさそうなんでしょ?そのレヴィアタンの全盛期の力すら想像ができないのにそれよりもはるかに強い女神の力なんて言葉でしかわからないよな。
そんな時、
「来ましたよ、守。天装を出してください。」
ぷかぷか浮かんでいたメタトロンに声をかけられた。
次話、22日に投稿します。