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契約天使様の依り代  作者: きりきりきりたんぽ
3章 双子の呪縛
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深夜の修練場

 小野寺兄妹の頼みを引き受けてしまってからはどこか上の空で話を聞いていた。だってモデルだよ?カメラの前に出るとか緊張するし、いろんな人に知られてしまうかもしれないことがもっと嫌だ。知らない人に話しかけられたら死にたくなってしまいます。


 気が付いたら寝落ちしていたようで、気が付いたときにはもう日付が変わりそうな時間だった。俺の前ではメタトロンがもぐもぐとスパゲッティを食べている。……おそらく俺の分だろう。


「ん?起きましたか、守。それにしてもこのスパゲッティ、というものは随分おいしいですね。また今度作ってください。」


「分かった分かった。……ルシファーはどうしたんだ?」


「なんでも時間が来たとか言って帰っていきましたよ。他の皆さんは二階で寝ているようです。」


「そうか……。」


 うん?もうルシファーがいない?ならもう修練場行ってもいいんじゃないか?いや、いいよな。じゃあ行くか。せっかく未来に戦い方を教えてもらったんだ、できるだけ早く試したいし。


「よし、それ食べたら修練場行くぞ。明日の朝までだから一週間もいけないから全快ほどの成果は望めないが、まあ増えたデザイアの使い方と教えてもらった戦い方の練習くらいならできるだろう。」


「まったく、せっかちですね。……まあいいでしょう。少々お待ちを。」


 ズルズルとすさまじい勢いでスパゲッティをすすっていくメタトロン。しっかり味わってるのかね?


「よし、食べ終わりました。行きますよ。」


 空になった皿を床に置いてメタトロンが立ち上がった。もう準備万端だとでも言いたげに浮かんで部屋の中を飛び回る天使に俺はただ一言。


「しっかり片付けろ。」



 いやいや言いながらも部屋を片付けたメタトロンと一緒に魔法陣に乗る。すると自然に魔法陣が発動して光を放ち始める。

 次の瞬間に俺たちは今朝ぶりの武道場に立っていた。目の前には横になっていびきをかいている老人の姿がある。……隙があるように見えるけど今攻撃しても普通に反撃されるだろうな。少しだけいたずら心が働いたが普通に諦めた。


「まあ、行くか。九三郎とも会いたいし。」


「そうですね。(なんというか、あの老人に見覚えがあるんですが勘違いでしょうか……?)」


「……メタトロン?」


「ああ、はい。行きましょうか。」


 老人の方を見て固まっていたメタトロンに声をかけてから、前も使ったブースに入る。その中心にはやはり戦闘人形のようなものが座っている。

 するとその戦闘人形から声をかけられた。


「おや?守ですか?久しぶりですね。言え、時間的には今朝ぶり?ですかね。」


「そうだな。今日も大変だった……。」


「お疲れのようで何よりです。そうじゃないと人類滅亡を防ぐなんてできませんからね。私の時も同じくらい忙しかったですよー。」


 なんという皮肉を……。しかもにこやかに言ってくる分性格が悪い。

ガコンという音と共に九三郎が戦闘人形から出てきた。


「一体何があったんですか?よければ聞かせてください。」


 スタっと飛び降りてから俺に向かってそう聞いてきた。

まったく、いいけど長くなるぞ。



「ははあ、随分大変だったんですねぇ。まあそれでも私の教えた燕返しも実戦で使えたようでいいんじゃないですか?勝てなかったのはしょうがないです。その最上位魔性(サタン)というのは私の時代にはいなかったので。」


「まさかカウンターされるとは思わなかった。しかも不可避だったし。」


 あの時は正直訳が分からなかった。なんで俺が攻撃したのに同じ傷を俺が負っているのかがわからなかったし、とにかく痛かった。血を吐くときはただ苦しいだけで痛くはないんだよね。


「初見だと終わりですね。となると、その悪魔が放つオーラに触れないようにしないといけませんね。相手が嫉妬のレヴィアタンであろうと、そうでなかろうと。となると、刀での遠距離攻撃が必要になってきそうですね……。」


「実を言うと今日はそれを練習しに来たんだよ。やり方は何となくわかってるから。」


「おや、そうなんですか?なら私は天使ちゃんと一緒にのんびり観察でもしておきますね。おいで天使ちゃん。」


「相変わらず胡散臭い人ですね。まあ守の邪魔をしたくないのでおとなしくしておきますが。」


 ふわふわと九三郎の方に向かうメタトロンを確認してから天装を取り出した。

……ちなみにもうわかると思うけど九三郎は佐々木小次郎のことな。どうしてここにいるのか知らないけど。


 ふう、まあいい。とにかく未来に教えてもらった事を再現してみよう。

まず、体の中に満ちているデザイアを右腕に向けて移動させる。移動させる?どうやって?……血液イメージしてみるか。全身にあるデザイアをちょっとずつ移動させてみよう。血液に乗せて全身から腕に。

 ……あれ?全然集まらない。というか戻っていってない?天装を出すときに何となくのデザイアの感覚はつかめている。血液に似てるけど、それよりも体感ではもう少し暖かい何か。だから分かる。戻っていってね?

 なんでだ?なんで戻っていく?……血液に乗せて?だからじゃん。血液に乗せたらそりゃ帰って行っちゃうじゃん。循環してるんだから。

 ……イメージを考えるのはまた後にして、適当にやるだけやってみようか。ゆっくり力を右腕に流していく。ギュー、ギューッとな。そうすると次第に右腕が熱くなってくる。この状態で振るっ!


「はっ!」


 シュッ!


 ……あれ?ただ早く振れただけで別に斬撃も出ていない。これじゃ違う。どっかで使えるかもしれないけど、今は違う。斬撃を出せるようになりたいんだよな。……うーん、最後に力が抜けたか?次は最後まで力を抜かないようにしてみるか。


 ……違うな。ダメダメだ。何回も繰り返したけど、最初と同じ結果だ。ただ腕が早く動いただけ。もっと未来の動きを思い出さないと。戦う時に必要な部分にデザイアを回して振ると言ってた。そこに対して力は入ってなかったし、動きも早いというわけはなかった。……戦う時に必要な部分?もしかして()()()()()


 右腕に集めて、そこから刀に流す。そんなことができるのかわからないけど、とにかく物は試しだ。右腕にこもっている熱いものをゆっくり流していく。ゆっくり、ゆっくり……。

 全部流し終えたところで刀の状態を確かめる。……別に変わってないな。てっきりバリバリッと電撃が刀の周囲に走ったりするかとか思ったんだけど。ま、まあいい。実際未来の時も鎌の状態は変わっていなかった。とりあえず振ってみよう。


「はっ!」


 大して速度は速くなかったけれど、振られた刀の先から透明の空気の膜のようなモノが放たれた。

 ……で、できた?できてるよな、未来のと同じだよな?


 パチパチ。


「そうです。よくできました。私の時代では刀は体の一部だといわれてきました。それどころか、心だという人もいました。だから私は自分の力を刀に込めるという考えはそれほどおかしいものではありませんでした。でも時代と共に戦いの種武器が刀から銃や爆弾に変わり、この考えは廃れていきました。だというのによく気づけましたね。」


 九三郎がすたすたとこちらに向かってきながらそう言う。ちなみに小次郎となぜか呼ぶと怒られる。そしてどこからか木刀を取り出すと


「さて、では模擬線と行きましょうか。今の斬撃や加速といった持ちうるすべてを使ってくれて構いませんよ。」


とにこやかに言い放った。……え?



「はっはっは!まだまだですね、守!相手の動きを見るだけじゃダメですよ!見失ったら負けますからね!」


 数分後、俺は大笑いをしている九三郎の前で倒れていた。……いや、強すぎん?なんも見えなかったんだが?気が付いたら面と胴に攻撃をほぼ同時に食らったんだが?おかげで視界が歪んでるし、お腹も痛い。


「ほら、立った立った。もう一本行きますよ。話に聞いたサタンとやらは私よりも強いかもしれませんからね。それに早く増えたデザイアを使いこなせるようにしないと!」


 わかってるけど動けんのよな、お腹が痛くて。


「メタトロンがいつでも治してくれるわけではありませんよ?ほら治すなら治して!」


 どんな無茶ぶり?治すってどうやるの?でもあの口ぶりからして俺にでもできる感じだよな?普通の人間は腹痛を自分の意思で抑えることはできないから依り代関連で。……デザイアの移動か?それしかわからんな。とりあえず右腕からお腹と頭に流していく。

 すると次第に……


「……ふう。治まってきた。」


 なるほど、メタトロンはこんな風にしてくれていたのか。でも戦闘中にこれをするのは無理だな。それより早く立ち上がるか。

 立ち上がって刀を構えると九三郎も木刀を構えた。


「じゃあ二本目行きますよ。」



 三十秒後、俺は再び地面に転がっていた。なぜ?さっきよりも速い段階で加速を発動できたんだけど、それなのに三十秒?いみふ。しかもまったく同じ攻撃を食らったし、その攻撃は見えなかったし。


「おやおや、守。ボーっとしすぎですよ。まったく同じ攻撃を食らうなんて、しっかり見てないとダメじゃないですか。まだそこまで速くないのでしっかり見ていれば分かるはずですよ?」


 いやいや、無茶苦茶だぁー!


 それから小一時間近く戦ったけど、そのすべての模擬線の結果は同じだった。途中から動きが見え始めたような気がするんだけど全部気のせいだった。ここにいられるのおそらく今回は時間的に明日だけ。確か一週間が一日だったから、六時間だったら二日弱なんだよね。最後に頭を一段強く打たれて俺は意識を失った。


 翌日、朝から九三郎と模擬線を行った。最初から加速を全開で使って必死に九三郎の動きについていこうとしたけど、途中から置いていかれて気が付いたら攻撃を食らっている、ということを繰り返した。そもそも同時に攻撃をくらうってどういう状況だ?俺の思考加速でさえ見切れない速度で攻撃してきているということか?でもしっかり見れば分かるっていうことは速度はそこまででもないはずなんだけどな。


 よし、次は食らっても構わないから攻撃をしっかり見ることに集中しよう。そのためには……。


「よし、じゃあ次行きますよ。」


 その声と共に九三郎が動き出す。加速を両方とも発動させてそれについていく。九三郎が振るう木刀を時に躱し、時に刀で軌道をそらす。そしてカウンターのように俺も刀を振るう。それを九三郎は体捌きだけで躱し最短距離で攻撃を入れてくる。木刀で受けることは全くしない。……くっ、これが練習量の差か。もっとたくさん経験を積まないと、九三郎には勝てないのか。それにまだ全然本気じゃなさそうだし。

 そしてとうとうその瞬間が訪れた。俺の視界から九三郎の姿が消えたのだ。その瞬間、俺はまっすぐ上に飛んで地面の方を見た。すると、九三郎は俺の死角に当たる、少し離れたところに立って木刀を構えている。あの距離的に木刀は当たらないんじゃ?

 その時、九三郎と目が合った。九三郎がにやりと笑うと、木刀を俺に向けて振った。すると木刀から斬撃のようなモノが放たれて俺の頭とお腹に直撃した。……なんだよ、そういうことかよ。それにしても飛びすぎだけどな。

 俺は地面に墜落した。



 はっと目を覚ますと、目の前に満足そうな笑みを浮かべている九三郎の姿があった。


「ふふ、最後はよかったですよ。見に徹したことはいいことです。むやみやたらに反撃を考えても攻撃が見えなければその攻撃をかわすこともできませんからね。でも一度でも攻撃を見ることだけを考えると、相手の攻撃をより良く見えるようになります。そうすれば、今回のように相手の攻撃のネタが見えてくるかもしれませんし、そこまでいかなくてもそれなりに情報が得られます。」


 今回の総括のようにそう告げる。それ以外にもたくさん得るものはあったけどね。教えてもらった型の行きつく先であったり、飛ぶ斬撃の距離であったり。


「外の時間ではそろそろ守が来てから六時間ほど経っています。確かそれくらいで今回は帰るんですよね?」


 その九三郎の言葉に軽く頷くと、名残惜しそうに俺とメタトロンのほうを見ながら静かに、また来てくださいね、と言うと戦闘人形の中に入っていった。

 それを見送って俺たちもブースを後にした。

次回、17日までに更新したいです。でも無理かもしれません。

よろしくお願いします。

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