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契約天使様の依り代  作者: きりきりきりたんぽ
3章 双子の呪縛
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強くなる方法

「……だったら裏世界行く。そっちの方がいい。」


 そう言うと、未来はルシファーを呼び出して扉を開ける。

 その扉をくぐって裏世界につくと


「一回だけ教える。あとは自分でやってみて。」


といって鎌を取り出した。


「まず、メタトロンも言っただろうけど、神臓から流れるデザイアは私達の体の中を常にめぐっている。でも、それは血液に乗せられてじゃない。いい?血管に乗せられているわけではないの。私達の体の中には見えないけど、確かに何かの管がある。そう考えて。」


 ……なるほど。確かに体の中を流れているって言ってたけど、血管の中を通っているとは言ってなかったな。でも、だとしたらどういうことなんだ?


「そうしたら、次に自分の体の中をイメージしてみて。今体の中にはデザイアが満ちている。五臓六腑はもちろん、四肢の末端まで。……戦う時に必要な所ってどこ?必要ない所ってない?」


「……ある。しかもたくさん。」


「そう。そうしたらその必要ないところにあるデザイアを戦う時に必要な部分に回してあげればいい。そうすれば例えばこんな感じになる。」


 未来が鎌を振り下ろすと、その鎌から10センチほど透明の斬撃のようなモノが伸びた。


「でも、やりすぎはダメ。どこであってもゼロにしたらダメ。そこは気を付けて。……あとは明日にでも修練場で試してみて。私は2、3日こもる。」


 未来はそう言うと、再び扉を開いてそれをくぐる。でも、その途中で俺が立ち止まっていることに気づいたのか、


「早く。もし、今リクレッサーに襲われたら今の守だと瞬殺される。ただでさえ今日はハードだったでしょ。朝ごはんを作ってくれたのも、血を吐いて倒れたのも、昼ご飯を一緒に食べたのも、レヴィアタンと戦ったのも今日の出来事なの。……まだ夕方だけどね。」


と言ってくれた。そう言えば確かに何回も寝たからわからなかったけど、全部今日の話か。……なんか不思議な感覚だ。数日たっていてもおかしくないのにまだ一日も経っていないなんて。

 足を未来が作ってくれた扉に運びながらしみじみと日常が変わったことを実感した。


 裏世界から帰ると、希が起き上がっていた。目をこすりながら


「……おはようございます。今何日の何時でしょうか?」


と寝ぼけ声で言ってくる。


「今は7月22日の16時。……まだ寝ておいて。依り代だから多少の無茶はきくけど、それでもいつか必ず倒れるから。」


 それに対する未来の声には少なからず心配の色があった。……俺に対してもそうだったけど、感情の起伏が少なそうなのによく見ていてくれるんだよね、未来は。でも、傍から見たらそんなことは分からないから、きっと他の4人から見たら不気味だろうな。……少しだけ肌を脱ごうかな。


「じゃ。私は修練場行ってくる。……二人はしっかり休むように。拒否権はない。

……あ、そうだ。ルシファー、二人がしっかりここで休んでいるかどうか見ておいて。」


 未来の中から出てきた黒翼の天使が俺たちの前に現れる。


「……しょうがないな。分かったよ、未来。私が責任をもって見張っておこう。」


 そう言いながらルシファーは希が横になっているソファーの端にゆっくりと腰を掛けた。……なぜか無駄に優美な仕草だったけど、気にしないでおこう。


「ああ、そうだ。じゃあメタトロンに出てきてもらおうか。話し相手がいてもらわないと暇だからな。」


 なんてことを俺を見ながら宣ってきた。しょうがないな、と内心でぼやきながら


「メタトロン、出てきて。」


メタトロンを呼びだした。でも多分不機嫌だろうな。きっとまた寝てたんだろうし。


「ふあっ!?なにごとですか!?」


 俺の中から出てきたメタトロンは驚いたように大声を上げて、周囲を見渡した。すると、あきれ顔の俺と寝ぼけ顔の希、そしてにやにや笑っているルシファーをその視界に収める。すると、その表情を真っ黒の笑顔に染めて


「どういうつもりですか?ルシファー?分かってて呼び出させましたね?」


ととてつもなく冷たい声を発した。

 ほらやっぱり。緊急事態じゃないときに無理やり起こすと絶対不機嫌になるんだから、このぐうたら天使は。

 そんなキレ気味のメタトロンに対し


「やあ、今朝ぶりか?なに、久しぶりに話でもしようかと思ってな。呼び出してもらった。」


と悪びれる様子もなくルシファーは言い放った。その言葉にメタトロンは笑顔を引っ込め、鋭い視線を向け、ルシファーは相変わらず相手を小ばかにしたような笑みを浮かべている。……もしかして天使同士の喧嘩が始まるのか?

 そう思ったところで


「はあ、まったくしょうがないですね。でも守を巻き込もうとしたら今朝のように怒りますからね。」


と、メタトロンがあきらめたように言った。……おおー!?メタトロンが思ったよりも大人だった!?面白いな、このぐうたら天使が大人な対応をするなんて。


「何を意外そうな顔をしているんですか、守?私はいつでも頼れる天使様でしょう?」


「確かに戦闘中は頼れるけど、普段は寝てばっかだろ?」


「戦闘中にしっかりサポートしているからいいじゃないですか。普段寝ていても特に支障はないでしょう?」


 そう胸を張って言い放つメタトロン。まあ別にいいんだけど、なんか認めるのは癪だな。


「まあ、ルシファーの話し相手にでもなってやってくれ。今日はもう休まないといけないからな。」


「妥当な判断です。でも珍しいですね。暴走列車のように突き進んでいくのが守だと思ったんですが。」


 ……今日のメタトロンはなんか鋭いな。視線だけじゃなくて、思考も。おかしい。

 怪しんでいる俺の代わりにルシファーが答える。


「未来がもう今日は休めと言っていたんだよ。なんでも放っておくとすぐまた無理をするからとな。その監視のために私がここにいるんだから。」


 その答えに納得がいったのか、メタトロンは軽く頷くと


「次からは言われなくても休めるようにしてくださいね。じゃないと強制的に眠らせますからね。」


と俺に向かって言い残し、ルシファーの隣に座る。

 からかってくるのかと思ったけど、そういうわけでもなく少し拍子抜けだ。もしかして俺が疲れてるからって気を使ってくれてるのか?


「守君。休まなくてはならないなら文化祭の出し物について少し話しましょうか。」


 背後から寝ていたソファーに体を起こして正座で座っている希に声をかけられた。……そういえば文化祭の話をしようって思って外に出たらレヴィアタンに襲われたんだった。すっかり忘れてた。


「そうだな。けどな、なんていうか、……着替えなくても大丈夫か?」


 そう、寝起きの希は服装が乱れていて、スカートがめくれていて白い下着が少し見えている。それだけじゃなく起きてすぐだからか、若干来ている服が汗で湿っているような気もする。

 それを指摘すると、希はボッと音が出そうなほどの勢いで顔を真っ赤に染めてリビングを出ていった。……そういえば着ている服が違ったな。着替えてくればって言ったけど着替えなんてあるのかな?まあ、いっか。


 少しして希が見覚えのある服を着て戻ってきた。まだ若干顔は赤いけど。


「……思い出しました。守君、今朝も確か私が起きた時の側にいませんでしたか?」


 あっ……。そっちを思い出したのか。……やばいな。そっちは変に逃げようとしたから余計に。でもここでとぼけるのはまずい。あの顔は絶対確信をもってる顔だ。


「あー、それはな。修練場から帰ってきた時がちょうどその時間だったというか。」


「え!?では守君は修練場でどれくらいの時間を過ごしたんですか?」


「だいたい一週間くらい。でもそれも中は何も時間が分かるものがなかったから感覚なんだけどな。」


 そうか、じゃああの中での一週間は一日じゃないな。おそらく正確には一週間は18時間とかだな。……まあどうでもいいか。


「つまり上限まであの中で過ごしたんですか……。すごいですね。あの中でも寝れるとはいえ積極的に寝ようとは思えませんでしたよ。」


「まあ半分ムキになってただけだけどな。……さて、じゃあ文化祭どうするか話そうか。」


 ようやく本題に入れる。ちなみにメタトロンとルシファーは念話のような普段俺とメタトロンが使っているモノを使っているようだ。だから声が全くしない。

 これはありがたいな。


「そうですね。では以前も話したと思いますが、去年は喫茶店をやったそうです。実際これが一番楽でしょうね。何せ紅茶かコーヒーを入れてお茶菓子を提供すればいいので。」


「そうだな。でも去年とまったく同じだとそれはそれでまずいだろう。だからどこかにオリジナリティというか、変更点を出さないといけないな。例えば、お茶菓子だけじゃなくて軽食も提供するとか。」


「そうなると別の許可も取らないといけませんね。それに一年と三年は星辺高校の校舎でやるので、うちの校舎の家庭科室の近くを取らないといけませんね。」


「そこらへんは教師陣と要交渉か。きっと別の出し物もあるだろうし、バッティングしないようにしないとな。まあ交渉が始まってみないとわからないが。

 他のメニューとかについても決めるか。」


「そうですね。ではまず飲み物から。

簡単に紅茶とコーヒーといましたが、どれくらい品数をそろえるべきでしょうか?私的には六種類くらいでいいかと思いますが。」


「そうだな。コーヒー二種類、紅茶四種類が妥当か。紅茶は『あふたーぬーん。』に協力してもらうか、市販の茶葉を淹れるか。コーヒーは特につてがないから市販しかないな。」


「そうですね。確かにアフターヌーンはたくさんの種類の紅茶がありましたもんね。学校を通して話を通してみてもらいましょうか。もしできなければ市販のもので。コーヒーは、……私が知っている中でもたくさん種類があるので大丈夫でしょう。」


「じゃあ飲み物はそれでいいな。次はお茶菓子と軽食か……。…………。」




「……ふう。こんな感じで企画書を作って先生に渡しましょうか。とはいえ、去年と似たようなものをするのでどこかにつてはありそうですが、その時はまた相談しましょうか。」


「そうだな。またその時はよろしく頼む。……夏休み明けたら、クラスの皆にこれを紹介するのか。……企画するよりもそっちの方が面倒くさいな。」


「あはは。まあそれは同意ですね。やらなきゃいけませんが、できればやりたくありませんもんね。」


 うーん、やっぱり不思議と考えが合うな。女子のことは基本的に苦手だけど、希にはそれもないし。……思えば春にも愛梨先輩にもそこまで感じなかったな。天使の依り代にはそういうのがあるのかな。


 文化祭の企画の話し合いが終わってゆっくりしている時、修練場との扉になっている魔法陣が光を放ち始めた。そしてその光が収まるとそこには4人が立っていた。

次話13日の予定です。

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