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契約天使様の依り代  作者: きりきりきりたんぽ
2章 歪んだ自信
34/59

わたしの見る世界 ※未来視点

ち、遅刻です。すいません。

少し短めです。

 守と希の二人を玄関まで見送った。


 天使達は心の傷の深さを依り代にする時の判断材料にしている。だから、依り代である以上皆多少は狂ってる部分がある。でも、あの二人はその中でも特異だ。


「なんで、傍から見ても普通のヒトに見えるんだろ?」


 他の依り代は戦い方や普段の生活を見ているだけで、何となく狂っているのがわかる。武も春華も、一誠も愛梨も。他の人から見たらそうでもないのかもしれないけど、私から見たらあまりにもおかしすぎる。当然彼らも天使の依り代になり、殺し合いという命のやり取りを経験したからというのもあるだろうが、それだけじゃない。

 なのにあの二人に限っていえば、いたって普通の高校生だ。楽しいことがあったら笑って、つらいことがあったら歯を食いしばって耐えて、時には涙を流して。そしてどうすればいいかを模索する。あまりに人間的すぎる。

 そう、彼らは日常とかけ離れた生活をしているのにも関わらず、それを全く感じさせない。


「……私も人のこと言えないけど。」


 二人がついさっきまで立っていた玄関をしばらくボーっと眺めながら思考を巡らせていたけど、いつまでもそうしているわけにもいかない。二人には修練場に行く、と言ったけど私は自分の部屋に向かった。誰にも入るなと言っていた私だけの部屋。一目見ただけだと特に変哲の無い、ただただ普通の部屋。電気をつけると、学習机に本棚にベッドがあるだけの殺風景な光景が広がる。でもここには私しか知らない、知ってはならない秘密がたくさん眠っている。


「……ルシファー。そろそろ動き始めるかもしれない。だから監視お願い。」


『任せろ。情報を掴み次第すぐに未来に伝えよう。』


「ん。任せた。」


 さあ、それまでに私も準備をしておかなくちゃ。今度こそ約束を果たして見せる。


「……待っててね。先輩。」


 びっしりと予定が書きこまれた手帳を机の中に大切しまい、そっとカギをかけた。



                    ★★★★★★★



 リビングで私の天装(双鎌)を出して手入れをしていたところ、頭の中にルシファー慌てたような声が流れてきた。


『メタトロンから緊急通信が来たぞ!だが、これは何だ……?阻害されているのか……?とにかく、最上位魔性(サタン)の依り代と思われる個体に遭遇したとのことだ!』


「行くよ。間に合わなくなるかもしれない。」


 ルシファーは慌てているようだけど、まだまだ大丈夫。私ができていたのはあくまで推測だから多少のずれがあってもしょうがない。だから、私のできることは最速で行動を起こすこと。


 ルシファーに穴を開けさせて裏世界にすぐさま飛ぶ。


「二人の場所は?」


「あっちの方向にまっすぐだ。全力でだいたい十五秒くらいかかるぞ。」


「急ぐよ。ついてきて。」


 ルシファーから二人の居場所を聞いて、すぐに移動を開始する。ルシファーから流れてくるデザイア(天使パワー)を下半身に集中的に回して、脚力を無理やり向上させる。そうすることで守のしていた身体強化のようなことができる。……まだ、誰も気づいてないけどね。


 走っている途中で向かっている先に緑色のカーテンのような何かが空から降りてきた。


「あれは、……結界か!?だが、もうそこまでできるのか?」


「分からない。私達も深淵に言ったとはいえ、まだ全部知っているわけでは無いでしょ。

……むしろ良かった。あんな規模の大きいものを使ったら本人はまともに動けないはずだから。」


「だが、奴には依り代が既にいるんだぞ?大丈夫か?」


「大丈夫。もう着く。」


 話している間に結界の前までついた。そこにはウリエルと希が途方に暮れた顔をして立っている。となると、中に閉じ込められたのは守。なら大丈夫。なんだかんだ言って耐えてくれるから。

 でもこれを破るのは少し骨が折れそう。できる限り妨害されることは避けたい。


 希と二、三言話してから最後にできる限りでいいからと前置きして、私を守ってと頼んだ。……きっと最後の最後までやるんだろうな。ほんとにそこは相変わらずバカだ。

 いや、今私がすることはあれを壊すこと。


 とはいえ、アレは今の手持ちだと天地がひっくり返っても壊すことができない。あの結界はおそらく第二位階のはず。対して私の持って入る鎌は第一位階。だから無理。


 だったら、どうやって結界を壊すか?


『ルシファー。天装を()()()。準備して。』


『それは……、分かった。気をつけろ。私は全力でサポートに回る。』


『ありがと。』


 私の天装を第二位階に上げるしかないでしょう?とはいっても、それはできるはずのないこと。だからかなりの代償を払うことになる。


 ルシファーが天界再演をしてここら一帯を支配した。細かく言うと、絶望感とそれに類するものだけだけど。でも、それでできる。あの悪魔に怯えて周囲に隠れていたリクレッサーが居たおかげで。


 やつらから絶望感を吸い取り、それをすべて天装に惜しみなくつぎ込んでいく。外から大量のエネルギーを送られた鎌から少しずつ闇色の光が漏れ出してくる。よし、このままだと行ける。

 でも、絶望感を抜かれたやつらは私達に突っ込んでくる。文字通り恐怖というものを忘れたかのように。


 そんな無謀な突進をしてくるリクレッサーに対して希が矢の雨を浴びせていく。今朝にも気づいたことだけど、一発で確実に倒せるようになったんだね。いいじゃん。このまま任せちゃって大丈夫そう。

 リクレッサーが消える間際に再び大量の絶望感が集まる。……うん。計算的にはこの調子だと確実に足りる。足りなかったら、私の中から直接デザイアを送らなくてはいけないから若干リスキー。


 ……できる限りでいい、って言ったよ?なんで希は倒れてるの?……はぁ。まあミカエルが来てくれたからよかったけど。


「希を連れて離れて。あなたならどうにかできるのでしょうけど、もうこれ止められないから。」


「……分かった。行くぞ。」


 ミカエルの依り代が希を抱えて離れていく。それを確認してから鎌を一度消す。


「ルシファー、やるよ。」


「ああ、安心しろ。私がいる。」


 そうだね。失敗は許されない。でも、私にはできる。何回も練習した。……よし、


「天装、進化(アクティベート)真夜中の悪夢(ナイトメア)!」


そう叫ぶと、手からあまりにも深い闇色の光が漏れてきて、それが固まり一つの武器を形作る。

 長い柄に、とてつもなく大きな刃が大きな弧を描いている。そしてその刃の内側から絶えず闇色に光が漏れ出ていて、中に込められている力の大きさを雄弁に語っている。

 でも、対照的に私にはほとんど力が残されていない。肝心の鎌を握る手には握力はほとんど残されていないし、それを振るうほどの腕力も残っていない。必要な分を全部外部から補給できていてもこうなる。身の丈に合っていないのが分かりやすすぎるほど分かるいい例。……これもアウト。もっと余裕が持てるような段階に至ってからじゃないと。


「はぁ。はぁ。できた。……あとはこれを振るうだけ。」


「大丈夫か?……私もいっしょに持とう。」


 心配したルシファーがもう必要なくなった天界再演を解いて、私の持っている鎌に手をかける。


「……大丈夫。こうなるのは分かってた。最後も私にやらせて。」


「……そうか。……あとで守にはごはんを作ってもらおうな。助けてやったんだから、とびっきりおいしいごはんを。」


 ルシファーが茶化すようにそんなことを言う。でも、それもいいかもしれない。あんなおいしいごはんは久しぶりだった。


「……いいね。」


 ごはんのことを考えると、力が少しだけ湧いてきた。振るうなら今しかない。


「行けっ、ナイトメア!」


 思いっきり大上段から真下に振り下ろした。すると、ナイトメアから少し青みがかった黒くて、細い斬撃が結界に向かって放たれる。


 その斬撃は結界にぶつかると、内包したエネルギーを結界にたたきつけた。


 結果、絶対に壊せないはずだった結界に小さなヒビが入り、そのヒビは周囲に恐ろしい速さで広がっていった。

 そのヒビが結界全体に広がっていくのを私は静かに見守った。


 そしてヒビが結界を飲み込んだその時、決定的な音が放たれ、見えなかった中の様子がうっすらと見えてくる。


 そこには、守と守を抑えるようにその頭に手を当てているメタトロンの二人の姿があった。守の手には明らかに変形した刀が握られている。

 でも、既にサタンの姿はなく、ただ傷だらけの二人がそこにいた。


 ――でも生きているようで、間に合ってよかった。


 そう隣にいるルシファーにも聞こえるかどうかの声で小さく呟くと、私も意識をそっと手放した。

次話、八日までに投稿します。

もしかしたら明日投稿するかもしれません。

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