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神様が生まれた日

投稿遅れてすいません。

1週間に少なくとも1話は上げていこうと思っています。

一話当たりの分量は変える予定はありません。

 ……ああ、まただ。


 みんな遊んでる。


 外で楽しそうに。


 なのに俺はそこには入れない。


 「天才」だから……。



    ★★★★★★★



 キーンコーンカーンコーン。


 面白くもない授業の終わりを知らせる鐘の音が鳴り、学級委員の声を合図にそれを待ち侘びていた生徒たちが勢いよく席を立つ。俺こと九条守もまたそんな生徒のうちの一人で、筆箱の中に文房具をしまいながら立ち上がった。


「起立!気を付け!礼!」


「「「ありがとうございました!!」」」


    ★★★★★★★


「ふうー、ようやく今日の授業も終わったな。」


 今日も一日授業を六時間も受けた。もう高校生になって一か月ぐらいたったけど、全然慣れないな。

それにしても全然面白くなかった。日本史とかなんでやる必要があるのか全く分からん。まだ数学とかの方が面白いよ。ああ、そんなことより早く家帰って昨日の続きを読みたいな。


「おうおう。今日もでかいため息ついてんな、守。

そんなに今日の授業もつまらなかったか?」


 隣から声をかけてきたのは幼馴染の斎藤圭介(さいとうけいすけ)だ。

もう鞄に教科書や筆箱をしまって帰る準備を終えている。


「……まあね。教科書に書いてあることを繰り返すだけの授業とか本当に受ける価値がないと思うし。」


「はー、なるほどね。お前は昔から地頭がいいからな、そんな風に感じるのかね。

俺はそんなお前にテスト前に助けてもらってるから何も言えんが。

 ま、そんなこといいから帰ろうぜ。今日は部活ないだろ?」


「そうだね。さっさと帰るか。」


 カバンの中に荷物を押し込むと、椅子に掛けておいた学ランを着てカバンを左肩にかけた。

そして、圭介と一緒にまだ居残って喋っている同級生がいる教室を後にした。



 俺の通っている学校は天辺高校(てっぺんこうこう)という学校で都内でも有数の進学校だ。男子校の天辺、女子校の星辺(せいへん)といわれている内の片方だ。最寄り駅からも徒歩2分と立地もよく、志望する学生はとても多い。そしてこの学校は別の意味でも有名だ。というのも文化部の成果がとんでもないことになっているのだ。関東大会優勝はもちろんのこと、全国大会優勝している生徒もたくさんいる。将棋部や囲碁部をはじめとして、クイズ研究会なども活躍をしている。

 しかし運動系の部活動がほとんどない。校庭と体育館は合わせてテニスコート3面分ととても小さく、水泳の授業の時に使うプールは近隣のスポーツ施設のものを借りているためだ。これで運動部が盛んであるはずがない。まあ、俺も体を動かすのは好きじゃないから気にしてないんだけどね。


「そういえば、最近ラノベっていうのを読んでるんだけどさ。

読んだことあるか?」


 家に帰る途中の電車の中で圭介がいきなりそんなことを聞いてきた。

ドキリと心臓の鼓動が速くなるのを感じた。


「ら、らのべ?聞いたことないな……。」


「そうかそうか。なら俺が紹介してやろう。ていっても最近本屋で見かけたんだけどさ。

普通の物語なんだけどな、こういう感じに挿絵がついてて……。」


 電車の中でカバンの中からラノベを取り出してその説明を始める圭介。

時折ページをめくって挿絵をいくつか見せてくるけど、その挿絵が微妙に際どい。その、なんていうか電車の中で美少女のえちちな絵を見るのってなんか恥ずかしい。誰も見てないってわかってはいるけど、居心地がとても悪い。顔が少し熱くなっていくのを感じる。

 や、やめろ。そんな大きい声でラノベの説明をするな。周りの目が気になって仕方がないじゃないか。


「……な?すごいだろ?

それにこの一冊だけじゃないんだ。これはシリーズ物の1巻でもっと続きがあるんだってよ。

帰りの本屋によって続きを買う予定だけど、一緒に来ないか?

他にもシリーズ物の作品がいくつもあるから、お前も面白そうなの探してみたらどうだ?」


「わ、わかったよ。それと、それカバンにしまえ。

じゃなくてもページは閉じろ。」


 ものすごい勢いで圭介が説明してくれていたから止められなかったけど、ようやく言えた。

挿絵のページだけはせめて閉じてほしい。そこは一人で読むときにしっかり読むタイプなんだよ。


「おお?ああ、悪い悪い。いきなり挿絵の説明とかされても困るよな。

実際に読むときに一緒に見たらきっと挿絵の良さもわかると思うんだよ。」


「へ、へぇー。」


 ちょうどその時、俺たちの家の最寄り駅についた。

その駅には駅直結の商業ビルが建っていて、そこにはレストランやスーパーマーケットはもちろん、電気屋さんやその他日用品が売っている店が入っている。そのなかには大きい本屋さんも入っていて、俺たちが今ちょうど向かっているところだ。


 本屋さんに入ると、独特な空気が鼻の中に入ってくる。紙とインクの匂いがほのかに香り、パラパラとページをめくる音が時折響く。どこか別世界に迷い込んだかのように感じられる。実際、ここにいる間は他の事を忘れて本の世界に飛び込める。


「確か、ラノベのコーナーは……小説の裏だったかな。」


 圭介に連れられ、いつも来ている小説とラノベのコーナーにたどり着く。


「ここがそうだ。

じゃあ、30分後にここ集合で。」


 そう言い残すと、圭介はずんずんと奥の方に向かって行ってしまった。

おいおい、初めて来た(はずの)人を置いていくのかよと思いながら俺は俺で本屋をめぐる。

 まず、小説の新刊コーナーを見て普段読んでいる作家の新作が出てないかどうかを確認する。違う作家の本でも気になる作品があったら、裏の作品紹介の所に目を通す。そして買いたい本があったら最後にまとめて買うためにタイトルを覚えておく。

 その後、ようやくラノベのコーナーだ。

俺は前までは小説の方が好きだったんだけど、最近ではどっちも同じくらい買って読んでる。特にラノベは一冊完結じゃないのがいい。作者の伏線を考察したり、続きを予想したりでたくさん楽しめる。


 さて、今日はどんな本に出合えるか楽しみだな。



「……おい、守。もう30分経ったぞ。」


 不意に後ろから名前を呼ぶ声がした。本の世界から引きはがされるのに不快感を感じながら振り返ると、圭介が3冊ほどの本を持って立っていた。ちらっと時計を見ると、確かに分かれた時間から30分経っている。


「……マジか。あっという間だな。」


「だろ?続きは買って家で読め。これ以上は店に迷惑だからな。」


 そう言って圭介は戻っていく。その背中を読んでいた本とその続きの1冊を取って追いかける。


「よし、取ってきたな。じゃあ会計に行くか。」


「ちょっとまって。もう一冊取ってくる。」


 そう言って、小説の新刊のコーナーから気になっていた本を一冊取ってから会計に向かった。


「合計で、1950円です。ポイントカードをお持ちでしたら出してください。」


「あ、じゃあお願いします。」


 店員さんに言われた通りにポイントカードを出す。


「現在ポイントが490ポイントありますが使いますか?1ポイント1円換算になりますが。」


「大丈夫です。」


「ありがとうございました。」


 店員さんに本の入った袋を手渡してもらう。当然、カバーはつけてもらっている。

店を出たところで圭介と合流して、買った本について喋りながら空調の効いた駅ビル内をのんびり歩いていた。あの本が面白そうだった、とかあの本の帯は結構手が込んでいたとか。

 ちなみに俺が買ったのは「神話創造期」という本で、最近出版されたのか見たことがない本だった。


 駅ビルから出ると、もう空は日が落ちて暗くなってきていた。時計は午後5時半を指していて、生ぬるい風が俺の体をなでる。


「じゃ、また明日な。遅刻すんなよ。」


「お前こそな。俺はこれまで皆勤だぞ。じゃあな。」


 駅ビルを出たその場所で圭介と別れる。というのも俺は駅の東側に住んでいるが、圭介は駅の西側に住んでいるからだ。圭介はいつものように軽口を叩いて、軽く手を振ってから去っていく。


「……もうこんななのか。急ぐか。」





 駅から家に向かって歩きながら、今日あった事を思い返していく。

それにしても、あのハゲ教師の授業はつまらなかった。一番上のクラスの担任のくせにあんな教科書をただ読んだだけの授業とかして恥ずかしくないのかな。それに比べて、数学の先生はよかったな。今年来たばかりって聞いてたけど、しっかりと教科書を読んだだけじゃわからないことを教えてくれる。でも明日数学はなくて、あるのはあのハゲの日本史だけ。はあー、憂鬱だな……。

 いや、もうやなことを考えるのはやめよう。さっき買った本のことについて考えよう。

最近あんまり見ない神話の話だったんだよな。ちょうど天使と悪魔が戦ってるいい所で時間になっちゃったから続きがすごい気になる。多分だけど、一回劣勢になってから主神とかが飛んでくると思うんだよね。俺くらいの読み手になると、先の予測はできてしまうんだよ。


――…………になって……さい。――


 そんなことを自慢げに考えていたところ、突然何かが聞こえてきた気がする。気がするっていうのも、耳がその音を捉えたわけではなさそうだからだ。心に話しかけてきたっていうか、直接脳内に語り掛けてきたって感じだった。周りを見回したけど、やはり誰もいなかった。

 気のせいかと思ってため息をつきながら、首を回した。特に何の意味もなく、ただ疲れたなあと思いながら首を一回大きく回そうとしただけだった。そうしたら、()()が近づいてきていた。その何かは特に明るいとか大きいとかの目立つ特徴を持っていたというわけでは無く、でもそれはかなりの違和感を俺に感じさせた。


「え?」


――私の……になってください。――


 思わず口から洩れた言葉にさっきよりも少し明瞭になった返事が来た。

いや聞き間違いとかじゃないのかよ。ちょっと混乱してきたぞ。それにだんだん近づいてきてるし。


――私の依り代になってください。――


「は?」


 今度は全部の言葉がしっかりと聞こえた。でも言ってることがわからない。

なんだよ依り代って。恐山じゃないぞ、ここは。


――だから私の依り代になってと。――


 だから、言ってることは聞こえてるって。内容が理解できないだけだ。

それに俺の声も聞こえてるのか?


――そうじゃないと、来る脅威に立ち向かえないですよ?――


 ……もう意味が分からん。声だけじゃなくて、俺が思った事も聞こえてるのかよ。


――てへっ。すごいでしょ。――


 …………。


――ああ、思考放棄しないでください。……あ、着きました。――


 思考放棄した俺の頭にその言葉が響いた直後、

―――俺の前に一人の天使が降り立った。


「さあ、私の依り代になってください。」


 そう、作り物のような整った見た目をした少女はいい笑顔で俺に手を差し出しながら話しかけてきた。

「面白い」、「続きが気になる」、と思ったら是非ブクマ登録と評価の方をお願いします。

モチベにつながります。

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