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契約天使様の依り代  作者: きりきりきりたんぽ
2章 歪んだ自信
29/59

忍び寄る脅威

遅刻しました。

 4人が裏世界に旅立った後、時間が止まった世界で俺は未来と二人っきりになっていた。何せ希は寝てしまっているからね。二人で無言だとなんか気まずいよね。……あ、前から気になってたことがあったんだった。


「そういえば、あの天界再演?って俺にも使えるの?」


 前、未来がディアボロスを瞬殺した時に使ってた技は確か天界再演とかって言ってたはず。


「……ムリ。使おうとしたら死ぬ。あれは依り代が使える最上級の技だから、当然今のあなたじゃ役不足。」


「そうなんだ。」


 うーん、なんか奥義みたいな感じがするとは思ってたけど、使ったら死ぬんだ。じゃあ、仕方ないか。


デザイア(天使パワー)の許容量がまだそこまで高くないんだから、まずはそれを上げることから始めて。戦う数をこなせば増えるから。」


「……分かった。」


「……次は私の番。希、あなたも聞いて。起きてるんでしょ?」


 その未来の言葉に驚いたのか希がピクッと肩を揺らした。そしてもう狸寝入りはできないと悟ったのか、上半身を起こした。


「よく気づきましたね。寝たふりには自信があったんですが。」


「その程度に気づけないようじゃ、深淵には行けない。行く前に殺される。

……じゃなくて、私の質問に答えてもらう。

 あなたたちは死ぬことが怖くないの?なんであんな窮地に自分を追い込むの?」


 未来の冷たい視線が俺と希を貫いた。いつも通り表情に変化は見られないものの、その瞳には静かな怒りが灯っていた。それはきっと俺たちのことを心配しているからだろう。


「いい?今回は私がいたからよかった。あなたたちはそれをよく把握したうえで立ちまわっていた。でも、どこにも逃げの姿勢が見られなかった。他の4人には少なからずそれが見えたのに。

 それに前に説明したよね?リクレッサーとの闘いは長期戦になりやすいの。血を吐いて斃れるような戦い方はしちゃいけない。もしあなたたちが死んだら、私と4人でリクレッサーと戦わなくてはいけなくなる。そうしたら、まだ救えるかもしれない人類が滅亡することになる。

 ……あなたたちは私よりもはるかに賢い。だからきっと何か考えか、その行動をとってしまう何かがあるのだと思う。それを教えて。」


 じゃないと、もう私はあなたたちのことを信頼できなくなってしまう。戦いに行ってこいなんて言えなくなってしまう。

 と、未来は切実に続けた。


 そうだな、そんなこと考えたこともなかった。でもあるとしたら、それはきっとあのことかな。



                      ★★★★★★★



 俺は周りとは物心がついたときから少し違っていた。

勉強ができた。授業を聞くだけでテストで満点をとれるくらいには。

運動ができた。運動会のリレーの選手に選ばれるくらいには。

そして、……俺には家族がいなかった。小学4年生の時には、もう。


 当然、そんな俺は学校では浮いた存在になった。同級生の親が、あの子は両親がいないのよ、何か取られるかもしれないから近づいちゃだめよ、とかわざと俺に聞こえるような声量で言ってるのを聞いたこともある。そんなことを言っているときの表情は悪意に満ち満ちていてあまりの醜悪さに吐き気がするほどだった。両親がまだ生きているときでさえ、天才だなんだ、っていって俺を特別扱いして距離を置こうとしていた同級生たちは、一人の親が言い始めたことがクラスに広まると誰も俺に話しかけてくれなくなったし、話しかけても無視されるようになった。教師も当然気づいていたはずなのに、それを止めるどころか助長するような行為を取り始めた。


 ……あの時に事は今でも鮮明に覚えている。

他クラスの同級生が俺のクラスに入ってきた時のこと、ずっと一人で本を読んでいる俺のことが浮いて見えたのだろう、どうして一人でいるのかを聞いてきたことがある。確か転校生だったか。

 その時、名前も知らないただ近くにいただけの同級生が


――こいつは天才だから凡人の俺たちとは仲良くしたくないんだってさ。


と物知り顔で言ったのだ。

 その時感じたのは、勝手なことを言った同級生に対する怒りや憎しみじゃなかった。俺のことを嫌悪感のこもった視線で見てくる転校生に対する諦めのような半端な物でもなかった。


 俺は、その時自分を含め、人に、世界に絶望したのだ。両親という唯一頼れる人がこの世を去った後に俺は希望を見出せなくなっていた。周りの人間すべてが敵に見えた。


 天才という言葉(レッテル)を少し優秀な人間に張り付けることで、努力していない自分から少しでも目を離そうとしている凡人(同級生)に。そんな“天才”をよってたかっていじめることで少しでも優越感を得ようとしている凡人(教師連中と保護者)に。

 そして、そんな凡人(ゴミ)にありがたられている“天才”も一人でなんでもできるわけでは無くって、こんな風に簡単に心が壊れるんだと。……いや、一人だと生きることも危ういのだと。


 ……なんだよ、この世界、クソかよ。救いなんてないじゃないか。


 天才にも凡人にも絶望した俺はもうそれから何もにも期待というものをしなくなった。だって、どうせ誰かに何かを頼んだところで天才じゃないから、とかふざけた言い訳並べるだけでしょ?それで最後の最後に俺にそのお鉢が回ってくるんでしょ?だったら、俺がやることは全部い俺だけが決める。そして決めたことはやり遂げる。……それが、もう会えない両親が俺に言い残したことだったから。



                     ★★★★★★★



「だから、俺は別に人類が滅亡しようがどうでもいいんだ。ただ、死ぬその時まで両親との約束を守り続けるだけだ。人類の滅亡に少しでも抗うっていう自分で決めたことを最期までやり遂げる。


 ……重い話をしちゃって悪いな。これで答えになってるとありがたいんだが。」


 俺が話し終えると、部屋の空気がとても静かになっていた。……そりゃそうか。こんな話聞いてて気持ちのいいものじゃないしな。


「いい。次、希は?」


「わ、私ですか。ええと、では……。」


 希は少し戸惑ったように話始めた。



                     ★★★★★★★



 私は平凡な家庭に生まれました。両親も普通に共働きのサラリーマンですし。

でも、違うところが一点だけあるんです。それは守君と同じように、特に苦労することなくテストで毎回満点をとれていたことです。

 最初は誇らしかったです。毎回帰ってくるテストには花丸がついていましたから。友達にも普通に賞賛されていました。

 でも、途中から少し違和感を抱くようになりました。満点だった、って友達に言っても、微妙な反応を返されるようになったんです。前はもっとすごい、って言ってくれたのに。

 そして、その疑問はある時気づきに変わりました。私、のけ者にされている、と。誰も休み時間になっても話してくれないし、給食の時間も私はいない存在しないかのように扱われました。


 ……友達って一体何なんだろう?


 テストで点が取れることがそんなにダメだったのかな?そんな馬鹿にしているように見えたのかな?どうして?


 最後まで私と話してくれていた友人は


――あんた私達のこと見下してるでしょ?ほんっと、天才ってうらやましいわ。


と、私の心を抉るだけ抉ってから離れていきました。


 ……天才って何?私が天才だとでも?たかがこんなテストで測れるものなの?


 両親に相談したくても仕事で帰ってくる時間が遅すぎて、そんなことできませんでした。毎日夕飯の代わりに千円札がリビングのテーブルの上に乗っかっていたくらいですからね。きっと今も外で一泊していることにも気づいていないでしょう。


 どこに行っても私は一人ぼっちになってしまったんです。ゆっくりと時間をかけて私の心は荒んで、そしてどこか壊れてしまいました。


 どうせ、私が死んでも誰も気づいてくれません。少なくとも1週間は。そんな私に存在価値ってあると思いますか?ないです。いいや、あってほしくないです。今更もしそんなこと言われたとしても信じることなんてできませんから。

 だったら、この命を少しでも有効に使わなければ、申し訳が立たないでしょう?それこそ生きたくても、叶わない人だっているんですから。



                      ★★★★★★★




「……と、以上です。私は別に自分の命なんてどうでもいいんです。だから、せめてこの命が燃え尽きるその瞬間まで有効活用するんです。」


「……そう。」


 ……希もそうなのか。やっぱりクズばっかだな。わかってたことだし、もう関心もないけど。


「なら、守。私がその手伝いをする。それで少しでも長く抗ってみて。そして希。私があなたの命をもっと有効に使える方法を教えてあげる。

……ちょっと待ってて。」


 言いたいことを言うと未来は席を立ってさっき追い出された部屋に入っていった。二人残された俺たちは顔を見合わせて苦笑い。どっちも過程こそ違えど結果は同じだったからな。

 ゴソゴソという音を立てながら未来が戻ってきた。その手には剣道で竹刀をしまう竹刀袋に弓をしまう弓袋を持っていた。


「これの中に天装をしまって。もちろん常に出しっぱなしの状態で。そうすれば少しは体になじむのが早くなる。私もやってた。」


 そういいながら俺たちにそれを投げ渡してきた。

 そうか、これの中に出しておけば日常生活を送りながら訓練もできるって訳か。よく考えられているな。とりあえず実際にやってみるか。

 刀を取り出して、竹刀袋の中にしまう。……これだけで本当にいいのだろうか?


「じゃあ、一回駅まで行って帰ってきて。最初に集まった出口の所でいいから。」


 つまり、歩きながら維持ができるかどうかっていうことだな。任せろ。

 希と一緒にのんびり渋谷駅まで歩いて、出口の所でUターンして帰ってきた。リビングに入ると、


「出してみて。」


と未来に言われたから、言われた通りに出してみる。すると、


「あれっ?」「え?」


 俺の刀は半分ほど消えかけていて、希の弓は弦の部分と弓自体の上部分が消えていた。もしかしなくてもこれってむずいのか?


「ほら、できるまでやってきたら?4人が帰ってきても私が時間を止めたままにしておくから。」


 その未来の言葉に感謝して、何回も家と渋谷駅を往復した。5回目くらいからようやくコツがつかめてきた。常に刀のことを考えておかないといけない。具体的なところだとよりいい。例えば、刀の刃だったり、柄の握る感覚だったり。


「うん、その調子でこれからも頑張って。すぐに、とは言わないけど確実に強くなるから。」


 未来に認めてもらったところで、ちょうど4人が帰ってきた。リビングに光の穴が4つ開いて、そこから一人づつ出てきた。


「ふうー、実戦はやっぱり訓練とは違うなー。」

「そう?あたしは訓練の時とそこまで大差なかったけど。」

「あ、私もっす。修練場でできたことを全部試せたっす。」

「俺は無理でしたね。やっぱり喧嘩っぽく攻撃してしまいましたし。」


 各々が感想を言っているのを聞いていると、俺たちが背中にかけている袋に気づいた一誠が聞いてきた。


「おや?守君、その背中にかけているものは一体何だい?」


「ああ、これですか?」


 肩から外しながら、ちらっと未来の方を見る。すると、小さく頷いているのが見えた。じゃあ、教えても大丈夫ってことかな。


「これの中に天装をしまっているんですよ。常に出し続けていればもっとデザイアが体になじむんじゃないかって。」


 少しごまかした。まあ、俺だってどうして未来がこんなことを知っていたのかわからないからな。未来に飛び火するのだけだけは避けた方がいいだろう。ここを使えなくなるかもしれないし。


「なるほど、確かにそうかもしれない。僕もやってみよう。……と思ったんだけど、僕の天装は大きい盾だから無理かな……。」


 ああ、そういえば一誠はそんなこと言ってたな。攻撃を集中させることができる盾、だったか。まあ、俺とは相性が悪そうだな。どうせ集めた後に攻撃手段があるんだろうし、そんな中に近距離武器を担いでいったところで邪魔になるよな。

 同時に武とも相性は悪そうだ。あいつも拳でのパンチが主な攻撃手段だもんな。それ以外の中遠距離攻撃ができる女性陣とは相性がよさそうだ。是非とも頑張ってほしいね。


「そろそろ、お昼ごはんにしないっすか?お腹が空いてきたっすよ。」


 そんな春の声につられて時計を見ると、まだ十時半を指していた。そりゃそうだ。時間が止まってたんだから。まあ、お腹が空いたっていうのもわからなくもないからいいけどさ。


「じゃあ、材料だけ買ってこようか。誰かついてきてくれないか?」


「じゃあ、私が行きます。さっきまで休めていたので。未来さんも来ませんか?」


「……行く。メニューを決めるのは私。」


「あはは、まあ任せるよ。」


「言質は取りました。行くよ。」


 一誠の任せる、という言質を取ったところで俺たちは買い物に出かけた。なんか少し慌てたような声が聞こえたような気がするけど気のせいだろう。当然だけど時間停止は解除している。じゃないと買い物できないからね。盗みになっちゃう。

 焼きそばを作ろうってことになって、人数分の焼きそばにもやしに、キャベツを一球。あとは味変用にマヨネーズとソースを買って家に帰った。個人的には白菜でもよかったんだけどね。


 そんなウキウキで家に向かっていたから俺たちは気づけなかった。路地裏から俺たちのことを見つめる4つの瞳の存在に。

次回、26日までに投稿します。よろしくお願いします。


最近プロセカにはまりました。……むずいっすね。あれ。全然コンボがつながりません。

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