ちょっと遊びに行こうか。
「行くよ。出てきてルシファー。」
目の前で未来の側に黒翼の天使が出てきた。
「扉作って。」
「任せろ。」
ルシファーが手をかざすと、その前に扉のようなものが出来上がって大きく開かれた。そこに入っていく未来を俺と希が追いかけるようにして入っていく。
「メタトロン出てきて。」「ウリエル、出てきてください。」
そう、結局俺と希と未来の三人組で行動することになった。あの後、できることとか攻撃範囲とかを照らし合わせたところ、タッグは今の所崩すべきじゃないっていう結論に至った。そのうえで、未来の戦いを見たことがある俺と希ペアか武と春ペアのどちらかに未来が入ることになって、せっかくだから俺と希の所に来てもらったということだね。
で、早速3人で裏世界に行くことにしたのが今。さてさて、どうなるかな?
「後ろ5体来てる!」
「はい!ウリエル、5本ください!」
「左前方7体!」
「任せろ!メタトロン、行くぞ!」
「右前方10体!」
「私が行く。」
な、なんだこのラッシュは!周りが怒涛の勢いでリクレッサーが押し寄せてくる。こんなにたくさんのリクレッサー見たことないんだけど!?
「ははは!どんどん来るぞ!ほら左前方6体だ!」
これも全部俺たちの中心で高笑いしながら敵の出現を教えてくるルシファーのせいだ!なんかよくわからない魔法陣を作り出したと思ったらすごい勢いで俺たちの所にリクレッサーが飛んでくるようになったんだから。なんでもあれはリクレッサーを集めて一気に処理するために普段から使ってるらしいけど、それを事前に何も言わずに使うのはどうかしているだろ!ちなみに終わるのはここら一帯のリクレッサーを倒しきった後らしく、その魔法陣が消えるのが合図だとか。……いつ終わるんだよ!!
「おお!?今度は大量だ!30体!全方位!」
……は?今なんて言った?全方位?
ドドドドッ!
おいおいおい。冗談じゃねえぞ!
「割り当ては同じ場所で。来るよ。」
ああ、くっそ。やってやるよ!一人頭10体でいいんだろ!?
大きく前に出てできる限り後ろに余裕を作る。一番前の敵を倒して、一歩下がりながら次の型につなげる。絶対に安全な距離を保ちながら型を繰り返す。それに今回気づいたんだけど、近づきすぎるとリクレッサーって石を投げつけてこなくなるんだよな。そのおかげで投石っていう遠距離攻撃の対策をする必要がなくなって多少は楽ができる。
結局怪我なしで10体倒しきることができた。いやー、一撃必殺っていうのはいいね。型を多少は正確に振れるようになってからは一撃で倒せるようになった。
強くなれた実感と連戦による疲労感を感じながら急いで真ん中にいる天使達の所に戻ると、さっきまであった魔法陣が消えていた。
「お疲れ様だな。ここら一帯のは全部倒しきったはずだぞ。……何か言いたそうだな?」
「「やるのはいいから、事前に説明しろ(して)ーー!!」
「……(やれやれ)」
静かになった荒野に俺と希の声が響いた。
「……もうしわ゛け、ない゛。……グスッ!そんな゛、つもりじゃながったんだ。」
メタトロンとウリエルの二人に小一時間説教されたルシファーが泣きながら俺たちに謝ってきた。いやー、メタトロンがガチでキレてるのは割と初めて?まあ、基本この天使はぐうたらだからな。俺たちが危険な目に合いそうだからじゃなくて、楽しようと思ってたのに働かされたからキレてるんだろう。
その点、ウリエルはいきなりそんなことをしたら危険でしょう?と至極まっとうな理由で怒っていた。さすが正義の天使様だな。
「まざか、あの゛程度で、音を゛上げるとは、思わ゛かったんだ。」
……おっとー?この天使は煽っているのかな?……おや?隣から底冷えするくらいの怒気を感じるぞ?
「そうですかそうですか。ではもう一度あの魔法陣を作っていただけますか?」
まあ、隣に立ってたのは希なんだけどさ。すっごい笑顔なのに目が笑っていない。こわこわ。ルシファーにもう一度折檻しようと近づいていたメタトロンとウリエルも何かをごまかすように苦笑いしながらルシファーから離れていった。
そして残されたルシファーはというと
「え゛?」
「いいからもう一度作っていただけますか?」
「いや、あの……。」
「できますよね?」
「あ、はい。」
「じゃあ、やってください。もっと範囲は広げてもらって構いません。」
「わ、分かりました。」
希の放つ怒気を一身に受け、体が震えていた。流れていたはずの涙も消えていたし翼の先の方が何かに怯えるように震えていた。天使が怯えているときって背中の翼も震えるんだなー、新発見だー。それにしても希煽り耐性低すぎないか?その上めちゃくちゃ怖いし。……気を付けておこ。
そして仕切り直しとでもいうようにルシファーが例の魔法陣を作り出した。さっきよりも二回りほど大きいそれを。
「あー、ゴホンッ!先ほどここら一帯のリクレッサーは倒しきっているから、ここに来るまではそれなりに時間がかかる。しっかり準備をしておくといい。」
チラッ。
「準備、しといてください。」
希と視線が合った瞬間言い直したよこの天使。あれ?確か絶望の天使じゃなかったっけ?なんでただの人に恐怖心抱いているんだよ。
やれやれといわんばかりの俺たち、若干まだキレてる希、そんな希にビビっているルシファー、という謎の構図でリクレッサーの集団を待ち受けることになった。
「右前方6体!」
「任せて。」
「左前方5体!」
「任せろ!」
「後ろ5体です!」
「はい。ウリエル、5本。」
……なんか緊張感抜けるなー。なんでまだ希に怯えてるんだよ。口調も丁寧語だし。でもなんか単純作業だから別に何とも思わなくなってきたな。距離を詰めて、刀を振る。それからは後ろに下がって距離を保ちながら、刀を型通りに振る。これだけで倒しきれるからな。
そんな余裕の残っている態度に気づいたのか、一息ついたところで未来が俺に近づいてきた。
「今度は後ろ下がらないでやってみて。」
「ゑ?」
せっかく、安全な討伐方法が安定してきたのに?そう聞き返そうとしたときには既に未来は希の方に向かって行ってしまっていた。きっと俺と同じように何かアドバイスでもするのだろう。
「お疲れ様です。どうですか、そろそろ契約使ってみます?」
「そうだな。せっかくだから思考加速もしっかり使えるか試運転してみるか。」
実際一回成功してから一回も使えてないんだけどな。悲しいことに。
「はーい。じゃ、対価一時間の思考加速と行動加速でいいですか?」
「ああ、頼む。……そういえば、もう一つ契約できるっていつか言ってなかったか?」
「え?まあできますよ。最初に説明した通り大きい力を求めれば求めるほど対価が大きくなりますが。」
「うん。じゃあ、……。」
ちょうどそのタイミングでルシファーの声が聞こえてきた。
「来たぞ!左前方7体!」
「この話はあとで。行きましょう!」
「ああ。」
しまっていた刀を取り出して、リクレッサーに向かって飛び出した。
「うーん。ダメだな。やっぱり後ろに下がっちゃうな。」
未来に言われた通りにできる限り前に出ようとしたんだけど、うまくできなかった。きっとあの強烈な敵意に無意識のうちに身が怯んでしまうんだろう。前に出ようと思ってもろくに体は前に行かないし、下がっちゃだめだって思ってもやっぱり大きく後ろに下がっちゃうんだよな。
「ま、それは仕方ないんじゃないですか?というか、言われてすぐにあんな敵意の前に自分の体を差し出せるのであれば、それはそっちの方がおかしいですよ。」
「そうなんだけどな。」
やっぱり体が思い通り動かないのはもどかしいものがある。
「それより問題があるじゃないですか。そっちの解決の方が重要ですよ?」
「……。」
あー、わざと忘れてたのに。そうだよ。一回も思考加速できなかったよ。ただ、行動加速だけはしっかり発動できてるから戦闘時間は短かったけどさ。
「九三郎に教えてもらったやつ、しっかりやってますか?」
「やったんだけどな。思ったよりも敵の動きが遅すぎて使わなくても全然見えていたんだよ。」
「あ、そうなんですか。本当に細部までみてたんですか?」
……えー?見てないですけど?だってなんか黒いもやが絡みついてて見たくないんだもん。いや、実際結構よく見ると気持ち悪いんだよ。黒いもやがもぞもぞ蠢いているっていうかさ。よく見れば見るほど気持ち悪い。頑張っても集中が切れちゃうんだよ。
「次はしっかり見てくださいね。じゃないと三つ目は解禁しませんよ。」
悪い笑顔でそんなことを言ってくる。なんだか今日キレッキレだな。さっき無理やり働かされた時のガチギレでなんか吹っ切れたのか?
「分かった分かった。で、三つ目契約できることで例えばこの刀を強化することもできるのか?」
「できますよ。まだダメですけど。」
「それ以外に天法を使えるようになったりとかも?」
「……できます。ただ代償がかなり大きくなるでしょうね。」
ふむ、予想通り結構なんでもできるみたいだな。問題はその対価なんだけど。これまで通り時間だとしたらどれくらいかな。まあ一日とかまでだったら妥協できるかな。
「おっと、次で最後っぽいな。結構な大群が来るぞ。おそらくこの感じ、その中に下位魔性が一体いる。気をつけろ!」
「方向と数は?」
「右前方に50体。そしてその一番前にデーモンがいる。」
「……二人でやってみて。私は見てる。」
あっ、野郎。自分だけ高みの見物か!?となるはずもない。きっと未来ならあっという間に殲滅できるだろうに、その機会を俺たちに譲ってくれている。あの修練場の成果をここで出してみろと、もしもの時は助けられるからって。不愛想な未来なりの気遣いなのだろう。
当然希もそれに気づいているようだ。
「ありがとうございます。では守君、久しぶり……というわけではありませんが、お願いしますね?」
「ああ、もちろん。契約使うか?」
「……今回はなしでお願いします。せっかくの実戦なんです。自分の持てる力を把握しておきたいです。」
「そっか。……そろそろ見えてきたな。」
敵の姿が見えてきた。だんだんと黒い塊が大きくなってきているのが見てわかる。
「そうですね。前回と同じように私が周りのリクレッサーを倒していきます。その間デーモンをお願いします。」
「任せろ。……行くぞ、メタトロン。」
メタトロンの気配を後ろに感じながら敵に向かって走っていく。
「これで思考加速もしっかり使えるようになるといいですね。」
「そうだな。しっかりやりきって見せるさ。」
どこか他人事のようにつぶやくメタトロンにちょっと真面目に答える。
やりたいことが明確にできた。そして、やり方が分かった。だったら、ひたすら反復するだけだ。そうすればできないことなんてないんだから。あの勉強が全くできなかった圭介が俺と同じ学校の同じクラスにいるんだから、間違いない。……もしかして失礼か?ま、いいでしょ。
一番前を走っているデーモンとの距離が50メートルくらいになったときに立ち止まって天装を抜いた。
――さあ、サンドバックになってもらおうか!!
次話、明日投稿します。
よろしくお願いします。




