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契約天使様の依り代  作者: きりきりきりたんぽ
2章 歪んだ自信
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ちょっとした昔話

 六日目と七日目は九三郎が教えてくれた剣技をひたすら練習した。その剣技のおかげで九三郎の名前をどこで聞いたか思い出した。でも、そのせいで余計に謎が生まれた。

 あ、ちなみに思考加速はそれ以降一回も成功しなかった。なんで?

 九三郎との別れは想像以上にあっさりしたもので、


「ふう、あと少しでちょうど守が来て七日目です。いつでも来たいときには来てくださいね。」


そう九三郎は俺たちに言うと、戦闘人形に乗り込んで消えてしまった。地面に溶けるようにして消えたんだけど一体何なんだろうな?もう考えないけど。……今更だけど一週間で帰るって言ったっけ?帰るつもりなかったんだけどな。でもいつでも来ていいって言ってたし一旦帰るか。もう一回呼び戻すのもなんか忍びないし。


「ふうー。すごい頑張りましたね。濃密な一週間でした。」


「確かに得る物が多い一週間だったな。でもメタトロンは半分近く寝てなかったか?」


「え?何ですか?私がいつ寝てたんですか?」


「いや、それはさすがに通らないだろ。白を切るにしても無理があるぞ。」


「あはは、まあいいじゃないですか。そしてー!ここで朗報があります!何でしょう?」


 なんか無理やりテンションを上げてごまかしてきたな?まあいいけどさ。で、朗報ねえ。メタトロンのことだからこれが誰にとっての朗報かがわからないんだけどな。前は気持ちよく寝れました!とかベッドがよくなりました!とか言ってくれたしな。人の体の中で一体何してんだか。


「ソファーがよくなった、とかか?」


「あー、それはあるんですがそれだけじゃないんですよ!今回は守にとっても朗報ですよ!」


 今回()って言ったな?自覚あったのかよ。


「まあ、もったいぶってもしょうがないですね。なんとですねー、


――契約できる数が増えましたー!!」


 いえーい、とピースをしながら俺の周りを飛び回っているメタトロンを傍目に言われた内容について考える。契約できる数が増えた、か。今使ってるのは思考加速と行動加速の二つ。これに一つだけ何か加えることができると。うーん。頭と体を強化した後はやっぱり武器か?でも武装強化とかできるのかな?それ以外だと肉体自体を強化する感じとか?でもそれだとせっかく教えてもらった合気の技を使えないしな。……ま、あとで考えればいいか。とりあえずこの修練場から出ないと。

 いまだに飛び回っているメタトロンに声をかけて出口に向かった。


 修練場から出ると、最初に老人と話した空間に出てきた。相も変わらず老人は横になって寝ていた。え?いつまで寝てるの?メタトロンもびっくりだね。


「……ん?もう一週間か。充実した一週間だったかの?」


 でも俺たちが出てきたのに気配で気づいたのか、俺たちに話しかけてきた。……そこらへんはさすがというべきか。武人としてすごい優秀なんだろうな。でもこの人についても謎だらけなんだよ。


「まあ、それなりには。できることも増えましたし。」


「そうかそうか。まあお主以外は皆一回帰ったからの。またいつでも来るといい。」


 は?みんな一回帰ったの?


「そもそもお主の方がおかしいぞ?汚れないとはいえ、一週間もこもるなんて常人のすることではない。未来でもだいたい三日くらいで出てきたし。まったく儂の時代にもそんな仙人みたいなのはおらんかったぞ。」


 ……いや、そうかもしれんけど。まあいっか。誰もいないなら都合もいいし。


「いくつか質問いいですか?」


「答えられるものなら構わんよ。」


「それで構いません。」


 いくつも知りたいことがあるけど、でもまずはこれから。


「あなたは一体どれだけ生きてるんですか?別に具体的に何年とかでなくていいです。」


「……そうじゃな。前に言った事を覚えておるか?儂は神話の時代の戦いの生き残りじゃと。つまり、その質問の回答は、その神話の時代というのがいつかというものになるな。では、一体その神話の時代とはいつなのか?……儂にはその記憶がないのじゃ。ただ、そこを生き抜いたというだけでな。」


「覚えていることはないんですか?」


「……その時も今と同じように7人おった。天使の力をその身に宿し、厄災から人を守るために立ち上がった戦士がの。じゃが、今生き残っておるのは儂含めて二人だけじゃ。もしお主の知りたいことを知っているかもしれないのはあやつだけじゃ。もっとも、どこにいるかなど検討もつかんがの。」


「……どんな戦いだったんですか?」


 その質問をすると、老人は少し悲し気な表情を見せた。でもそれは一瞬だけで、すぐにそれを引っ込めた。


「……本当に長い話になる。ただ言えることは、あの時戦った神々は誰も間違っていなかったということじゃ。きっと誰が勝っても、今という現実は変わらなかったじゃろう。」


「……その神々というのは、創生の三女神のことですか?」


 突然メタトロンが会話に入ってきた。……創生の三女神って何ぞや?


「そうか、天使なら知っておるか。……そうじゃ、全知の女神、全能の女神、そして運命の女神。この三柱の女神がそれぞれの眷属を率いて人類の、ひいては世界の行く末を憂いて戦ったのが神話の時代の戦争じゃ。確か、開闢戦争(かいびゃくせんそう)とか呼ばれておったかの。

 この戦争での攻撃は一撃一撃が文字通り地を割り、天を裂く威力を内包しておった。流れ弾だけでいくつもの生物が絶滅に追い込まれた。じゃが、幸か不幸か大地には神々の力がしみ込んでおったからの、それに勝るとも劣らぬ速度で新しい種が誕生し続けた。

 それに加え三柱の女神は突如同盟を結んだと思ったら、すぐに離別しておったりと戦争は終わりが見えんかった。死の足音が毎日のように聞こえる中、地上に生きる人間を戦争の惨禍から守るために力を貸し与えられておった依り代も天使も限界が見えてきたんじゃ。

 ……本末転倒だと思うじゃろう?人がどう生きるべきかを決めるために戦っておった神々じゃが、その戦争のおかげで人という種が絶滅しかけたんじゃから。


 ……今日はここまでにしておこうかの。また続きは今度じゃ。」


「……え?」


 また唐突な。まあ、面白い話だったな。いくつも創世神話とかってあるけど、実体験みたいな感じで聞くと違う側面があって面白いな。それに多分メタトロンが知ってるってことは正しいんだろうし。


「まあ、今日は帰りなさい。その魔法陣に乗れば変えることができるからの。儂はもう寝る。」


「あ、はあ。お疲れ様です?」


 さっきまでめちゃめちゃ寝てたけど寝れるのかね?……すぐに寝息が聞こえてきたな。の〇太君かな?


「メタトロンはさっきの神話について知ってるの?」


「そうですね。おそらく知っていた、というのが正しい表現になります。さっきのご老人の話を聞いたときに何も違和感がありませんでしたし。でも聞くまではその存在を覚えてなかったので、思い出せない、ないしは記憶を封印されたという感じです。」


「そうか。ま、今度また教えてくれるっていうし今はいいか。」


 既に寝入っている老人に背を向けて俺たちが来た時に乗っていた魔法陣を起動させた。



 少しの浮遊感の後、再び足が地面についた感覚がした。ゆっくり目を開けると、例のリビングにある魔法陣の上に立っていた。窓の外から入ってくる日の光からして朝方っぽい。そして次に規則的な呼吸音が聞こえてくる。しかも一つじゃない。……誰か寝てるのか?でもこの部屋ソファー一つしかないんだけど。


「……ん?もう朝ですか?」


 こちらに背を向けるように置かれているソファーからそんな声が聞こえてきた。あれ、この声ってもしかしなくても希だよな。しかも寝起き声。

 俺の脳内で警鐘が鳴る。このままここに立っていたらまずいと。見つかったらただでは済まないかもしれないと。少なくともこれまで読んできた小説では寝起きに遭遇したら修羅場しかなかった。大慌てで足音を殺しながら隣の部屋に移動した。部屋の中は暗くてよく見えないな。

 ふう。ここまで来ればもう大丈夫かな?


「……誰?入ってきちゃダメって言った。」


 部屋の奥から今度は別の声が聞こえてきた。この素っ気ない感じは未来か?これはまずいですね。前門の()、後門の(未来)だ。いや、まだ未来に見つかった方がいいのか?よし、ここは勇気を出して


「俺だよ、俺。ちょっとの間かくまってくれないか?」


「……詐欺師をかくまう理由はない。出てって。」


 ちっげーよ!誰が詐欺師か!別にオレオレ詐欺なんてしてないだろ!


「いや!九条守だって。」


「いいから、出てって。ここ私の部屋。それとも誰か呼ぼうか?」


 それはそれで終わりだな。出ていくしかないか。……今のうちに言い訳を考えておくか。願わくば希がまだ起きてませんように。分の悪い賭けだけど。


「……分かった。出ていく。」


 どんな言い訳をするべきか……。納得ができて、かつしょうがないと思われるようなものじゃないとな。……もしかしなくても、そのまんま説明すればいいか?一週間修練場にいて、帰ってきたばっかりだって。そうするか。


 部屋からリビングに移動すると、希と春の二人が寝間着姿でボーっとしていた。


「おはよう。」


「ああ、おはようございます。」「……おはようございますっす。」


 挨拶すると、寝ぼけ声で挨拶が返ってきた。……現状をまだ把握できてないっぽいな。時計をちらっと見ると、六時半を指していた。まあ、まだ寝てる時間だからしょうがないよな。適当に朝ごはんでも作ってあげるか。確か近くにスーパーがあったはずだし。


 近くのスーパーで味噌と野菜と煮干し、鮭の切り身にレンジでも炊けるお米、あとは適当に紙皿と割りばしを買って帰ってくると、武以外の全員が起きてきていた。俺の帰宅にいち早く気づいた愛梨が話しかけてきた。


「あれ?どこ行ってたの、守ちゃん?」


「朝ごはんに必要な物を買ってきてました。それと守ちゃんはやめてください。」


「えー?料理できるんだ?」


「一人暮らしなので。……台所借りてもいいか?」


「……勝手にして。」


 未来の許可をもらったところで台所に移動した。煮干しで出汁とって、そこに味噌と野菜を入れて放置。ちなみに個人的には白味噌の方が好きだ。今回はなかったから赤味噌にしたけど。あとはレンジで米を炊いて、その間に鮭を焼いた。一応全員分作ったけど皆食べるかな?食べなかったり余ったりしたらメタトロンにあげればいいか。

 そんなところに一誠が迷い込んできた。多分男が一人しかいなかったから居心地が悪かったのかな?だって彼男子校生だからね!……俺もだけど。


「凄い手際だね。なんか手伝うことあるかい?」


「じゃあ皿に盛りつけてもらっても?」


「任せて。」


 ニコッと笑って紙皿に米と鮭をぎこちない手つきで盛り付けていく。……


「あの修練場での特訓はどうだった?僕が帰ってきた時にはまだ特訓の最中だったけど。」


「充実した一週間だったかと。確実に強くなったっていう実感もありますね。」


「そっかそっか。でもあの中で一週間も過ごしたんだね。僕は三日で出てきてしまったよ。」


「あの中本当に何もありませんからね。まあだからこそ集中できたんですが。」


「そうだね。これからも暇な時があったら行ってみようと思えるくらいにはいい環境だった。……さて、女性陣も呼んでこよっか。」


 盛り付けが全部終わったところで一誠が自分の分を持って、女性陣を呼びにリビングに向かって行った。……しまった醤油買ってくるの忘れた。塩だけでいいかな?


「あー、いい匂いー!お腹空いてきちゃったー。」


「そうですね。数日間何も食べていなかったから余計にお腹が空きますね。」


「守先輩料理もできたんですか?すごいっすね!」


「……お腹、空いた。」


 腹ペコ4人衆が台所にやってきた。


「こっちは一人一皿で味噌汁は飲みたい分だけ持っていってください。」


 そう言い残すと、自分の分を持って台所からおさらばする。……武は起きてこないのか?


『余ったら私が食べていいんですもんね。申し訳ないですが、武君にはまだ眠っておいてもらいたいです。』


 食いしん坊は俺の中にもいた。メタトロンは毎日のように俺が作ったご飯食べてるはずなんだけどな。

 リビングで一誠と一緒に女性陣が来るのを待ちながらお互いの能力についての情報交換をした。なんでも一誠の天装は盾で向かってくる攻撃をすべて吸い寄せることができるらしい。まあ要はタンク全振りと覚えておけばいいか。


「お、待たせて悪いね。」「お待たせしました。」「早く食べたいっすね。」「……。(じゅるり)」


 その話の途中で女性陣が朝ごはんを持って戻ってきた。未来の目がご飯にくぎ付けになってる。なんか面白いな。

 食べる準備も終わって、じゃ、食べよっか、ってなったときに


「ご飯まだ余ってますか!?」


とメタトロンが俺の中から飛び出してきてそんなことを言い出した。……本当に出てきたのか。


「おえ!?ああ、一応まだ余ってるけど。」


と律儀に答えてくれる愛梨。さすが先輩だな。最初の叫び声は汚かったけど。


「じゃ、食べていいですよね!?ね!?」


「まあ俺は構わんが。」


「取ってきます!」


 すごい勢いで台所に飛んで行った。その間、すごい微妙な雰囲気がリビングに流れた。武の分はいいのか?起こしてきた方がいいんじゃないか?そもそも天使はご飯を食べるのかどうか?そんな疑問が聞こえてきそうだった。


「お待たせしましたー。」


 ルンルンで戻ってきたメタトロンが席に着いた。とはいってもそんなたくさん椅子があるわけじゃないから半分くらいが立ち食いみたいな感じなんだけどな。


「じゃ、いただきます。」


「「「いただきます。」」」「……。」


 ―――“集合”―――


 いくつもの声が聞こえた。大半は耳から。そして一つだけ頭の中から。まさか……。


 視界が光に包まれた。そして少しの浮遊感の後、目を開けると見覚えのある会議室のような所に立っていた。

次話、明日投稿します。


よろしくお願いします。

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