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契約天使様の依り代  作者: きりきりきりたんぽ
2章 歪んだ自信
24/59

え?一週間が一日ってマ?

「ふむ、一旦休憩にしましょうか。」


 2時間ほど九三郎に刀の正しい使い方を教えてもらった。具体的には刀の握り方から基本的な振り方まで。慣れない体の動かし方をしたせいか、たった2時間だったのに疲労困憊です。はい。いやー、木刀を振るのとは少し違うんだね。力を込めるタイミングが違うし、振る時の軌道が少し円上になるし。


「普段使わない筋肉を使うでしょう?刀とは本来斬るのにそこまで力はいらないんです。日本刀は一番切れ味が高い武器ですから、斬るのに必要なのは技術だけです。まあ、これはあとで教える合気でも同じことが言えるわけですが。」


 隣で九三郎が戦闘人形を修理しながらそんなことを言ってくる。……なんか壊しちゃってごめんね。でもそんなハンマーで殴ったら治るもんなのかね?それで治るのは漫画の世界じゃ?でもなんだか、治ってる感じがするんだよな。本当になんでもありだな。


「守はこれで戦力アップするんですか?」


「ん?ああ、天使ちゃんですか。はい、当然です。とはいえ、一週間くらいの訓練が必要ですし、慣れるまでは大変だと思いますが。」


「一週間ですか。当然ですがそれなりの期間は必要なんですね。」


「まあ、この修練場での1週間は外の世界での一日だから実際は一日なんですけどね。」


「「え?」」


 なんかボーっとしながら、メタトロンと九三郎が喋ってんなー、とか思ってたけど突然爆弾発言があったぞ?何、ここの時間も狂ってんの?


「さっき真ん中にお爺さんがいたでしょう?あの人がここを見つけたみたいなんですけど、元から流れる時間がゆっくりだったみたいです。」


「「へえー……。」」


 ……なんか重力が強すぎると時間がゆっくり流れるとか聞いたことがあるからそんな感じなのかな?っていうかメタトロンもここのこと知らなかったんだな。さっき知ってそうな雰囲気醸し出してたのに。


「今のうちに何か聞きたいことがあれば聞いてくれてもいいですからね。」


 ガンガン戦闘人形を殴りながら俺たちに気を遣ってくれている。それはうれしいんだけどね、絵面がすごい。にこやかに微笑みながらハンマーで殴ってるんだもん。なんも知らない人が見たらサイコパスだって勘違いしそう。

 んー、でも今の所はあんまりないんだよな。九三郎っていう名前に聞き覚えがあるんだけど、思い出せないし。剣の振り方もあとは自分で何回もやって身に着けるだけだし。

 でもメタトロンはまだ聞きたいことがあるらしく、ふわふわと九三郎の方に飛んで行ってしまった。俺には聞かせたくないことがあるんだろうな。まあ、その間に刀の振り方の再確認でもしておきますか。


 ……うーん、やっぱりまだしっくりこないんだよな。なんかまだ刀に振られているっていうか、自分のものにできていない感じ。まあ何度も繰り返せば違和感も消えていくでしょ。


 しばらくすると話し終えた二人が俺の方に帰ってきた。九三郎は満足げな顔をしていたけど、メタトロンはなぜか神妙な顔をしていた。


「自分から刀を振るとは感心です。成長も早いですよ。

 さて、そろそろ再開しましょうか。今回教える型はたったの八個です。意識するのは型の初めと終わりだけです。少し見ていてください。」


 俺から少し離れたところに立った九三郎は、いつの間にか腰に下げていた木刀を取った。そして一つ大きく息を吐いてからゆっくり動き始めた。


「まず一つ。」


 上段に構えて、それを素早く振り下ろす。その刀は中段あたりで止まる。


「二つ。」


 その刀を振り返りながら上段にもっていき、振り下ろす。


「三つ。」


 今度は刀を横薙ぎに振り抜いた。居合っぽい感じに。でも、止まったのは俺の時とは違って体の前の所でだった。


「四つ。」


 その刀を返して、三つ目の型で通った跡を逆にたどるように振る。


「五つ。」


 今度は袈裟に振った。止まった場所は三つ目の技の始まる地点に近かった。


「六つ。」


 五つ目の技の型をたどるように逆袈裟に振った。


「七つ。」


 袈裟斬りを鏡映しにした感じで振った。


「八つ。」


 そして七つ目の型の跡をたどるように振った。


 それらすべての技に共通して言えることは、ただただ流麗だった。刀を振っているはずなのに、動きがとても自然だった。まるで普通に歩いているかのようだった。無駄に力が入っているわけでもなく、それでいて動きが丁寧だった。


「ふう、これで全部です。驚いたでしょう?漫画で見るように派手ではありませんし、まったく複雑でもありません。でも最初に言ったように、型の最初と最後の位置が重要です。見やすいようにしたつもりですが、何か気づいたことありますか?」


 気づいたこと、か。……あれか?


「型の最初に位置と最後の位置が近かったこと、とか?」


「そうです。なので、覚えてしまえばこれらの型を自由につなげることができるんですよ。例えばこんな風に。」


 スパパッ!


 と風切り音がしたと思ったら、空中に斬撃のようなものが浮かんだ。その形は六角形の対角線だけを引いたみたいな感じ?そしてふっと、空気に溶けるようにその斬撃は消えた。


「つまり組み合わせ次第でいくらでも新しい型が作れます。まあ、私にはこれ以上教えることはほとんどないので、これからどれだけ強くなるかはあなた次第ということになりますね。なので、時間が許す限りやってみてください。あとは適当なタイミングで止めて合気の技を教えるくらいです。」


 うーん、なぜ斬撃みたいなのが空中に残ってたのかは知らないけど、まあ理屈は分かった。つまり続けたい型の最初に位置に来るようにその前の型を終わらせればいいんでしょ?でもまずは型をしっかりできるようにしないとな。


 ひたすら刀を型通りに振って一日目は終了した。



 二日目。泥のように眠った場所はもちろん修練場。ここの時間の流れがおかしいせいか、体内環境も変わらないみたいでお腹も空かないし、トイレにも行きたくならなかった。途中で合気の技をいくつか教えてもらったけど、それ以外の時間はただひたすら刀を振っていた。ようやく型通りに振れるようになってきた。あ、ちなみにメタトロンに腕とか治してもらいながらやってる。それがなかったら筋肉痛で動けないよ。


 三日目。九三郎に筋がいいとほめられた。それでもまだ型をつなげることはできないんだけどね。突然戦闘人形が動き出した時は驚いたけど、どうやら壊さなくても鎧の上から一定以上の衝撃を与えると止まるみたいだ。九三郎に言われた通りに戦闘人形の攻撃をかわしながら型通りに攻撃を入れていったら突然動きが止まった。30分くらいかかったんだけどね。


 四日目。とうとうメタトロンが俺の中から出てこなくなった。退屈だったんだろう。呼んだら出てきてくれるけど、いつも目をこすっている。それでもって、俺の背中にもたれかかりながら回復させてくれる。嬉しいんだけどね、なんか複雑だ。あ、一回だけ二つの型をつなげることができた。でもそのあとすぐ体勢崩しちゃったから、まだまだだな。


 五日目。久しぶりにメタトロンと契約して、思考速度をしっかり1.5倍できているかの訓練をした。結局ダメダメだった。よくて1.3倍までしかできていない。どうしてできないんだ?これじゃ、もし2倍とかにできたとしても余計に天使パワー(デザイア)を使うことになってしまう。しかもこれって戦闘可能時間がその分短くなるんだよな。1.5倍だったら10分行けたけど、2倍だったらもっと短いだろうし。

 そんなただひたすら秒数を数えるっていう不思議な行為をしていた俺とメタトロンに興味を持ったのか九三郎が近づいてきた。


「二人して一体何してるんですか?」


「え?……ああ、傍から見たらかなり怪しいことしてるか。まあ、なんというか思考速度を上げる練習かな。」


 さすがに五日も同じ空間で生活していたからほとんど地が出ている。


「思考速度を上げる、ですか?もう既に守十分以上に速いと思うんですが。」


「いや、実はさ、メタトロンのおかげで思考加速と行動加速ができるようになったんだけどさ、行動加速はまだしも思考加速が十分にできていないんだよ。」


「なるほど、つまりその思考加速を十分に使いたい、と。……では、普段では考えないようなことを考えながらしてみたらどうでしょう?」


「普段しないようなこと?」


「そうです。例えば、普通人間は無意識のうちに視覚情報を取捨選択しています。それは脳の処理容量の限界だからなんですが、思考を加速できるなら話は変わりますよね。なので、意識的に視覚内の細かい部分を認識しようとすればいいんじゃないですか?それでだめだったら、相手の動きを予測するでもいいと思います。何せ動きの予測なんていくらでもできますからね。」


 ……なるほど。人間の脳は普段10%しか働いていないとかっていう説があったっけ。確かもう否定されたけど。でも確かに視界のすべてを把握し、理解できてるかって言うと全くできていないからそれができれば思考加速ができてるっていうことになるかな。それにそれができれば、もっと回避が楽になるのは間違いない。

 でも欠点があるとすれば、それは実戦じゃないと練習できないし練習時間にも限りがあることだ。


「ということで、もしお望みなら戦闘人形を動かしますがどうでしょう?」


 欠点なかったわ。ここにうってつけの練習相手がいるじゃん。それに刀の練習も同時にできるから一挙両得だ。


「お願い。」


「はい。ああ、あと少しスピード上げますね。」


「ありがとう。」


 スピードが速いほうが思考加速ももしかしたらうまくいくかもしれんし。


 ……そんなことを思っていた時期が俺にもありました。


ダンダンダンダンダンッ!!ガッシャーン!!


 ものすごい足音を立てながら追い回してくる戦闘人形から逃げ回っています。いや、速すぎでしょ。訳が分からんぞ。しかも心なしか戦闘人形の顔が怒ってるように見えるし。ひええ。


「守ー、逃げてばかりじゃダメですよー。しっかり見てくださーい。」


 そんな声が外野から聞こえるけどマジでそんな余裕がない。ああ、でも時間もどこまであるかわからんから早いうちに試すに越したことはない。……次やるか。しかも戦闘人形の速度も上がったせいで行動加速をしてるにもかかわらず普通に追いつかれるし。一体どんだけスピード上げたんだよ、九三郎は!

 内心で毒づきながら目の前から迫ってくる戦闘人形に意識を向ける。そして攻撃してくる剣とそれを持っている腕にこれまでは意識を向けてたけど、今度はもっと視野を広く、より細かい所も見る。頭を、剣を持っていない方の手を、そして足を。一点を注視して、かつ全体も見る。


 ぐわん、と脳が揺れる感覚がした。でもそれは一時ですぐに視界が開けた。世界が今まで以上にゆっくり見えて、見ようと思えば戦闘人形全体を俯瞰して見える。そうか、もしかしたらこれまでは1.5倍の思考加速を使える状態でありながら、まったく使えていなかったのかもしれない。そう思えるほど、今いる世界は別次元だった。体の動きもなんだかゆっくりだな。

 よし、ならしっかり考えながら動くぞ。まず、この剣をギリギリあたらない所まで移動して、刀を振りかぶる。そして目の前を剣が通っていくのを確認してから小手部分めがけて刀を振り下ろす。カーン、という小気味いい音と確かな手ごたえがあった。それを確認してから今度は逆袈裟の向きに戦闘人形の膝を切る。そしてもう一歩深くまで踏み込んで今度は右肩から腰にかけて袈裟に切った。そして戦闘人形の後ろに切り抜けた。

 すると背後からバキャッ、ドッシーンという何かが崩れる音が聞こえてきた。


 一つ深く息を吐くと、思考加速が切れたみたいで見える世界が元に戻った。いきなり時間感覚が狂ったのか、酸欠っぽくなってクラっと来た。ぶっ倒れるほどじゃなくてよかった。


「……すごい動きをしてましたよ?そこまで速くないのに異常にまで正確でしたし。(真価を発揮できましたね。これでようやく次の段階に進めます。)」


「まさかここまで強くなるとは……。いくら天使様の力があるとはいえ、すごいですね。(この子はきっと私よりも強くなります。だったら()()()ももしかしたら……)」


 後ろから二人の声が聞こえてきた。若干驚いてくれているみたいで嬉しいね。でも、体力的にも精神的にも疲れたな……。そりゃそうか、思考加速の訓練するだけでもデザイアが体に回って壊れ始めるんだもんな。それに加えてそのあとに行動加速を使いながら数分間戦ったんだ。もう限界か……。


「明日、最後の剣技を教えます。今日はもう休んでください。その様子だと体力的にももう限界でしょう。」


 九三郎が俺にそんな気になることを言って、俺の隣を通り過ぎてしまった。


「お疲れ様です。今日は九三郎が言っているようにもう休みましょう。」


「おう。(すごい気持ち悪い……)」


 遠くから聞こえるガンガンというハンマーの音を聞きながら意識を手放した。


 ……あのバキャって音、やっぱり壊れてたか……。

ふふふ、最近は時間が予想以上にたくさんありますね。

できれば更新頻度を上げていきたいところです。

……不定期ですが。


次回、19日までに投稿します。

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