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契約天使様の依り代  作者: きりきりきりたんぽ
2章 歪んだ自信
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戦闘訓練

遅刻しました。すいません。

「よし、好きなところに行ってきなさい。儂はもう寝る。」


 未来が頷いたのを確認してすぐに老人は剣をしまって横になってしまった。


――いやいや、ちょっと待て。


 多分皆の声が心の中で一致したと思う。さっきの口上は一体何なんだ?いきなり始まった上に声も大きかったから途中で口をはさめなかったけど、思い返してみると結構なこと言ってたよな?神話の時代の戦争の生き残りとか言ってなかったか?もしそうだとしたら昔から生きてるっていうことになる。聞きたいことが山ほど出てきたな。

 もう既にいびきをかいている老人に声をかけようと思ったら、


「行くよ。これ以上聞いても教えてくれなかった。」


と未来に止められた。

 未来でも教えてもらえなかったってことは俺たちじゃまだまだだな。きっといろんな手を使っただろうし、それ以上に俺たちよりもはるかに強いし。


「そうなのか。じゃ、今は仕方ないか。」


「そう、仕方ない。ほら、さっさと行くよ。さっき老師が言ってた所に入ってみて。そしたら自動で始まるから。」


 そう言うと、未来は俺たちから視線を外して戦闘人形のブースに入っていった。そしてすぐに鎌と剣がぶつかり合う激しい音がそのブースから漏れ出て聞こえてきた。

 ……おおう。マジか。大丈夫か、俺。

 ま、行くしかないか。そう覚悟してから足を戦闘人形が置かれているブースに向けた。俺が動き始めてから皆が動き出したようで、背後に足音がまばらに聞こえた。


 ブースに入ると、そこは外見からは考えられないほど広い空間が広がっていた。多分学校の体育館の半分くらいはあるんじゃないか?そこの中央に鎧を着た人形のようなものが静かに座っていた。多分立ち上がったら結構な大きさになるんじゃないか?それこそあの時見た中位魔性(ディアボロス)くらいの大きさがありそうだ。それに鎧も結構使いこまれているのか、特有の重厚さが感じられる。

 思い切って足を踏み込んでみた。すると、


「ふぉえ?」


という間抜けな声が耳元から聞こえてきた。この声はメタトロンか。なんでか知らんけど出てきたみたいだな。


「……うーん。おかしいですね。ふて寝してたはずなんですが叩き出されました。それにここはどこですか?」


 ん?自分から出てきたわけでは無いのか?目をこすりながらボケーっとしてるメタトロンを見ながらそんなことを考えていた。……クッソ、なんで普段結構(こす)いことしてる癖にこういう可愛い所を見せてくるんだよ。


「うん?今私のこと可愛いって思いました?いやー。そうなんですよね。なんかすいませんね。」


 ……しまった、こいつ俺の心が読めるんだった。なんか当の天使は俺の前で眠そうな顔を引っ込めて満面の笑みを浮かべている。ということで前言撤回。そんなことなかったわ。日が追うごとにどんどんふてぶてしくなってるな。


「またまたー、照れなくていいんですよ。……さて、本当にここはどこでしょう?どこか見覚えがあるような、ないような……。」


「ここは修練場です。簡単に言ってしまえば、依り代さん達がリクレッサーとの闘いで負けないように戦闘のサポートをする場所であり、いきなり戦場に放り込まれた皆さんの精神をサポートする場所です。」


 突然、戦闘人形から声が聞こえてきた。声音からして男性っぽいな。


「さて、では早速戦ってみますか。そこまで強くないので力みすぎないで、落ち着いてくださいね。」


 そう言い終わるが早いか、いきなり動き出した。そこまで早くないけど大きいから迫力がとんでもない。

 え、ちょまっ。


「守!早く天装を!」


 メタトロンの声に慌てて天装()を取り出して構える。そこでようやく気付いた。……いつの間に剣なんか持ってたの?

 戦闘人形は俺の立っているところまであと二、三歩で届くかの距離の所で片手を頭上にあげて振りかぶっているわけだけども、その手にはなぜか大剣が握られていた。


「えええ!ちょっと待てって。」


 大慌てで横っ飛びしてその大剣をよけた。背後でガッシャーン!とかえげつない音が聞こえた。ひええ。あそこに立っていたらとか考えられんね。

 とかじゃなくて、ちょっと反撃してみよっか。確か人体構造上、ひざ裏とかって鎧で守れなかったはずだし。


「ふっ!」


 足早に近づいてひざ裏めがけて刀を振る。


「甘いですね。」


 カーン!と鎧に刀が当たる音がした。……そういうことか。少し足の向きをずらしたってことね。大きく後ろに下がって距離を一回取ってから考えを整理する。

 防具で受けたっていうことはそこが有効打になりえるということ。そして防がれたのはきっと攻撃が遅いから。だから、狙う場所は同じで。そしてできる限り反撃しやすい場所に回避する。

 対策は一つにメタトロンと契約すること。思考速度と行動速度を上げられれば反撃も容易だし。でも今回はこれは使わない方がいいだろう。

 次に、動きに慣れること。何回か動きを見れば最小限の動きで回避することが可能だろう。ただ、それは相手にも同じことが言えるから注意が必要だな。ってことは、


「あとチャンスは2,3回、か。」


「そうですね。どうせ今回は契約使わないんでしょう?」


「そうだな。今回ばっかりはな。」


「作戦会議はもういいですか?まあ、まだ終わってなくても関係ないんですが。」


 俺より二回りほど大きい体を揺らしながら距離を詰めてくる。そして当然のようにその手には大剣が握られている。……あんな音出しておきながら壊れてないんだな。

 ま、今回はよく見てよけることを最優先にしよう。そしてできればひざ裏を一番狙いやすい位置を把握するぞ。


 ガッシャーン!!


 ……ムリムリ!なんだよ。あんなのをギリギリでよけられるタイミングを見極めるとか無理でしょ。少しでもかすったら終わりそうなんだけど。でも、何とかひざ裏を狙える場所を把握することはできた。大きく3歩くらい前に動いた場所だ。そこがあれの真横で、死角になるだろう。


「次、反撃する。」


 次がラストチャンス。しっかり決める。

そう心の中で決意して、こちらに三度迫ってくる戦闘人形に意識を向ける。あと2,3歩の所で俺の所に届きそう、っていうところで戦闘人形は剣を振り上げた。そして、その力が下に向いた。

 ……っていうところで急いで真横に大きく3歩移動する。


 ガッシャーン!!


 顔の横でそんな音が鳴り響いた。あまりの音に顔をしかめながら、それでも戦闘人形の膝の位置を目で確かめる。すると予想通り、俺の前方に踏ん張ってる膝があった。

 よし、これならいける。一歩踏み込みながら、見様見真似で居合斬りをひざ裏めがけて放った。


 スッ……。


 対して抵抗もなく刀を振り切ることができた。反撃を食らわないように大きく後ろに飛びながら、斬った部分を見た。するとそこには確かに切り傷があって、それはもし人体だったらもうその足は動かせないだろうっていう感じの傷だった。

 でも相手にしてたのは戦闘人形だ。だからもし、動けたとしても驚かないぞ。


 パチパチ。


 緊張を解かないで戦闘人形の方を見ていたところ、急に拍手の音が聞こえてきた。

なんだなんだ?あんな見た目で拍手なんてしてくるのか?なんかそれはそれで不気味だな。


「素晴らしいです。初めてここに来たのにそこまで動けてるだけじゃなくて、考えることもできるとはね。素晴らしいとしか言えませんね。」


 カシャン、という音共に戦闘人形の背中から出てきた男の人が俺たちのことを優し気な眼差しで見つめながらそんなことを言ってきた。その言葉は心からの賞賛だった。ってか、その戦闘人形ってロボットみたいな感じで人が中で操縦してるのね。


「ふむ、試すつもりで最初に攻撃を仕掛けたんですが、まさか反撃されてしまうとは思いませんでしたね。しかもこの戦闘人形の弱点を的確につくなんて。」


 戦闘人形から降りてきたその男性がぺしぺし、と戦闘人形を叩きながらそんな独り言を言っている。そして、視線を俺の方に向けるとゆっくりと近づいてきた。……なんか中性的な見た目をしてる人だな。


「初めまして、私はあなたの師匠になることになった九三郎というものです。よろしく。」


 そう言いながら俺に片手を差し出してきた。……こ、これがリア充か。握手をごく自然に求めてきたし、その差し出された手にも違和感がないぞ。

 その差し出された手を恐る恐る握りながら


「よ、よろしくお願いします?」


といった。おい、緊張しすぎて疑問形になったじゃねえか。まったくこの口は。誰かと話すことには使えないんだから。


「そこまで緊張しなくても大丈夫ですよ。今日はそこまできついのはしないですから。」


「は、はい。」


 いや、違うんですよ。初対面の人と話す方に緊張してるんですよ。それ以外は別にやるべきだと思ったらできるからいいんですよ。


「ふむ、まあ初対面の人間にいきなり話しかけられて緊張するな、というのも無理な話ですね。では早速鍛錬の仕方の説明をしましょうか。」


「お願いします。」


 ふう、ありがたい。本当にありがたい。雑談とか始まっちゃったら舌を噛むしかなくなっちゃうから。


「では、まず一つ。といっても一つしかないんですけどね。

 リクレッサーとの闘いは大抵が持久戦になります。あの異常なまでの量の敵を相手取る必要があって、かつ刀には基本的に広範囲攻撃がありませんからね。その時に重要になるのができる限り最小限の動きでリクレッサーを倒しきることです。まあ、それが自然にできるようになるためにはかなりの年月がかかるのですが、そんなに時間はかけられないでしょう?だからいくつか基本的な動きを簡易版にした型というのがあるので、それを覚えてもらいます。

 それが終わった後で補強するような形で重心移動の方法、簡単な合気の技を覚えてもらいましょうかね。まあ重心移動はすることでいつも以上の力が出せるので、使う力も少なく済ませることができます。合気の技は基本的には徒手空拳になった時用ですね。それに太刀取りという技もあるので便利ですよ。特に下位魔性(デーモン)以上になってくると普通に剣を持っているのでその対策にも使えます。」


 ふむ、言っていることは全部正しいし、分かりやすい。でもどれも初心者なんだけど大丈夫かね?


「まあ、きっとどれもやるのは初めてでしょうから心配でしょう。でも大丈夫です。私がきっちり教えてあげますからね。なに、人体はそこまで簡単には壊れないし、壊れそうなときは私が分かるので大丈夫です。」


 お、おや?なんか笑顔のはずなのにちょっと怖いぞ。しかも整っているせいか余計に。

ま、まあ、きっと大丈夫でしょ。そう、大丈夫、大丈夫。



                    ★★★★★★★



「もう少し奥まで行ってみよう。私の神性(ギフト)がこの奥に何か重要な何かがあるといっている。」


「そうなの?なら行っちゃおっか。まだ体力的にもデザイア的にも余裕があるし。」


「助かる。できる限り早くたどり着いておかねばならないんだ。」


 天使とその依り代の少女は奥にどんどん進んでいく。その背後には中位魔性(ディアボロス)の死骸が山のように積み重なっている。その山からはもやが少しずつ漏れ出ていて、もう既に彼らが討伐された後であることを如実に語っている。


「深淵にも慣れてきたね。このどこかファンタジーみたいな世界にも。」


「そうだな。だが、どうしてこんな世界が浅層よりも深い場所にあるのかさっぱりわからん。それもきっと私の神性が指し示す場所に行けば分かるはず。」


「そうなんだ。」


 彼女らは今とても大きな城の庭にいた。それこそ迷宮だと勘違いしてしまうほどの大きさの城だ。これは推測でしかないが、きっとその庭だけでも日本の本州を覆い隠せるほどの広さだろう。


「お、こっちだな。」


 天使が示す場所に少女も向かう。

 その道中で現れたディアボロスを軽く切り捨てながら。

 そこには大きな扉があった。少女の背丈の2倍くらいありそうな大扉だ。


「この扉だ。どうも私と一緒に押してもらわないと開かないようだ。押してもらえないか?」


「うん。もちろん。」


 少女と天使に押された扉が重厚な音を立てながら開かれていく。

 そしてその先には


――大きな石碑があった。


 そこには一番上に大きな宝石一個と、その下に一回り小さい宝石が7個あった。それらはすべてが魔法陣に囲まれていて、ぱっと見でそれが封印されているのだとわかった。


「……ああ、思い出した。そうだ。私達はこれに対抗するために。

!?ちょっと待て、まだ天使が一人戻ってきていない!?」


「落ち着いて。それより、アレを見て。」


 7個あった小さい宝石の内の一つの周囲にあった魔法陣が点滅して消えかかっている。


「!?やばいやばい!ここで再封印することはできないぞ!すぐに彼らに伝えねば!」


「それも難しそう。誰とも連絡が取れないし、向こうに帰ることもできない。急いで深淵から出ないと帰ることもできない、と思う。」


「え!?……本当じゃんか!急いで帰るぞ!」


 少女と天使が急いでその広間から出た後、その小さい宝石を囲う魔法陣が音もなく消えた。



 事の重大さを依り代たちが知るのはもう少し後のことになる。そして、敵の正体を知るのも。

次回、16日に更新したいです。

お願いします。

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