武道場?
遅刻しました。すいません。
追加任務の詳細についてはまた後でな、と言い残してミカエルとその依り代の少女は裏世界に向かって行ってしまった。……一体なんだろ?別にリクレッサー討伐とかだったら別にいいんだけど。
その時、肩にポンと手を置かれた。と同時に冷たい声で
「で?どうして時間止めたか教えてくれる?教えてくれるよね?」
と聞こえてきた。背中から冷や汗がとんでもない量流れてくる。しかもしっかりかくれんぼしてたせいで罪悪感がとんでもない。
「あなたたちが時間を止めていたってことは私達が駅の中を走り回ってたのも知ってるわけだよね?じゃあ、私達はしっかりと事情を知る権利があるよね?」
「ハイ……。」
「正座。」
「ハイ。」
駅のど真ん中で地面に直接正座させられています。時間が止まっているとはいえ、居心地がとても悪い。だって周りに人がたくさんいるんだよ?動かないけど。俺みたいな人は視線を感じなくても周りに人がいるってだけで何らかの視線を感じるんだから。
それだけじゃなく、目の前で腕を組みながらこちらに冷ややかな視線を浴びせる死神が立っています、はい。はは、とてつもない威圧感だ、世界が狙えるぞ。そして周りには皆が立っている。あきれ顔の希と一誠、面白いものを見るような顔をしている愛梨と春、そして意外な物を見るような顔をしている武。はー、逃げられんな。
「……で?約束の時間に間に合わなさそうだから時間を止めたってことでいい?」
「はい。間違いありません。」
「で?その様子だとやっぱり私達が走り回ってたこと知ってるよね?」
「はい。知ってます。」
「っていうことは逃げ回ってたってことだよね?私達あなたたちと会ってないし。」
「はい。」
「私達さ、なんか異変が起きたんじゃないかって飛んできたんだけど、何か言うことない?」
「大変申し訳ありませんでした。」
いや、こわ。なんか反論できないんだけど。ただただ言われたことに正直に答えちゃうんだけど。と、そこで威圧感を引っ込めて
「はぁー。ま、いいけど。これからは気をつけて。天使の力もそうだけど、常に予想外のことは起きるんだから。」
と続けた。予想外のこと、か。確かに天使の力を手に入れたのだって予想外のことだったしな。……そうか、
「時間を止められるのは俺たちだけじゃないかもしれないってことか?」
「……そう。できるのかどうかさえ分からないけど、でも可能性としてはあるはず。ミカエルが言ってたでしょう?リクレッサーがたまりすぎると、現実世界に自然災害として影響をもたらすって。その時どうやってこちらに影響を与えると思う?あれが現実世界にそのまま現れる?それとも裏世界にいながら現実世界に攻撃できる?もしくは、もっと想定外の方法で?
私達はまだ何もわからない。だからすべての可能性を考慮しないといけないの。頼みのミカエルもそこまでは分からないのか、教えてくれなかったし。」
まさに未来の言う通りだった。まったく楽観的にとらえられるような状況ではなかった。昨日のミカエルの慌てた様子を初めて見たなぁー、ではダメだった。もっと視野を広く持たなくてはならなかった。これまで慌てた様子を見せたことがなかったミカエルが慌てるほどの事態である、と理解しなければならなかった。そして、俺たちだけがその脅威に唯一立ち向かえる存在であることにも。そんな俺たちが遊び気分ではダメだった。
そこまで全員が思い至ったのか、沈鬱そうに表情を歪めた。
「とはいえ、皆がここに集まったのはいいこと。行くよ。……天使達もそこまでにして。」
未来が視線を向けた先には7人の天使が集まってメタトロンを詰問していた。囲まれているメタトロンはどこか放心気味で、ルシファーは楽し気で、それ以外の天使は半分怒りで、半分呆れていた。
「……メタトロン?大丈夫か?」
「……帰る。帰って寝ます。」
「お、おう。その前に時間停止を解除してな。」
何を言われたのか、ひどくやつれた表情で俺の所に飛んできた。なんかいつも飄々としているメタトロンもこんな顔するんだな。
「ああ、はい。」
パチン、とメタトロンが指を鳴らした。それと同時に天使達の姿が消えていき、代わりに時間が動き始めた。……なんだか周囲の視線が痛いな。なんか俺がしたっけか?
「立って。もう行くよ。」
「!?」
ヤバッ!まだ地べたに正座したまんまだった。慌てて立ち上がりながら、着いていた膝をさする。なんか顔が暑いな。
「ついてきて。案内する。」
言葉少なに俺たちの前を歩いていく未来。それについていくように後ろから追っていく。その時、隣に希がたたっと近づいてきて
「次遅れそうなときは連絡してくれれば大丈夫ですよ?」
そう言ってきた。……連絡?どうやって?
「……わからないんですか?えっとですね。まずこのメッセージアプリを開いてください。そして、この“新井希”って所をタップしてください。で、このメッセージを送るってところをタップです。」
希の言う通りに画面に触れていくと、メッセージ一覧みたいな感じに画面が広がった。
はあ、なるほど。これで連絡が取れるのか。
「次からはこれでお願いしますね。」
子供に向けるような笑みを浮かべながら希が優しくそんなことを言ってきた。チーン。まさかね。こんな簡単だったとは。
『まったくです。私ですら知ってますよ、そんなこと!』
メタトロンも俺の中で怒ってる。なんというか、すまんな。
「え?マジ?守ちゃんそんなことも知らなかったの?」
「ゔ。」
「マジかー、そんな世間知らずだったなんて。いろいろ教えてあげたくなっちゃうじゃん。あたしが教えてあげようか?」
こちらは蠱惑的な笑みを浮かべながら愛梨が近づいてきた。いや、てか改めて見てみるとすごい体型してるな。モデルか何かか?
「いえ、大丈夫です。」
「おおう、きっぱり。残念だねー。ね、一誠?」
「え?なんでそれを僕に聞くんだい?愛梨が好きなようにしたらいいと思うけど?」
「いや、そっちじゃないよー、あれだよあれ。前言われたでしょ?」
「……ああ、そっちか。確かに行けるか?いや、でも……。」
「いいからいいから。今度行ってみよー。」
なんか一誠と愛梨がなんか怪しいこと言ってるな。逃げるか?
「あ、この話は一応皆にも関係あるからね?また話が付いたら詳しく話すけど。」
「「「え?」」」「……え?」
皆の心の声が漏れ出た。あ、一応最後のタイミングがずれてたやつは未来の声ね。
「そんなことよりもう着いた。」
そこには一軒の民家が建っていた。特にこれといった特徴はなく、ただただ普通の一軒家だ。とはいえ周りに立っているのは高層ビルだから大きさの割に目立っている。
「入る。ついてきて。」
鍵を開けて入っていく未来の後を追って家の中に入る。家の中も特にこれといった特徴がないものだった。玄関の側に2階に続く階段があって、その側に奥につながる道があった。……本当にここが目的地だったのか?そんな疑問をいだいてしまうほどあまりに普通過ぎる家だった。でも未来はそんな俺たちをおいてずんずん奥の方に進んでいってしまう。
慌ててその後を追っていくと少し広いリビングがあって、そこには一つの魔法陣が浮かんでいた。
「これは……?」
「ここの上に乗って。移動する。」
全員が魔法陣の上に乗るとその魔法陣から光が漏れ出した。ミカエルに呼び出される時と同じような感じだな。光が強くなり、思わず目を閉じた。
そしてその光が弱まってくると、場所が変わっていて広い武道場のようなところに出た。そしてその真ん中には和服に身を包んだ一人の老人が座禅を組んで座っていた。
「お久しぶりです。老師。」
「ん?おう、未来か久しぶりじゃな。」
未来が声をかけると、その老人はその目を開けて立ち上がってきた。遠くてよく見えなかったけど、立ち上がってくれたことでようやくはっきり見えた。この老人、左腕と右目がない。でも、それを欠点だと感じさせない貫禄があった。袖から覗く左腕には古傷が走り、残っている左目の眼光は鋭い。
「それと、後ろにいるのが……。」
「私達と同じの依り代たちです。」
「ちょっ!?」
言っていいのか、それ?いや、言ってまずいとは思わないけど何言ってるかわからないでしょ?
「大丈夫。この人は……」
「まあ待て、儂が少しだけ見てやろう。」
そういうと、その隻眼隻腕の老人は俺たちに向かって光の剣を取り出して俺たちに向けてきた。は?なんでそれを取り出せるんだ?少なくとも天使は7人しかいないはず。
「ほれ、一人ずつかかってきなさい。まだ連携取れないじゃろう?そうじゃな、そこの少年からかかってきなさい。」
と、俺のことを指さしてきた。
まだこの人がいったい何者何かわからないから想像でしかわからないけど、でも少なくとも未来の知人ではあるのだろう。だったら、
「分かりました。……行きますよ。」
天装である刀を取り出してから、それを構える。
「ほう、それは……。うむ、かかってきなさい。」
上段に構えてから、少しづつ距離を詰めていく。……まだ、まだ。……ここ!大きく一歩踏み込んでそれと同時に刀を振り下ろす。
「鍛錬不足、じゃな。」
次の瞬間にはなぜか天井を見つめていた。……どういうこと、だ?今一体何が?結構うまく振れたと思ったのに。たとえ当たらなかったとしても、反撃されたのならそれなりに衝撃とかも感じるはず。なのに何も感じなかった。手ごたえも衝撃も。
「次は、隣の少女じゃ。」
それから俺たち全員が老人に向かって順番に攻撃をしていったわけなんだけど、誰も傷一つつけられなかった。愛梨と希と春が遠距離だったんだけど、あっという間に距離を詰めて倒していた。しかも武器を全く振るうことなく、ただ重心を狂わせることで倒していっていた。……だからか、特に衝撃とか感じなかったのは。
「ふむ、お主達の実力はだいたいわかった。お主達にここの使い方を教えてやろう。」
そういうと、老人は床をトントンと剣の先で突いた。
すると、武道場が広がっていき、いくつかのブースに分かれていった。二つ種類があって一つは弓道場のように的が、もう一つには鎧を着た人形のようなものが置いてあった。それがそれぞれ4つずつ。
「まずはそれぞれが得意な物の所に行きなさい。少女たちは的の所に、少年たちは戦闘人形の所に行くといじゃろう。」
「その前に老師。自己紹介。」
「ん?ああ、儂か。儂は……名前は何じゃったか、もう忘れちまったな。自由に呼んでくれて構わん。」
「そうじゃない。老師の過去の方。」
「儂の過去……?」
どこかかみ合っていない会話をする二人。え?どういうこと?そんなにこの老人の過去って重要なのか?でも未来がそれを聞くってことは結構重要なんだろう。どっかの武道家だったってこと?それとも俺たち以外の天使の依り代とかってことか?でもそれだったら過去の話じゃないよな。
「最初私に教えてくれたこと。」
「ああ、あれか!思い出したぞ!」
老人はコホンと一息つくと、カッと目を見開いて
「遠い昔、神話の時代にて遥かな未来のために戦ったもの。多くの神が戦い、多くの神が散った。すべてはより良い世界のため、より良い未来のため。双方の神々が互いに正義を見た。人とはこうあるべきと、世界とはこうあるべきと。」
「……と、まあ儂はそんな壮絶な戦いを生き抜いた数少ない生き残りということじゃ。」
これでいいか?といわんばかりに未来の顔を見る老人。
それに対し未来は、
「ん。」
と小さく答えた。
次回14日までに更新します(願望)。




