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契約天使様の依り代  作者: きりきりきりたんぽ
1章 変容する日常
13/59

救援任務 後

「十分です。行きますよ。」


 そうウリエルに答えながら弓を軽く引きます。そして弦から手を離すと、音もなく光の矢が飛んでいき


トンッ!


という音と共に狙っていたリクレッサーに刺さりました。以外だったのはその一撃で倒しきることができたことです。私の攻撃力は上がっていないはずなので、ここまで離れているとこれまでは一撃で倒すことができませんでした。ということは、ウリエルの弱体化のおかげでしょうか?まあ、もし違ったとしても今なら安全距離からリクレッサーを一撃で倒せるってことには変わりがありません。


「▲▲▲▲▲▲▲ーー!!」


 おや、固まっていたリクレッサーが私達を囲むように散らばりましたね。……これで決定ですね。あのリーダー格のリクレッサー――メタトロンは下位魔性(デーモン)とか言っていましたが――には間違いなく知性があります。どうしてかはさっぱりわかりませんが。これは脅威ですね。二組の依り代と天使が負けたのもきっとこれが原因ですね。

 とりあえず散らばりきる前にできるだけ倒しておきましょう。

……意識を集中させて。すると、世界が少しだけゆっくり見えるようになりました。そこで弓の弦を先ほどと同じくらいまで引き、先ほど石を撃ち落とした時と同じ要領で大量の矢を放ちました。少なければ1本、多くても3本の矢が当たればそれでリクレッサーを倒しきることができています。この調子でいけば全部倒し……


バチッ!


 そんな時、破裂音のような音が私の右目あたりで起こったのを聞きました。それと同時に視界が半分ほど見えなくなって、あまりに強い痛みにたまらず膝をつきました。


「ッ!バカッ!使いすぎです!」


 その様子を見ていたのか、ウリエルが先ほどの弱体化を解いて私の元に飛んできました。どれくらいのリクレッサーを倒しきれたのでしょうか?


「初めて契約という他の天使の神性(ギフト)の力を使っているというのに、最初からなんでそんな無茶をするんですか!?」


 それは、……守君が血を吐いてまで戦っていたんですよ?そのタッグとして、私だって……。そう立ち上がって。右目が見えなくても左目が見えるでしょう。まだ手だって動くでしょう。


「……ウリエル。前メタトロンがしていたような上空から地面に思いっきり風をたたきつける天法、やってください。それに合わせて私も矢を打ちます。」


「……。分かりました。これ以上無茶をしないでください。私がいる限り死なせませんが、お願いしますよ。」


 そのウリエルの言葉にうなずくと、ウリエルは手のひらに魔法陣を浮かべて


「天法――シルフの逆鱗――。」


そう呟きました。次の瞬間、私達を囲うように近づいてきていたリクレッサーが地面に転がっていたり跪いていたりと体勢は個体によって違いましたが、すべての個体が動きを止めました。数としては20体。多いですね。さて、ここからが私の仕事です。

 手に持った弓を大きく引いて、……だいたいこれくらいでしょうか。標的のリクレッサーよりも上あたりをめがけて手を離しました。


トンッ!


 標的よりも上を狙っていましたが、計算通りウリエルの天法のおかげで矢が空から打ち下ろすように標的に当たりました。当たったところは狙っていた所から外れていたため一撃で倒すことまでは、できませんでしたが。


「▲▲▲!。」


 当てられたリクレッサーが怒ったような声を上げていますが、でもこれで大丈夫。調整は終わりました。次からは外しません。

 同じリクレッサーめがけて、二本目の矢を放ちました。


「▲▲▲▲▲▲▲ーー……。」


 今度はしっかりと急所に当てることができました。そのリクレッサーが消滅していくのを見送り、次の標的に弓を向けます。

 弦を引き、放つ。トンッ!もう一度弦を引き、放つ。トンッ!

 順調に倒していっている最中でしたが、――その時に急に体から力が抜けました。そして鼻の奥に違和感を感じて、


「……血、ですか。」


 考えてみれば当然ですね。天使の力を使いすぎて右目が破裂したんですから、もう既に限界に行ってるんでしょうね。

 でも、まだです。まだ動けます。いや、動きなさい!

震える体に叱咤を入れて無理やり動かそうとしましたけど、動きません。

……まったく、こういう時に限って私はダメなんですね。天才とかいわれてもこんな重要なときに体が動かないなんて……。


「一回休みますよ、希。」


 そんな優しいウリエルの声が聞こえてきます。でも、いやなんです。もう一人には……。


「ほら援軍が来てますからね。」


なりたく、……え?援軍、ですか?


「今こそ裁定の時!正しきを守り、悪しきをくじけ!来て、天秤の守護者コスモス・ガーディアン混沌の破壊者(カオス・ディザスター)!」


「ガブリエル!十分ため込んだな!?行くぞ!全てを我が血肉に(オールビーマイン)!」


 二人のボロボロの少年と少女が私の前に立っていました。



                    ★★★★★★★



「今ちょうどあの二人の側からリクレッサーが離れていったんだよ?つまり、今だったらあのリーダー格のさえどうにかしてしまえば二人を助けられる。そうなれば、戦力的にも結構足りると思うんだ。」


「でも……。」


「このままじゃ俺たちも危ないだろ?」


「……むう。しょうがないですね。では、治療は私が触れていればいいので私が守の肩に乗っておきましょう。」


「おう。」


 さささ、やるぞ。どうにかしてあいつの目が届かないように移動して二人を助けるないとな。


「例えばなんだけどさ、あの二人を天使経由で起こすことってできるか?」


「うーん。それはちょっと難しいですね。天使と連絡は取れても、依り代本人が起き上がれないと思うので。」


 そっか。なら、やっぱり起こすのは物理しかないな。さて、じゃあどうやって近づくか。

まあ、とりあえずなんか陽動っぽいのをするか、こっそり近づくか。メタトロンの天法を陽動に使おうと思ったけど、そもそもメタトロンが俺の肩に乗ってるから目くらましにはならないな。


ドドドドドドドドッ!


 うおっ!?いきなりなんだ?


「あ、希さんが攻撃し始めましたね。でもあんな飛ばしたらすぐガス欠しそうですが大丈夫ですかね?」


「いやそこか?なんか弓矢からは絶対に出ないような音がしたんだけど。」


 バリスタかなんかで矢を同時に大量に打ち込んだのかと思ったぞ。いや、バリスタが実際に使われているところを見たことも、その時の音を聞いたこともないんだけども。


「あ、そうか。希のやつ今思考加速とか行動加速使ってるのか。だったら、一回希の攻撃が止まった時に動くか。」


「希のことを止めなくてもいいんですか?止めなきゃ、昨日の守と同じくらいの怪我を負うと思いますけど。」


 そこなんだよね。問題は。でも希は多分俺と同類なんだよな。っていうことは、俺じゃ希のことを止められない。だから、その後のことを考えて行動しようかなと。


「あ、攻撃止まった。行くぞ!」


「え、ちょっ!」


 希の攻撃が止まった後すぐに俺は倒れている二人の元に全力で向かった。左腕がないせいで少しバランスが取りづらかったけど、何とか二人のもとにたどり着くことができた。……あれ?今二人とも動かなかった?さっきのバリスタみたいな攻撃の音で目が覚めたのか?


「ッ!!」


 ガキンッ!


 突然後ろから俺めがけて何か固いのが振り下ろされる気配を感じて、何とか。衝撃を殺しきれなくて少し後ろに飛ばされたけど、踏ん張って倒れまではしなかった。

 そして、目線を上げるとそこに立っていたのは――剣を持ったリーダー格のリクレッサーだった。


「はっ!?」


「加速使ってください!急いで!」


 珍しく焦ったようなメタトロンの声が聞こえてきた。普段だったら使うなって言ってくるのに。つまりは、それほど危険ってことか。


「天法――シルフの逆鱗――!」


 メタトロンに天法によってリーダー格のリクレッサーが地面にたたきつけられた。なるほど、範囲を制限することで威力を上げることができるのか。


「今のうちです、守。それと二人は起きなさい!いつまで寝てるんですか?」


「……うん?ここは?」「……あれ?私何してんだろ?」


 二人がようやく目が覚めたみたいだな。でもまだボーっとしてる。っと、準備は終わった。


「サリエル!ガブリエル!二人をたたき起こしなさい!死にますよ!

……ああ、もう持たない。来ますよ、守。」


「……ああ、もういけるぞ。」


 ちょうどその時、メタトロンの天法が消え風が止んだ。


「▲▲▲▲▲▲▲ーー!!」


 そして怒りの声を上げながら立ち上がってきた。その勢いのまま剣を振り上げた。


「……こ、こいつは!」「……そうだった!私達はこいつに……!」


「▲▲▲▲▲▲▲ーー!!」


 叫び声と共に剣が二人に向かって振り下ろされた。


「うわあぁぁー!」「キャアアーー!」


ガキンッ!


「お前の相手は俺だ。」


 リーダー格の剣を受け止めながらそう言い放つ。……言ってみたかったこのセリフ。やっぱりこういう時にはこのセリフが似合うよな。いや、でも結構きついかも。


「二人は希の方に助けに行ってくれ。こいつは俺に任せてくれ。」


「わ、わかった。」「い、行ってきます。」


「きゃー、かっこいいこと言うじゃない。」「まったくです。本当にこんなことを言う人がいるなんて。」


 二人の天使が茶々を入れてくる。う、うるさいなあ。そんなつもりなくても今はそういうしかないじゃん。やばい、本当にやばい。こいつ力強すぎだろ。


「こ、のッ!」


 二人の気配が離れていくのを感じながら、体の力を全部使って相手の剣を押し返す。


「▲▲▲▲▲▲▲!?」


「ふー、力勝負は分が悪そうだな。だったら……。」


 体勢が崩れているところを狙って、少し右側から刀を振り下ろす。でも、その攻撃はリーダー格の持ってる剣に当たって弾かれた。


「手数で勝負だ!」


 その弾かれた時のエネルギーを利用するために、一度回転してから左側から今度は刀を振り下ろした。今度はかすった程度とはいえ、当てることができた。これならいける!

 右、左、右、左と交互に攻撃を入れていく。リーダー格の持っている剣は大きすぎるせいか、俺の手数勝負の攻撃を防ぐのには向いていないようだ。確かに今は、俺が一方的に攻撃できていて有利に進められている。でも、リーダー格の攻撃を一度でも食らえば俺は死ぬかもしれない。まあ、死にはしなくても動けないだろう。だから、動け!止まらないで動き続けろ!そしてそれ以上の速さで最善手を考え続けろ!そうすれば、こいつに勝てる!


 ああ、目を開け続けたせいか涙が流れてきた。鼻からは鼻水が、体中からは汗が。体中が流れた体液でべちゃべちゃになってきた。息は常に荒く、視界も少しぼんやりしてきた。手に持っていた刀が普通の刀だったら、それで滑ってもう戦えなくなっていただろう。


「ゴハッ!」


 突然せき込んだと思ったら、のどからおぞましいほどの量の血がこぼれ出た。必然的に体の動きが止まり、そしてその隙を逃すような敵ではなく重たい一撃を食らった。何とか刀で受け切ったものの、刀は壊れ、とてつもない勢いで吹き飛ばされた。何とか刀を地面に突き刺して動きを止めると、自分の体の様子が嫌でも目に入ってきた。すると、目から流れていたのは涙ではなく、鼻から流れ出たものは鼻水ではなく、体中から流れていたのは汗ではなかった。体中が血まみれになっていた。

 ……まだこんなに血が残っていたんだな。そんな場違いな感想を抱いてしまうほど、現状は絶望的だった。もう体が動かない。メタトロンもいつの間にか力を使い果たしたのか、俺の中に帰ってしまっている。刀はこれまでと違ってもう自動的に治らないから、きっとこれが最後だろう。


「▲▲▲、▲▲▲▲ーー!!」


 勝利の雄たけびのようなものを上げながらゆっくりと、でも確実に近づいてくる。その足音が大きくなるにつれて、俺の中の絶望感も大きくなってくる。


 あと2、3歩でその凶刃が俺に届く。


 よく頑張ったよな。これまで刀とか振ったことほとんどなかったのに。あんな恐ろしい化け物相手に戦ったんだ。見ろよ、化け物の体を。節々から黒いもやみたいなものが霧のように噴出している。あそこまでの手傷を負わせたんだ。


 ああ、でも。それでも。


 俺は、約束だけは絶対に、死んでも守るんだ!


「うおおおおーーー!」


 折れた刀を手にもって立ち上がった時、


バンッ!


 という音と共に、リーダー格のリクレッサーの右半身が吹き飛んだ。


「▲▲▲▲、▲▲▲ーー!?」


 でも、まだ倒しきれていない。もやが体に巻き付いて、気味悪くうごめいている。あれは回復でもさせているのか。でも、その間他の部位は動かせないようだ。

 ……だったら、今しかない!


「あああああーーー!!」


 持っている折れた刀を勢いよく、リーダー格の首に突き刺した。


ドシュッ!


 今度こそ、倒しきったのか……。3人がいるであろう、銃が撃ち込まれた方向を見ると他のリクレッサーは全部消滅していた。こちら側に銃を構えている希はもう構えているのでやっとのようだ。弱弱しく、俺に向かってサムズアップしている。

 それに対して、俺も残った右腕でサムズアップをして見せた。


 はあ、ようやく終わった。


 でも、小説とかだったらこの後に……。


「くっ!?」


 突然後ろに気配を感じた。それから離れるように、残った力を振り絞って前に体を投げ出した。そして勘違いであってほしいと願いながら、後ろを振り返る。


 そこには――先ほどのリーダー格よりも一回り大きい個体が立っていた。その額には小さいものの2本の角が生えていた。そしてにやけた口元からは人間のものとは思えないほどとがった牙が覗く。


「おいおい、冗談だろ……?もう戦うどころか動けねえぞ。」


 その手に持っている一目見ただけで業物とわかる大剣を頭上に掲げ、俺に向かって振り下ろしてきた。


 もう限界も限界で、俺はただ見ていることしかできなかった。



 ガキンッ!


「……これは一体どういう状況?なんでもう、中位魔性(ディアボロス)クラスのが現れてるの?」


 そこには、黒翼の天使と夜を溶かしたような黒い髪の少女が鎌をその手に持ちながら立っていた。

次回決着です。

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