表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
契約天使様の依り代  作者: きりきりきりたんぽ
1章 変容する日常
11/59

救援任務 前

 確か昨日左腕が壊れたって話になってた気がするんだけど。


「メタトロン、左腕が普通に動いてるんだけどなんか知ってる?」


 そう声に出してみると、俺の隣に俺の体から流れ出た光が集まって天使の姿になった。そしてばりばり寝起きの声で、


「……ふぁい?どうしたんですかー?」


と間延びした声を出した。……おお、これが寝起きメタトロンか。いやいや、そうじゃなくて


「左手昨日壊れたはずなんだけど、なんか知らない?」


「んん?そりゃー、天使である私の依り代ですからねー。治癒力も人間の比じゃないですよー?一日寝れば大抵の傷は治りますしおすし食べたい。」


 え?そんなことになってるの?


「いいですかー?守は天使の依り代なんですよー?もう、ただの人間であるはずがないじゃないですかー?これからは半分人間半分天使だと思ってくださいねー。成長速度も結構速いですからねー。」


 そうか。まあ確かに一回怪我したら一週間戦えないとかになったらおしまいだもんな。……お寿司食べたいのか。今度作ってやるか。


「なるほどな。今の立場的にはその方がいいか。」


「ただー、その回復にもー、私の天使パワァーを使うのでー、怪我をしすぎるのはダメですよー。」


「お、おう。わかってる。」


 なんかメタトロンの体がとろけてきてるんだけど。あ、俺のベッドにもぐりこんだ。


「んー?小さいベッドですねー。私のベッドの十分の一くらいじゃないですかー。」


 いや、だとしたら大きすぎるだろ。それにどこにそんなベッドがあるんだか。あ、そろそろご飯食べないと間に合わないな。


 朝ごはんを食べてから、制服に着替えて準備を終えた時になってもメタトロンはまだ俺のベッドで眠っていた。


「メタトロン?もう行くぞ。」


「……ん?あい、分かりましたぁー。帰りますねー。」


 メタトロンが俺の体の中に帰っていった。最後の最後まで眠そうだったな。


「行くか。面倒くさいけど。」




「おーす、守。今日め相変わらず疲れた顔してんなー。」


 駅で圭介と合流すると、開口一番そんなことを言われた。


「疲れた顔ってなんだよ。こんな元気そうな顔してるじゃないか。目の下にクマもいないし。」


「いーや、今のお前は倒れるまで秒読みだぞ。なんか少しやつれてるし。幼馴染の俺が言ってんだ、間違いない。」


 マジか。そんな風に見えるか?昨日は確かに初めて大怪我したけど、そこまで引きずってるのか?


「なんかあったのか?俺だったらいつでも手伝うからな。」


「ああ、それは助かる。まだ自覚はないけど、困ったときには相談するよ。」


「ああ、そうしろ。それより、最近ラノベ読んでるか?俺は最近勉強ばっかしてたせいで全然読めてないんだよ。」


 ……そういえばつい最近まで一学期の期末テストだったっけ。テスト期間だけは学校が早く終わってくれるから、中学生の時からいつも楽しみなんだよね。でも、今年に限って言えば学校が終わった後してるトレーニングの方が大変だからテスト期間の方が大変だったかな。


「あー、俺も最近は読めてないんだよな。前回の中間テストの結果が分かった一か月半くらい前からはさっぱりだ。」


「そうなのか?……ああ、そうかお前テッペンだもんな。星辺高校との連絡係をやらなきゃか。でも今更だけど、大丈夫か?お前あの件から女子のこと苦手だろ?」


 ……そうだ、希はどうしてか大丈夫だったけど、それ以外の女子は普通に俺は怖い。中学生の時に起きたあの事件のせいで。


「……わからん。もし相手があれと似てる感じだったら逃げるかもしれん。」


「だろーなー。まあ、その時は逃げるなり俺を一緒に連れていくなりしろ。俺は基本的に暇だからな。」


「……本当に助かる。」


「おう!まあ、なんだ。なんでもかんでも良すぎるってのも考え物だな。

おし、話変えるか。最近部活でさー、先輩が……。」


「あははっ!なんだ、それ。……」


 圭介の話はいつも面白い。少し誇張してるのもわかるけど、それがいい塩梅なんだよな。さすが俺の幼馴染って感じだわ。



 圭介と話しているとあっという間に学校の最寄り駅についた。もっと時間かかってくれてもよかったんだけどな。……さすがに遅刻はまずいか。


「あー、もう着いたのか。」


「あっという間だったな。続きは昼休みにでもするか。」


「そうだな。今日学食に行こうと思ってるんだけど行かないか?」


「いいぞー。なに食べるんだ?」


「まだ決めてないな。ラーメンとかか?」


 教室に着くと、同級生は皆席に着いて勉強していた。うわー、真面目かよ。

自分の際の席に荷物を置きながら圭介と喋ってると、


「黙ってくれないか?今僕達勉強してるんだけど。」


と誰かから声をかけられた。しかも不機嫌そう。それだけで無視したくなる。

振り返ると、眼鏡をかけた少年が立っていた。えっ?マジで誰?


「誰か知ってるか、圭介?」


「さすがに同じクラスメイトだからな。名前は、えーとまつしたけいじだったか?ほら、次席だったやつだよ。」


「え?そうなのか?あんなぼんやりした奴が次席なのか?」


「聞こえてるよ!失礼な奴だな、お前は!人の名前すら覚えられないのか!」


「名前なら覚えているさ。興味があるやつならな。」


「興味がないとでも?昨日も話しただろう!?」


 ん?昨日話した?学校で圭介以外と話すことなんてほとんどないんだけど。あっても教師とだけなんだけど。んー?……ああ、


「思い出した。お前昨日の帰りに絡んできたやつか。お前のせいで昨日待ち合わせに遅れそうになったんだからな。」


「え?ああ、それは申し訳ない。でも、名前を覚えないのはおかしいだろう!」


「……はあ、わかったよ。覚えればいいんだろ?松下啓二だな。」


「ああ、次のテッペンの名前だよ。しっかり覚えておいて。」


 そう言い残すと眼鏡少年は席に帰っていった。……ああ、眼鏡少年じゃなくて松下啓二だったか。まあいいか。それよりも、やることができたな。そのタイミングで担任が入ってきた。


「おーし、朝礼始めるぞー。」




「疲れた……。」


 俺は午前中の授業が終わった段階で既に半ばグロッキーになっていた。いつも通り何も面白くない授業だったな。体育も最近トレーニングしてるせいか、全然苦じゃなかったし。それどころか楽すぎて退屈だった。だからこれは気疲れだろうな。

 結局昼ご飯は学食でラーメンを食べた。初めて食べたけど、これなら市販の乾麺ゆでた方がいいって感じだった。その時、圭介と話していた流れで担任の名前が相田(あいだ)先生であることが分かった。一学期が終わるころになってようやく担任の名前を知ったことに自分自身でも驚いた。

 午後の授業は睡魔との闘いだった。ちょうどいい感じにおなかが膨れてしまった結果、尋常じゃない眠気が襲ってきたのだ。でも、ここで寝ると眼鏡少年にまた絡まれるかもしれなかったから根性でずっと起きていた。

 そして今、授業が全部終わった放課後。精神的に疲れ切っていた俺はいつも通り机に突っ伏していた。


ブー、ブー。


 突然ポケットに入っていた携帯に連絡が入った。もう教室に先生がいないことを確認してから携帯を開く。そこには、


『九条君。十分後に昨日の喫茶店で待ってます。』


という希からの命令(れんらく)と、


『本日放課後に他のタッグの合同任務がある。もしもの時のために正義とともに備えておくように。』


というミカエルからの任務(れんらく)が入っていた。

うわー……。つまり、これって俺たちにもしもの時は尻ぬぐいをしろってことだよな。マジかよ。希のも半分命令みたいなもんだろ?


「守ー。俺部活行ってくるわー。また明日な。」


「おう。また明日。」


 圭介に挨拶を返すと、俺も急いで荷物もまとめて教室を出た。


 昨日行った喫茶店の名前は『喫茶店 あふたーぬーん。』というところで、天辺高校と星辺高校の最寄り駅の一つとなりの駅に隣接している。俺は知らなかったが、そこはよく天辺高校の男子と星辺高校の女子がデートするときに使われているってことで有名らしい。それ以外にも当然紅茶やコーヒーでも有名だが。


カランカラン。


 店内に入ると、時間帯的にも客の数はそこまで多くなかったため、すぐに希を見つけることができた。


「待たせたな。」


「いえ、こちらこそ突然呼び出してしまい、すいませんでした。」


「ああ、気にするな。……すいませーん。この季節の果実ティーを一つください。」


 通りがかった店員さんに注文しながら、カバンを下ろし学ランを脱いだ。


「で、やっぱり要件はあのメールだよな。」


「はい。他のタッグの合同任務があるからそれに備えておけ、って具体的に何をしていればいいんでしょうね?」


「さあな。でも俺たちも止めていないとなんかあった時に助けにもいけないだろうから、今のうちに止めておくか?」


 そう、俺たちは他の依り代たちが時間を止めていたとしてもそれに気づけない。これまでで、時間が止まったのは直接メタトロンに止めてもらった時だけだったし。


「ああ、確かに。他の依り代が止めていても私達はそれに気づけないですね。これまでで自分の意思以外で止まったことないですし。」


「そう。つまり、救助に行くには俺たちも同時に止める必要があるってことだな。」


「でも、それはおかしいのでは?あまりにも前提条件が厳しすぎます。それに昨日は同じ裏世界に私達いましたよね?」


 ……確かに。っていうことは、どういうことだ?天使同士で連絡とってるって言ってたし、同じタイミングで時間を止めている、とかか?それならありそうか。


「あ、守君。紅茶が来たみたいですよ。」


「んあ?……ああ、ありが……。」


ピキンッ!


 店員さんから紅茶が入ったポットとティーカップを受け取ろうとしたときにそんな音が不意にした。そして店員さんの動きが不自然に止まった。


「時間が止まったようですね。ふあぁー……。」


 現状の把握が追いつかず呆然としていたら、背後からあくびを堪えた声で話しかけてくる少女の声が聞こえた。


「メタトロン!?今どうなってんの?」


「落ち着いてください。さっき言ったじゃないですか。今守と希さんは他の天使が時間を止めた空間にいますよ。」


「メタトロンの言う通りみたいですね、守君。私も動けます。」


「メタトロン……。あなたまた使いすぎたんですね?まあ、前回のは結構大変でしたから今回は特に何も言いませんが。」


「そうしてください。私としてもこの姿で出るのは嫌なんですから。」


 ……何となく、現状の把握自体はできてきたぞ。つまり今は他の天使が時間を止めた空間、面倒くさいから停止空間でいいか。で、その停止空間にいると。そして、……うん、普通に天装も出せる。特に動きに制約とかはなし。つまり、ただ他の天使が作り出した停止空間にいるだけで他は同じ、と。でも結局は備えていろってことだから、何もなければ大丈夫だよね。


「おや?守。救援メッセージが届きました。……これは裁定の天使サリエルからですね。」


「私の所にも来ました。私には節制の天使ガブリエルからです。」


 ……マジか。なんかあっちゃったのか。


「そんな顔していないで行きますよ、守君。」


「……そうだな。……はあ、せっかく紅茶飲めると思ったのに。」


「あ、一応いつも通りの契約はしておきましたよ。それと、その紅茶あとで私も飲みます。」


「しょうがないな。ちょっとだけだぞ。契約はありがとな。」


「あの天使あってこの依り代あり、って感じですね。」


 ん?なんかすごい罵倒された気がする。


バチッ!


 希が弓で矢を放って空中に穴をあけた。


「さ、行きましょうか。初めての救援ですよ。気を引き締めていきましょう。」


「そうだな。昨日の今日で大怪我しないようにしないとな。」


 そんな軽口を叩きながら穴を通ると、そこには


――大量のリクレッサーと血まみれの剣を掲げたリーダー格と見える一回り程大きいリクレッサーが立っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ