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契約天使様の依り代  作者: きりきりきりたんぽ
1章 変容する日常
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手が、手がぁー!

 うぐおお。左手がいてぇー!


 目が覚めた時に最初に思ったのがそれだった。左腕を見ると、骨折した時に使うギプスが見える。時間はちょうど日付が変わったくらいか。なんでこんな痛いんだ?どこかにぶつけたっけか?そんな記憶ないんだが。……あ!あの時の合同任務か!思い出してきたぞ。あれ?俺って確か途中で意識を失っていたような。そうだよな。最初いつも通りに戦ってて、途中でまずそうだったから全力で思考加速と行動加速を使ったんだよな。それで、確か


「そうだ、希が襲われそうになってて慌てて助けに行って、その後に意識を失ったんだ。」


「起きましたか。お寝坊さんですね。」


 ……うん?おかしいな。メタトロンだけどメタトロンじゃない声が聞こえてきたぞ?ちらっと声の主を見ると、そこには――最初にあった時と同じ姿のメタトロンが空に浮かんでいた。


 ――やばいな。本当にかわいいな。


 おっと、なんか変なことを考えてしまった。いや、かわいいんだけど、俺ってそんなことを考えるタイプではなかったはず。俺が寝起きのせいか、それともかわいすぎるメタトロンのせいなのか。そんなつぶらな瞳で見つめないでくれっ。


「起きてますか?起きていますね。では話を続けます。

まずその左手のことについてですね。どうしてそんなことになっていると思いますか?」


「え……?あの時に攻撃を受けたんじゃないのか?」


「いいえ、攻撃は受けていません。確かに危ない場面はいくつもありましたが、攻撃自体は何も受けていません。」


 じゃあ、一体……?


「答えは、天使パワーの使いすぎですね。」


 天使パワーの使い過ぎ……?確か人体に天使パワーが流れすぎると、体が壊れるんだっけ?


「刀が何回も壊れていたとかってことか?」


 何回も刀が壊れていて、それを気づかない内に修復していたとかだったら、確かに天使パワーの使い過ぎになりそうなんだけど。


「いいえ。確かに何回も壊れていましたが、その程度では人体は壊れません。原因は思考加速と行動加速の使い過ぎです。」


 でもそれって、契約による等価交換であって天使パワーが関係する余地がないんじゃ?


「では、思考加速は行動加速をするときに使われるエネルギーはどこから来ると思いますか?」


 ……まさか。いや、確かに少し考えればわかったことか……。


「もう気づいたようですが、一応説明をさせてもらいますね。今回のような前借の契約では、エネルギーとして使われるのは、私の天使パワーなんですね。だから、思考加速と行動加速を使いすぎたことで天使パワーがあなたの体の許容量以上に流れてしまい、体が壊れたっていうことですね。」


「なるほど、な。」


「これからは、気を付けてくださいね。使いすぎだと判断した時は無理やり止めますからね。」


「分かった。次から気を付けるよ。そういえば、メタトロンが俺をここまで運んでくれたのか?」


 そう、確か駅近の喫茶店にいたはずなんだよ。そこで希と喋ってたんだけど。


「いえ、私ではないのですが。一体誰なんでしょうね。まあ、希さんも無事みたいですからそんな心配しなくてもいいのでは?今回は一件落着ということで。」


「そんなことわかるんだ?」


「ええ。天使同士で連絡を取ることができるので。希さんも体を少し壊したみたいですが、先ほど目を覚ましてもう大丈夫そうとのことです。」


 体を壊した?希も?どして?


「なんでも最後残ったリクレッサーを倒すときに銃弾を無理して作ったみたいで。それで全員倒せたみたいですが、反動で意識を失ってしまっていたようです。」


 ああ、あの爆発する銃弾か。確かにあれくらいの威力が出るなら、結構な天使パワーを使うよな。俺もあんな広範囲攻撃できたらな。よくか悪くか、一対一なら大丈夫だけど、前みたいな大人数相手にするときはどう頑張っても苦戦するんだよな。


「で、どうしてメタトロンは小さくなってるんだ?」


 気になってたことを最後に聞いてみた。


「ああ、それは力をたくさん使ったからですね。あの姿を保っていられるほどの天使パワーが残っていなかったんですよ。」


 メタトロン曰く、本来の姿はこの小さいほうで、大きいのは天使パワーで急成長させた姿なんだとか。だったら小さいままでいいじゃんと思うんだけど、それは嫌みたい。天使のイメージが崩れるとか。


「そうなんだ。俺としては小さいほうがかわいいと思うんだけど。」


「えっ!?やっぱりそうですか?そうなんですか?守がそう言うなら小さいままでもいいんですが。」


 おお、いきなり早口になったな。それに少し顔が赤いような。これはなんだ。照れ隠しか?こんな反応するのは初めてだな。なんかこっちも恥ずかしくなってきたぞ。


「ま、まあ、もしイメージが崩れそうなら大きくなってもらってもいいんだけどな。」


「そ、そうですね。場面によって変えましょうか。」


「な、なんかご飯でも食べるか?お腹空いただろ?なんか作るぞ。」


「そ、そうですよね。もうこんな時間ですもんね。私はなんでもいいですよ。」


 謎の早口会話をしながらベッドから起き上がり急ぎ足で台所に向かう。そして冷蔵庫を開けたところではて、とあることに気づいた。なんで冷蔵庫が開くんだ?と。メタトロンが出てる時って時間が止まってるんじゃなかったっけ。時間止まってたら冷蔵庫も開かないよね。まあ、あとで聞けばいいか。

 こんな時間だし野菜炒めをもやし多めで作ろっか。


「あ、左手使えねえや。」




 俺が左手使えなかったせいで、まともなものが作れなかった。結局作り置いていた総菜を適当に大皿に盛って、それを夕ご飯というか夜食というかの代わりにした。料理は結構好きなんだよ。勉強とかしなくても教科書読んだり授業聞いたりするだけで大丈夫だから時間も余るし、何より一人暮らしなんでね。


「一応言っておきますが、私は味にうるさいですからね。」


「大丈夫だ。自分で言うのもなんだが、料理はそれなりに得意だ。」


「そうですか?なら、早速いただきましょうか。」


 ぱくっ!

メタトロンが小さな口を大きく広げて一口大のハンバーグをほおばった。


「……。」


「?」


 ぱくっ!いやいや、まてまて


「メタトロンさん?感想を聞いても?」


「……え?ああ、初めて食べるものだったのでつい。とてもおいしいですね。バッチグーです。……これなら希さんの胃袋もつかめそうですね。」


「ハンバーグ食べるの初めてだったのか?それと最後なんだって?」


「いえいえこちらの話ですよ。まあ、ハンバーグというより何か食べるのも初めてなんですけどね。私が何か食べるのを見るのは初めてでしょう?」


「え?……ああ、確かに見たことないな。」


「私達天使は生きるのに食事というものが必要ないんですよ。天使パワーさえあれば大丈夫ですし、しっかりと休めていれば自然と天使パワーも回復していくので。まあ、食べることもできるんですけどね。……うまー!」


 喋りながらも箸が止まらないメタトロンを見ながら俺も適当につまんでいく。……今度はチーズハンバーグも作ってみようか。そこまでチーズは好きじゃないんだけど。……味にうるさいって何だったんだろ。初めてモノを食べる人が味にうるさいのか?


「そういえば、今って時間止まってる?」


「いやー、止まってませんね。私もう天使パワーを使い果たしちゃってるのでゆっくり休まないと時間停止はできませんね。もっとも、天使とその依り代以外には私を視認できませんが。」


「なるほどね。使い切っちゃったんだ。」


「申し訳ないことに私はそこまで強くないので天使パワーも多くないです。ウリエルとかは結構多いので、是非ともその依り代の希さんとは仲良くやっていただきたいです。私が楽できるように。」


「そういうことね。」


 メタトロンがそこまで強くないとは思えないんだけど。実際これまで全然困っていなかったし。でも、メタトロンが自分はそこまで強くないってよく言ってるのも知ってる。おどけて言っているように見えて内心では劣等感にさいなまれているんだろう。その笑顔の裏では、涙を必死にこらえているのかもしれない。……きっと俺と同じように。圭介が気づいてくれなかったら俺はきっと潰れてしまっていたかもしれない。


 だからこそ、俺はこのかわいい天使が心から笑っている姿を見てみたい。そんな少しずれた劣等感を吹き飛ばせるくらいに思いっきり。目の前で最後のハンバーグをほおばっている天使を見ながらそう思った。


 でもきっと俺だけが強くなるんじゃダメだ。圭介だってそうだった。天才とか言われて子供のころから嫌厭されてた俺と一緒にいようとしてくれた。そのために苦手だったはずの勉強を必死でしてくれた。その結果今じゃどうだろう?男子校でトップの天辺高校に合格しただけじゃなく、その一番上のクラスでも一緒にいてくれている。


 だったら、俺がするのはただ一つ。一緒に強くなっていこう。どっちが上でもなく下でもなく、ただ俺たちが俺たちとして自信が持てるように。

 一緒にいる。これはきっと簡単なことではないのだろう。でも圭介がやってくれたんだ。今度は俺の番だろう?


 静かにそう内心で誓っている間に、メタトロンがハンバーグを飲み込んだようでお茶をゆっくり飲んでいた。


「さ、今日はゆっくり休んでください。明日も学校ですよね?」


「ああ、そうだな。片づけたら寝るか。」





 ビリビリビリビリッ!

 翌朝、いつも通り六時半に目覚まし時計にたたき起こされた。


「……。うるさい……。」


 目覚まし時計の頭を叩いて止める。そして、のそりと起き上がる。……うおー、眠てー。大きく伸びをしてから、洗面所に顔を洗いに行く。両手で水をすくって顔にぶつける。


 パシャッ!


 ……冷てぇ。ようやく目が覚めてきたな。さて、朝ごはんを食べたら学校行かないと。

……あれ?なんかおかしいな。なんで左手動いてるんだ?

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