恐ろしの白魔女
アンティーク調な建物に、その『恐ろしの白魔女』はいると言う。
怖いもの知らずが調べた結果、複数人でその建物に住んでいる。
もしその奇怪な呼ばれ方の白魔女に、懸賞金でもかかっているとしたら・・・
怖いもの知らずは、むしろ白魔女を捕まえて懸賞金申請を国にしてみよう、と。
そんな算段だったらしい。
まずは偵察に、と、庭に咲く花に水やりをしている家政婦らしき美女に声をかける。
その家政婦は「お茶でも飲んでいかれますか」と気さくに提案してくれた。
まんまと屋敷の中に潜入したはいいものの、人気はない。
高級そうな置物や花瓶に目くばせをして、
怖いもの知らずは、最悪が起きても置物や花瓶をくすねていこう、と思っていた。
居間に通されて、そこにいたのは黒髪の若い女ひとり。
長いテーブルには、複数人分のまだ湯気がたったティーカップ。
どういうことなのか、と思っていると、黒髪の美女が言った。
「私は恐ろしの白魔女・・・一体、何の用です?」と凛とした声で聞かれる。
「何歳ですか?」
「秘密です」
「どうしてお茶をこんなに淹れたんです?」
少し笑った彼女は、居間に飾られたいくつもの絵画をしめした。
そこにはかならず人物たちがいて、そして「お茶を飲むな」と言われた。
絵画の人物たちに、だ。
お茶を飲むな、と。
そして恐ろしの白魔女は、ティーポットに手をのばした。
「お茶はいかが?」
「い、いえ、もう帰ります」
「ん?そうなの・・・またいらっしゃるのかしら?」
「いえ、分かりません」
逃げるように去っていた怖いもの知らずを見送って、家政婦がそれを知らせる。
『恐ろしの白魔女』と呼ばれている彼女は、深いため息を吐いた。
「みんなー、もう、出てきていいってぇ~」
それを聞いた絵画の人物たちが、どばっと絵画から出てきて肉体を持つ。
ドレスやスーツを着た魔法使いたちだ。
恐ろしの白魔女は言った。
「一族そろって魔法使いなのはいいけどさ~、私以外が人見知りって疲れるっ」
「お前も本当に白魔女になりなさい、って」
「普通の生活もしてみたい、って言ってるでしょう?学校卒業までその話はなしっ」
「「分かった、分かった」」
ティータイムに戻った魔法使いたちが、先代の女魔法使いの絵画を見る。
そこには、黒髪少女にそっくりな美女の絵画。
「本当にお前は、先代の当主に姿がそっくりだ」
「そのせいで私が、『恐ろしの白魔女』って呼ばれてるんでしょ?人間違いで」
「先代当主は、人助けのためにその異名をみずから望んだのだよ」
「耳タコ、だっての。尊敬はしているけど、さ」
「うんうん。さぁ、冷めないうちにお茶をいただこう」
学校を卒業したあと、
その黒髪美女が『恐ろしの白魔女』の異名を受け継いだと聞いたのは、
私が五歳の時くらい。
そして当主になった彼女の記念絵画を見て、ばぁばって美人なのね、と思った。
それからしばらくして、『恐ろしの白魔女』の異名を継がないか、と話が来た。
これを語っている私が男性であることを、異名はまったく遠慮しなかった。