西の白魔女はこうして死んだ
世界地図でいう所の方角、『植守図:ウエスト』にある城下町。
そこに身丈ほどもある魔法の杖を持った美少女がトランクを片手に歩いている。
ふと立ち止まった美少女は白魔女。
白いノースリーブのマキシ丈ワンピースドレスを着ている。
細い裏路地に入り、酒場の看板を見上げ、入ろうとする。
そこにちょうど待ち人の男が酒場から出てきて、ふたりは衝突した。
妙な驚きの声を上げた白魔女に、身体の数パーセントが機械化された男が微笑。
「私は白魔女。お前か、イカれ帽子屋とうさぎは?」
「はいはい、そうですよ。こう見えて元兵隊です」
男は抱き寄せていた白うさぎと、白い三角帽子を彼女に示した。
三角帽子をかぶった彼女は、お礼に白うさぎを擬人化魔法にかけた。
その時にくしゃみを出してしまい、壮年男が着ぐるみを着ているような姿になってしまった。
「よかったよかった、それでは、いざ」
酒屋の影にかかった石階段を上がるふたりと、うさぎ。
切り立った崖には多少の植物が生きていて、その先は荒れた海である。
風に飛ばぬように帽子をおさえている白魔女。
そして彼女が転ばぬように抱き寄せる、イカれ帽子屋14世。
旅の間に手に入れた不思議な宝石を首に下げた壮年うさぎが、指を差す。
うさぎが示した先から、海が割れ地表が現れる。
「さぁ、ご主人。宝石の力がなくならないうちに」
白魔女とイカれ帽子屋14世は、「いざ」と言って、うなずきあった。
うさぎが宝石をうっかり海に落してしまうのは、これから間もなくのことだった。
うさぎの名前は生まれから三月の別称、ボシュンと言う。
そのボシュンの子孫たちは、まるで可愛らしい幼児の人型が着ぐるみを着ている。
数羽が「ぴょんぴょん」と言いながら、飛ぶ練習。
明るい庭には綺麗な花が咲いていて、テーブルと椅子がある。
そこにお腹の大きな白魔女と、旦那のイカれ帽子屋14世。
そして長男が本を音読している。
「宝に目がくらんだ白魔女たちはケンカをはじめて神様を怒らせてしまい、
たちまち海にのみこまれ、今も見つかりません。
西の白魔女はこうして死んだ、とさ。おわり」
本から顔を上げた長男が、「どういうこと?」と明るく不思議がる。
イカれ帽子屋14世は苦笑。
「大変だったんだからぁ」と、お茶のおかわりを淹れてくれるボシュン。
微笑をたたえた白魔女は、可愛い息子に言う。
「お母様たちは、こうして死んだことになっているのよ」
なるほどなぁ、と、聡明な長男は本を閉じて横に置くと、紅茶を飲み始めた。
置かれた本は『西の白魔女はこうして死んだ』と言う題名である。