夢の覚書 第5夜
薄暗い店である。中東風の部屋の中央には、水たばこがあり、灯が入っていた。うっすらと水蒸気が立ち込める中、私は水たばこ越しに店主と向かい合っていた。彼が水たばこの吸い口から一口吸い込む。私もそれをまねて一口含む。しばらくはそれを繰り返した。どの程度たったころだろうか。店主は私に軽く頭を下げ、席を立った。私は、しばらく一人で水たばこを吸い続けた。一口、また一口と喫しているうち、その吸い口から黒煙が上がっていることに気が付いた。奇妙に思い、水たばこのほうを見やると、内部の液相が、黒々とした色に変わっていた。いつからそんな色だったのだろうか。気づかないうちに妙なものを吸ってしまっていた。と思うと、どうも視界が暗くなってきたように思う。しかし、私は黒煙あがる水たばこの吸い口に手を伸ばしていた。どうにもよくないものであることが感じられるが、なぜだか吸わずにはいられない。一口。吸ったか吸わないか。曖昧となった。
街だ。気が付けばビルを見上げている。すごい速さで景色が流れていく。私はこんなに早く走れただろうか。いや、そもそも体は弛緩している。ゆるんだ口元がもとに戻らない。しかし景色が流れていくのは何なのか、と、ようやく自身が車に乗っていることに気が付いた。体は弛緩し、首すら回せないので、私はただただ外の景色を眺めるだけである。明るさから言って昼間なのだろう。少し視線を下げると、人々が歩いている姿が見える。みな、私を一瞥する。はた目から見ても、正常でないことは見て取れるのだろう。露骨に顔をしかめる人。連れと指さして笑うもの。無関心に眺めるもの。いずれにせよ、私の体は何の反応も示さない。体は相変わらず指一本動いてはくれない。私を乗せて車は進み風景は流れる。ただただそれだけである。
そこで目が覚めた。






