第七話 『お疲れ様、初日』
二人は風呂から上がり、1階の学食にいた。
「らぁめんはもうたべたのか・・・。んじゃあ、あれだ!カラ揚げ定食だ!」
この世界にも唐揚げがあるのか。というか食が似すぎてる気もする。
オリーが大きな声で言い、食堂のおばちゃんにカラ揚げ定食2つが頼まれる。
「唐揚げ・・・。」
「カラ揚げ、そこまで好きじゃなかったか?ここのは他に比べてめっちゃうまいんだけどなぁ。」
ぼそっとユウが言うとオリーが聞く。
「いや、好きなんだけど、久しぶりに食べるなぁって、思って。」
ユウは、お風呂からずっと話してたおかげで、オリーとは普通と呼べる程度には話せるようになっていた。ずっと話してたおかげとは言うものの、かなり曖昧な風に話していたが。
唐揚げなんて、久しぶりだ部活をやめてから、あまりこういうエネルギッシュなものを食べてなかった気がする。半年程度ぶりではないだろうか。
「カラ揚げ定食2つおまち。」
おばちゃんの声に気が付いて定食がのったプレートをそれぞれ受けとる。よく知ってるそれではなく、でかでかと一つだけ唐揚げのような塊がのっている。それ以外には、味噌汁やサラダがのっていて、お店の定食のようだ。
昼と同様にガラガラの食堂で、適当な席に座る。それぞれ箸を机の端の箱からとって、オリーが目を瞑り、ユウも真似する。
「主よ。今日も迷える我らに生を与えてくださりありがとうございます。彼らの命を捧げます。いただきます。」
「いただきます。」
お昼に聞いた言葉と全く同じものだった。おそらく、この世界での信仰のようなものなのだろう。目を開くとオリーが既に食べ始めていた。ユウも箸を持って食べ始めようとするが、あまりの大きさに手を付ける気にはなれない。とりあえず頑張って小さく切り分けて食べていくことにしよう。
がつがつと食べるこの小柄な男子生徒は、エルフのクォーターらしく、適正属性は水。学年は同じく高等部の2年、成績は悪くないほうで、324号室の一人だ。324号室にはほかにも、今は帰省中の2人がいるらしい。エルフの里はここから片道5日ほどかかるらしく、往復だけで10日、春休みは14日らしく全然休めないので帰っていないそうだ。
「エノモト、って家名聞いたことないけど、聖家系じゃないよな?」
「聖家系?」
もぐもぐ、とでかい唐揚げと格闘してたら、オリーが知らない単語で話しかけてきた。
「ほら、聖八十八家ってやつだよ。貴族だよ。なんかどこか上品な気がする。」
「ちが・・・うんじゃない?というか、知らない・・・。」
「異世界の何かの名を冠したなんか、王族の血が流れて分岐した八十八の貴族家ってやつだよ。このエルダ学園に結構いるらしいけど。ほら、寮長さんとかがそうじゃなかったかな。」
寮長の名前はレオナルド――、なんだったか。家名のだから、わからないほうが聖八十八家ってことになるのだろう。よくある異世界貴族とやらじゃないだろうか。というかここってお金持ち御用達の学園だったのか。でもまぁ、オリ―のように普通そうな人もいるし、大丈夫だろう。
「そういえば、始業式?授業が始まるのっていつなんだ?」
「えーあー、あと4日後かな?」
ふと見ると、オリーはあのバカでか唐揚げを食べきっていた。早い。
あと4日で基礎魔術をすべて覚えれるだろうか。まぁ実技だからいけないことはないだろう。
「そうだ、時計、時計ってないの・・・?」
異世界ギャップだったかもしれないと、聞いてから気付く。
「あー?腕時計って入ってなかった?ほら、これ。」
そういってオリ―は袖をめくる。すると、そこにオレンジ色の石がはめられた銀のブレスレットが見えた。知っている腕時計ではないが、きっとこれがオリーの言った腕時計だろう。時計らしきものは見えないが、時計なのだろう。こっちこそが異世界ギャップだ。
「珍しいかな?この腕時計つけてるとね、いつでも時間がわかるんだよ、すごいっしょ!」
ふぅむ、と言いながら箸を動かす。異世界とは元の世界によく似た、全く別の世界なのだなと思う。というか入ってたっけ?
「ごちそうさまー。」
オリ―が手を合わせて言う。
「な・・・?」
思わず箸を落としそうになる。この短い会話の最中に完食したのか・・・!?自分のなかなか減らない揚げ物の塊を眺める。こいつも早食いか。
「他には何か聞きたいことはある?デザートのアイスでも食べよっかな。」
そう言い、オリーは立ち上がり、再びおばちゃんの方へと歩いていく。今のうちにちゃんと食べなければ。
がぶがぶと頑張って口を開き、食べる。この唐揚げの塊は美味しいのだが、知っている味よりもかためでパサパサしている。ついでに言えば甘い気がする。それでも美味しくお米に合うので御飯が進む。このお米もジャポニカ米よりでモチモチしていて、美味しい。というか味噌汁やサラダに至ってまで異世界ギャップが若干ながらあるのだが、どれも美味しく完成されている。すごいな。
食べながらぼーっと前を見ていると、黒髪の女の子と目が合う。
「あ!!ユウ君生きてる!!!」
あぁ、エネルギッシュなのに絡まれた。その女の子、アリアはこちらへ駆け寄ってくる。
オリーできれば早く戻ってきてくれないかな。
「あー、無事に生きてます。造形魔術?もできるようになったです・・・。」
一応の報告だ。ほんとうに一応だが、教えてもらった身だからだ。
「よかったぁ。アタシ、あの後にニーアさんと用事あったの。でも、また会えてよかったよかった!」
そう言ってアリアはユウの頑張って食べた唐揚げの残り少しを取って食べる。それでようやくユウの夜ご飯は完食となった。
「あの・・・。」
「これ!カラ揚げでしょ!初めて食べた!おいしい!!」
なんなんだこの距離感バグってるバカは。
すると、ユウの後ろに立ったアリアの更に後ろから足音が近づいてくる。
「あれ?ユウってもう彼女持ちだったのか・・・。そうだったのか・・・。」
「適当に誤解しようとしないでくれないかな?」
さっきまでお互いのことを話し合った声に振り返ると、オリ―がパフェみたいなものをもって立っていた。結構大きめのパフェで、肘から手首くらいはありそうだ。早食いと大食いは切っても切れない関係らしい。
「あ、えーと、アタシ、ユウ君の友達、の、アリア、です・・・。」
振り返り、オリーの方を向いたアリアが萎縮して答える。この萎縮の仕方は完全にオリーのセクハラのせいだろう。
「おい、オリー、セクハラだぞ。初対面の女子にそれは最低だぞ。俺ともさっき会っていっぱい話しただけだろう。」
「わり、ってあれ?君は・・・。」
重いパンチを軽い会釈で謝るオリーは、アリアを見て眉をひそめる。
「まぁ、ユウの友達だし、大丈夫だろうな。頑張れよ。ユウ。先に部屋戻ってるぞー。」
何かを思ったオリーはそそくさとその場を去ってしまう。
あれ?いつの間にかにパフェを食べ終わっていたような・・・?
「ユウ君ごめんね。アタシ、あんまり人と喋ったりしなかったから、びっくりしたの。」
どの口が誰に言ってるのだろうか。初対面で不審者扱いは絶対に忘れないぞ。
「はぁ、オリーがごめんな。あいつはオリー。俺と同じ部屋の人だ。」
「ふぅん。なんか仲良さそうだったね。」
「一緒に風呂に入ってきたんだよ。それでなんか、仲良くなれた。」
ほうほう、とアリアが吞み込む。こいつもしかして友達の作り方の1ページを埋めたわけじゃないだろうな。こいつに関しては普通に話してればいっぱい作れるだろうに。
「じゃあお風呂に一緒に入れば仲良くなれるの、なんて言わないでね。」
「さ、さすがにお風呂は一人で入ります・・・。」
と、言いつつ一瞬だけ、なんでわかったの、とでも言いたげな顔をしたのをユウは見逃さない。
今日一日はかなり長かった。早起きしたのもあるのだが、やはり情報量が多い。そして、異世界人ということを最初に会ったときに見破ったアリアには、色々聞けるというのが一番大事だろうか。情報は大切だ。疑われて周りに人が寄らなくなれば、異世界に来た意味がない。楽しみたい、は大事なのだ。
「今日は色々教えてくれてありがとう。また、頼るかもです。」
謝罪と感謝はちゃんとしろって誰かが言っていた。だからユウはアリアに向いてしっかりと感謝をした。
アリアは目を丸くして顔を逸らす。
「ま、まぁ、アタシが多分、友達第一号でしょ?もっと頼って頼って!」
照れ隠しで逆に胸を張ってるように思える。やはり、この子はなんというか―。
「じゃ、じゃあ俺はもう寝ますので、また、今度。」
そう言ってユウは立ち上がり、プレートをカウンターの方までもっていき、階段へ向かう。
何を言いかけたのだろうか。危ない。変なことを言おうとしてしまったのはきっと疲れているからだ。覚えることが多かったからだ。
「また明日、おやすみだね。」
アリアはそう笑ってユウを見送った。
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「つかれたぁ。寝まする。」
「明日は俺用事あるんだよねぇ、まぁ部活なんだけど。」
この世界にも部活あるのかよ。強制じゃないといいなぁ。
ベッドに伏して考える。今日手に入れたキーワードを整理する。ゲン、ニーア、アリア、レオナルド、オリー。魔術、魔法、エーテル、聖八十八家、腕時計。そんなところだろうか。
ほんとうに長い一日だった。歩き回って、ラーメン食べて、魔術の練習して、なんか気絶した。雷。そこまで好きではないのにどうして雷属性なんかになってしまったのだろう。それで風呂に入り、でかい唐揚げを食べて、今に至る。
「おやすみぃ。」
「おうよ、おやすみ。」
オリーとはこれからルームメイトかつ同級生だから、仲良くしたい。オリーとはかなり馬が合うようでとてもよかった。じゃなかったらもう一生無言だったろう。お昼前にばったり出会ったアリアも、不審者だといいつつ話しかけてくれた。そして異世界の常識を教えてもらえた。これは異世界ものとしてはかなり幸運だと言えるのではないだろうか。学校にいる時点でおかしいんだけれど。
お疲れ様、自分。初日、頑張った。