第四話 『初めての異世界食』
「ところでユウ君さんはなんであっちいるんですかね?」
桜の木から少し離れてぼーっとしてたところで、ふと名前を呼ばれた気がした。ジーっと三人から見つめられている。これは近づくタイミングだろうか。
「あ、いや、どうも・・・。」
やっぱりこの人たちはキラキラしてるなぁと自分の地味さをしみじみ感じながら近づく。
「そうだ!ユウ君さんは何年なんですか、ゲン先輩?」
そういえば、それは俺も聞きたい話だ。なにせ魔法の学校に途中入学なのだから、自分がどこまで実力を上げなければいけないかも大問題だ。なお、さっきの魔術を教えてくれるの話で気付きました。
「ユウ君かぁ。あ、いや!エノモト君の学年は確か、君らと同じ高等部第二学年と聞いたさ!ちなみに学寮はみんな同じコーヴァス寮さ!」
コーヴァス寮所属、高等部二学年らしい。なんで魔法の使えない僕が二学年になっているのだろう。あの校長先生、実は大雑把なのでは?
「ニーアさん同級生らしいですよ!!友達になっておきましょう!!ね!ユウ君さん!よろしくね!!」
ニーアが心底いやそうな顔をして、ユウもなんだこいつと言いたげな顔をする。おそらく、美人だが正確に難があり友達が少ないタイプの子なのだろう。真に輝いているのはゲンさんとアリアなのだと考える。
「友達の件はともかく、もうすぐお昼なので学食に行きませんか?もちろん、エノモトさんも一緒に。そこで仲良くなれるかどうか考えます。」
若干、目上からの物言いに腹が立った気もするが、お腹が空いたというのは同意見だ。異世界のご飯を食べたいし。そう言えば、昨日の夜から何も食べてないのでは・・・?ハッ!?
「ゲンさん。お腹空きました・・・。」
ゲンはユウの元気のない心の叫びに気付き、しまった、忘れてた、と顔に手を当て小声で口にした。
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連れてきてもらったのは朝に通った一般食堂ではなく、高等校舎の反対隣にある紫色の旗の立てられた建物だった。
「ここは我らが寮舎、コーヴァス寮さ!そして、他の寮と同様に一階にはその寮のための学食があるのさ!」
さすが小から大まで一貫の巨大学園だ。寮それぞれに学食があり、こんなでかい寮があるのか、というか城だろこれ。
圧巻されるユウ、目を輝かせるアリア、その反応を見て笑うゲン、無関心なニーアと反応はバラバラだ。そしてそのまま四人は一階の学食へと入っていった。
一般食堂と違い、中も見た目と同様、中世洋風な造りをしていて、まるでアニメのようだった。壁は主に石でできていて、いくつかの柱が立って二階のまで吹き抜けになっている。おそらく一階だけが学食で上は寮の広間になっているのだろう。外では人を見なかったが、ここはほんの少しだけ人影があるようだ。
「二人は学食は初めてだからね!僕がとっておきをおススメしてあげよう!!おばちゃん!らぁめんを4人分お願いしたい!」
「私は大盛りでお願いします。」
ゲンが学食の受付でおばちゃんにラーメンを頼む。そして、すかさずニーアが大盛りに変更する。
ラーメン。よく聞きなれた単語にびっくりする。異世界にきてもラーメンが食べられるのか。
「ら、らぁめんですか!あの、らぁめん食べれるんですか!?あたし、食べてみたかったんですよね!!」
らぁめん。ラーメン。アリアが目を輝かせ、とてもがっつく。自称世間知らずなアリアだからなのか、異世界ではやはりラーメンは希少なのかどっちなのだろう。
「そんなにラーメンって人気なんですか・・・?」
カウンターの奥で、おばちゃんがとても慣れた手付きで麵をゆで、食材を切っているのがわかる。
「そりゃあもちろんよ。らぁめんといったら王都でしか食べれないうえに、ここのらぁめんは格別だって有名なのよ?知らなかったの?」
ニーアに少しきつめに返される。すみません。と小さくつぶやく。知らないのはしょうがないことなのだ。もしかするとあまり食の体系は元の世界と変わっていないのだろうか。それはそれでなにかがっかりするが。
「あいよー、らぁめん三丁と大盛り一丁できたわよー。」
おばちゃんが二つのトレイの上にそれぞれラーメン四つをのっけて出してくれた。それをユウとゲンで持つ。ゲンのほうに大盛りがのっているのだが、それをみてユウが驚く。もやしのようなものが山のように積まれていて、大盛りの比ではない。ニーアは大食いなのだと完全に認識した。がらがらの学食では座るところを特に探さず、一番近くの四人席に座ることにした。ラーメン二丁でも結構重かった。
普通の飲食店と同じようにテーブルの端にある箱から箸をとって配る。異世界には箸もあるのか。
「あ、あたし箸使えないんだよね・・・。フォークお願い!」
アリアにそういわれてしまい、ユウは箸の代わりにフォークを渡す。ゲンとニーアは特に何もいわず受け取ったため、慣れとか出身地域の差なのだろうか、と思う。ニーアに関しては実は大盛りラーメンに阻まれて顔が見えないのだが。量がおかしい。
すると、ゲンとニーアが目を閉じて手を組む。アリアも遅れて目を閉じ、同じように手を組んだ。
「主よ。今日も迷える我らに生を与えてくださりありがとうございます。彼らの命を捧げます。いただきます。」
「「いただきます。」」
「いただきます・・・。」
ゲンが何かを唱え、アリアとニーアがいただきます、といい、ほんの少し遅れてユウもいただきます、といい、食事が始まった。
ぱっと見たようにはとくには異常性はなかったが、よくよく見てみると、食材が少し違う感じがする。なんの肉だろうか。麺だけは同じで、ラーメン全体の味としては、美味しいがほんの少しだけ物足りないレベルだろう。
「それで、午後はどうしようか。とりあえず回るところも回ったし・・・、僕とニーアさんは用事があるんだ。自由にしててもらってかまわないけど・・・、基礎魔術の勉強なら友達にお願いしておいてあげれるけど、どうしようか?」
「ああしも、おしえてあええうよ!!」
ゲンのユウに言った優しい言葉に、口に物を含みまくったアリアが反応する。ほんとに常識がないのかもしれない、とユウが思う。
「アリアさん、口に物を含んでるときに話すのはやめたほうがいいわ。」
と山盛り部分を既に平らにしたニーアが言う。いくらなんでも早すぎる。大食い早食いなのか・・・。
たしなめられたアリアは頑張ってごくりと飲み込み、
「アタシも、教えてあげれるよ!」
といい、午後からは魔術教室を行うことになった。
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食べ終わった後、ゲンが食べ終わった3人の食器を片付けてくれた。
とても美味しかったが、半分食べたくらいにはもう、ニーアが食べ終わっていて大食い早食い恐るべしだと感じていた。
そして、今もアリアはとても幸福そうな笑みでずっと食べ続けていた。なかなか減っていない。なんなら面がスープを吸って増えてるようにも見える。
「じゃあ僕たちは用事があるから、言ってしまうけれど、多分ここで待っていれば銀色の髪の子が教えに来てくれるはずだから!頑張ってね!!」
そういい、ゲンとニーアがどこかへ去っていった。
四人席で対面に座っているアリアの少し下手な食べっぷりをぼーっと眺める。お昼時だというのに人は少なく、いったい何のためにここまで広くなっているのだろう、と周りを一緒に眺めて思った。
「なんでこんなに人が少ないのか、知ってます?」
「そりゃ、春休み週間で、みんな実家に帰ってるからだよ!ここにいるのは別に帰る気の無い人とか、おうちが遠い人とかなんだってさー!」
今度はしっかりと飲み込んでからしゃべりだした。なるほど、そういうものなのか。あまり学校が好きではなかったユウには驚きの発見だ。というかほとんどの人は気づかないものなのではないだろうか。
「ところでー!なんで敬語なの!同級生ですよ!!お友達ですよ!!!」
再び周りを眺めながら考えていると、アリアが軽く怒ったように聞いてくる。たしかにアリアの言う通りだ。同級生であり、友達と言われたので敬語を使わなくてもいいのだが、果たしてこんなユウでもちゃんと喋れるのか、という強い懸念があった。
「あー、いや・・・、こういう性分だから、さ・・・。善処します・・・。」
目をそらしながら言う。色々ぶっ飛んでいるが、アリアもかなり可愛いの部類に入るはずなのだ。学園生活前からこんな奴にかまっていて虐められたりしないだろうか。とても心配である。そして心臓がもたない。なんで友達になれたんだろう。
「そっか!ならまぁ、許してあげましょう!!」
食べる手をとめてぷんすかしてたアリアは満足したような笑みで再び残りのラーメンを食べはじめた。なんだろうこの子。可愛い。調子が狂う。なんで元の世界にこういう子いなかったんでしょうか神さま。偏ってません?
「ごっちそうさまでした!おいしかったー!」
しっかりと吸われたスープまで完食して満足げな顔をしている。これはもしかしなくても満腹で動けないパターンなのでは、と思ってたらすっと立ち上がった。
「これ、どこに片付ければいいんだっけ・・・?ユウ君さんわかる・・・?」
確かゲンさんがあっちにいってたなぁと思いながら立ち上がる。偉いので教えてあげるのだ。
学食のカウンター横に持って行ってあげると、おばちゃんがありがとねぇ、と言ってくれた。
「ユウ君さん!ありがとね!!」
おばちゃんと同じことを、後ろからついてきてたアリアも言う。別に感謝されるほどのことでもないのだが、すこしはまぁ、嬉しい気分にはなる。
「ところで、なんでユウ君さんなんです?さんってわざわざいらなくない・・・?」
「あー!じゃ、じゃあユウ君ですね!アタシの方もアリアで呼び捨てでいい・・・って呼んでくれてましたっけ!?」
まずいことに気が付かれてしまって逃げ出したくなるが、この後の魔術教室(仮)のために機嫌を取っておかなければ。
「よ、よろしくね、アリア・・・さん。」
すると、それだけでアリアは満足してうんうんとうなずき、笑った。