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英雄への憧れ

「そうして、私達の町は壊滅したけど、その謎の零って男の人に多くの人が救われたの。もちろん、彼が来る前に死んでしまった人もいる。でも、その圧倒的な強さで全てのあの化け物を討伐したそうよ。

 実際、この町の人のほとんどは彼に助けられたって言っているし、町は零さんを称えて像を作ろうとしたくらいよ。まあ、町が壊滅してしまったおかげでそんなのを作る余裕はなくなってしまったけどね。」

 翔はエミリーの話を聞いて、思わず呆然と口を開けていた。


 彼女にそんな辛い出来事があったなんて知る由もなかった。どう言葉をかければいいんだろう。よく考えれば、誰かを慰めるなんてしたこともなかった。


「あっ、慰めるなんてしなくても大丈夫だからね?」


 僕が悩んでいると、エミリーは考えを見越したかのように言う。


「どうして?」

「あの時、お母さんは死んで、町は壊滅して、確かにすごく悲しかった。でも、お父さんに言われたことを思い出したの。「お前は絶対に悪くない。」って。今からして考えれば当たり前のことだし、お父さんは自分の思ったことを言っただけなのかもしれないけど、やっぱりちゃんと改めて言葉にして言われると、私のせいじゃない、って思えたんだ。だから、心配しなくても大丈夫だよ。」

「……。」


 翔はエミリーのいう事に少し違和感を覚えた。別に、エミリーのように嘘を見抜く魔術が使えるわけではないのだが、どうしても何かを隠しているように見えてしょうがなかった。


「まあ、そんなわけで、この町の人はその人に憧れて魔術師や騎士を目指す人が一気に増えたの。私も含めてね。」

「……ねえ、エミリー。本当にエミリーがその事件で感じたのは憧れだけなのか?」

「どういう意味?」


 先ほどの話で、彼女は、母親の死についてほとんど触れることはなかった。そう簡単に割り切れるようなことでもないはずだ。

 意識的になのか、それとも無意識なのかは分からないが、僕に何かを隠そうとしているように感じた。例えば、心のどこかで密かに自分を連れ去ろうとした男たちへの復讐を考えているとか……。


「それよりショー君。試合の時、私が毎朝木刀で素振りしていること、カルナ君に言ったでしょう。」

「えっ?……ああ、うん、確かに言ったけど。」

「ショー君、いつから私が素振りしていることに気づいてたの?」


 何だか無理やり話題をそらされた気がしたが、まあ無理に聞き出す必要もないか…。


「えっと……、エミリーと初めて会ってから三日くらいかな?」

「早すぎない?私、ショー君が起きる前にはもう終わってるはずなのに、どうして気づけたの?」

「手の豆だよ。その豆は少し素振りをしたくらいじゃできないでしょ?それに、家の庭に木刀は何本もあったし、そもそもエミリーは毎朝僕が起きる頃にはシャワーを浴びてるから何か運動をしていることはすぐに分かったよ。」


 それを聞くとエミリーは驚いた様子でじっと翔を見つめる。


「凄いね、学校の人は誰も気づかなかったのに。」

「?カルナは気づいていそうだったけど?」

「そうなの?」

「うん。僕がそれを言った時、あいつあんまり動揺していなかったし、むしろ「何を当たり前のことを言っているんだ。」、みたいな顔をしていたから。きっと、ずっと前からエミリーの努力に気付いていたんだと思うよ。」

「……ふーん、そっか。」


 エミリーは照れたように目を背けて長い髪をいじる。

 カルナの言動から考えると、エミリーは学校ではあまりいい印象を持たれてはいないんだろうな。そして、エミリーにとってはあまり居心地のいい場所ではなかった。だから、いつも僕に学校での出来事をあまり話してくれなかったのか。

 この様子だと、褒められることにも慣れていないみたいだ。


「……エミリー、さっき話してた男の人が、以前話していた魔剣士なのか?」

「うん、そうだよ。もっとも、あれが魔術だったのかさえ、私には認識できなかったけどね。」

「なら、僕もその人を目指してもいいかな。」

「どういうこと?」

「エミリーと一緒に魔剣士を目指したいってことだよ。多分だけど、その男の人を僕は見たことがある。」

「えっ、嘘……。」

 エミリーは驚きのあまり、唖然とする。

「あの人は今どこにいるの!?私、あの人に何のお礼も言えてなかったから…。」

「落ち着いてくれ。僕も見たことがあるってだけで、どこにいるのかまでは分からないよ。」


 エミリーの言う魔剣士はおそらく、夢の中によく出てくるあの男だろう。特徴から聞いても、あんな風貌の人はなかなかいないだろうし、刀の様子も似ていた。

 もしかしたら僕の勘違いかもしれないし、無駄なことかもしれない。でも、あいつを目指せば、何かが分かるかもしれない。あいつのいた、燃える世界のことが。

 

 ……いや、そんなものは建前だ。本当はただ単に真っ直ぐに何かを目指す学校のクラスメイト達の姿が少しうらやましかったのかもしれないな。


「まあ、僕にもその零って人には用があるから、これからは魔剣士を目指すよ。

 ……ってわけで、エミリー。」


 翔はエミリーの華奢な両肩に両手をのせる。


「ふえ?」


 突然の翔の行動に、エミリーは顔を真っ赤にしてしまう。ゴクリと生唾を飲み込み、懸命に恥ずかしさに耐えるが、身体が小刻みに震える。

 そして、エミリーはたまらず目をつむる。

 

「僕に剣を教えてくれ。」

「……うん?」

 

 目を開けると、翔はエミリーに向かって頭を下げていた。


「あっ……ああ、なるほどね。うん、そういうことか。

 もちろん、明日から一緒に練習しよっか。」

「ありがとう。助かるよ。」


(はあ……、ビックリした……。)


 エミリーの気苦労に全く気付かない翔であった。 

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