絶望の始まり
「何…これ……?」
何かの間違いだと思い、自分の目を擦ってもう一度見返す。しかし、目の光る紋様は消えることはなかった。
暗闇の中、蛍の光のように儚い光は不気味な空気を醸し出していた。
そして、その光は絶望の始まりを示していた。
月が雲に隠れ、辺りが闇に覆われる。
突如、家の窓が割れ、5人の黒ずくめの男たちが入ってきた。
エミリーは思わず腰を抜かす。
男たちの凍り付くような殺気を持った視線がこちらを向く。
「おい、本当にこいつなのか?王様が言っていたのは。」
「さあな。俺たちは命令通り、この少女を連れ去るだけだ。」
……なっ、何を言っているのこの人たち…?とにかく逃げないと……。
必死に逃げようとすると、脚に力が入らない。
恐怖で人はこんなにも動けなくなるのかと初めて知った。
「抵抗はするなよ。とは言っても、その様子ではそんなことをする余裕はないか。」
指先まで小刻みに震え、声の一つも出ない。
男の一人が強引にエミリーの手首をつかみ上げ、窓から連れ出そうとする。
怖い。誰か助けて、誰か、誰か……!!
「エミリー!!」
バンッという部屋の扉が勢いよく開く音とともに、母の姿が目に映った。
「お母さん!助けて!!」
声を絞り出し、手を伸ばす。だが、その手が母に届くことはなく、私は男たちに連れ去られた。
男たちは驚くほど身軽に、そして静かに家の屋根を駆け抜けていく。
エミリーは両腕ごと腰を抱えるようにしてがっちりと掴まれ、身動きが取れなくなっている。
「離してよ、家に帰して!」
エミリーはどうにかもがいて脱出を試みるが、相手は大人の男。女の、ましてや子供の力ではその抵抗は何の意味もなさない。
「大人しくしていろ。そうすれば傷つけはしない。」
こちらを見向きもせずに、男たちは仲間内で話を進める。
「しかし、王様のいう事はよく当たるもんだな。一体、どんな魔術を使っているんだか。」
「無駄口を叩くな。そんなことよりも、さっさと足を動かせ。今回は楽に侵入できたが、この国にはまともに戦えば厄介な奴が山ほどいる。
そいつらに見つかる前にさっさとずらかるぞ。」
「へいへい、分かってますよ。」
速い。このままじゃ、すぐに町を抜けてしまう。そうなったら、誰も追いつけない。
勇気を振り絞り、声を張り上げようとすると、エミリーを抱えていた男が口に布を突っ込んだ。
「大人しくしていろと言ったろう、ガキが。殺すことは禁じられているが、別に腕をもぐくらいはしてやってもいいんだぞ?」
男は突き刺すような殺気をエミリーに向ける。
「おおー怖い怖い、だが、隊長の言うとおりだ。じっとしておいた方が自分の身のためだぜ?お嬢ちゃん。
うちの隊長はそういう事に一切躊躇がないからな。一度は見逃しても、二度目はないぜ。」
その言葉に嘘はない。
状況が完全に把握できたわけではないが、そのことだけはすんなりと頭に入ってきた。
視界が潤む。私に出来ることは何もない。
「止まれ!」
エミリーを抱えていた男が仲間に叫ぶ。男たちは一斉に足を止め、目の前を睨みつける。
「俺の娘をさらって、一体どこへ連れていくつもりだ?ガキども。」
低く、空気を震わせる重い声。
「お父さん!!」
そこには、見たこともない形の刀を持った、父の姿があった。




