魔眼の開花
エミリーはゆったりと腰を下ろし、淡々と話しだす。
10年前、彼女は嘘を見抜く魔術の才能を開花させた。
その人がどのような魔術を使う事に長けているのかは、個人差はあるが大体10歳になるまでに分かる。その時期に体内に保持できる魔力量と魔素量が急激に増え、発動しやすい魔術が勝手に暴発することがあるからだ。
通常、6歳から10歳までの子供にはその暴発があるため、それを周囲に危害が加わらないように魔術を吸収する特殊な機械を腕に装着する。これは魔力を吸着させ、魔素の暴走に反応して埋め込まれたランプが光り出す。つまり、魔術が使えるようになったかどうかを知らせてくれるのだ。
そして、これはエミリーも例外ではない。彼女も普通の子供たちと同じように、腕輪型の機械を身に着け、普通の生活を送っていた。
だが、エミリーの才能の開花は普通の人生を送るはずだった彼女の運命を破滅させる形で訪れた。
「お父さん、お外で遊んできてもいい?」
仕事場にひょっこりと顔をのぞかせて声をかけた。
「キーン、キーン」と鉄を打つたび火花が飛び散り、綺麗な音が聞こえてくる。鉄は真っ赤に光り、熱気が離れた場所にいるエミリーまで伝わる。
「ああ、暗くなる前には戻るんだぞ。」
レイガスは汗をぬぐいながら、答える。
父は有名な鍛冶師だ。一日に何件もの依頼が来るから、忙しいのは当然。それでも……
「お父さんと一緒がよかったな……。」
「すまん、何か言ったか?」
「何でもない、行ってきます!」
エミリーはにっこりと笑って扉を閉めた。
「ただいま。」
玄関から少しくたびれた声で母の声が聞こえてくる。
「あっ、お母さん!」
エミリーは大喜びで母の体に抱きつく。
エミリーと同じ銀髪に青い瞳。目は切れ長ではあったが、優しい眼差しを持っている。
「どこかに行くの?」
「うんうん、お母さんといる!」
「ふふっ、分かったわ。お母さん、ちょっと着替えてくるから、待っててね。」
そう言ってエミリーを抱きしめ、奥の部屋へと向かう。
エミリーはこの頃、親との時間を大切にするようになった。以前も両親と過ごす時間が楽しかったのは変わらない。でも、自分と同じくらいの子供が母と仲良さそうに遊んでいるのを見て、少しうらやましく思ったのだ。
だが、母は体が少し病弱気味だった。元々そうだったが、最近は特にひどい。仕事をしていられるのもそう長くはなく、無理に外に連れ出すことはできなかった。
「今日は久しぶりに一緒に外に遊びに行く?」
母の言葉にエミリーは目を輝かせる。
「本当!?」
「ええ。今日は少し体の調子がいいの。」
その時だった。エミリーは自分の胸に痛みを感じた。
悲しみの混じった、優しい痛み。
なぜそんな感覚に陥ったのかは分からない。でも、一つだけ確実に言えることがあった。
これは母の痛みだ。今、お母さんは嘘をついている。
私を傷つけるためではなく、私を傷つけないための嘘。
「……ごめん、やっぱりいい。」
「あら?珍しいわね、普段なら喜んで行くのに。」
「いいから、構わないでよ!!」
気づいた時にはもう声を荒げて怒鳴っていた。。
お母さんが自分に気を使ってくれていることは嬉しい。ただ、私がいつから無理をさせていたのかが分からなくなった。
もしかしたら、私はお母さんに無理をしてほしくないと思っていても、無理をさせてしまったのかもしれない。
そう考えると、無知な自分に腹が立った。
エミリーは涙ぐんだ顔をうつむけて隠し、自分の部屋に閉じこもった。
頭が痛い。
母から痛みを感じてから、周囲のあちこちから人の嘘が手に取るようにわかる。そして、嘘だと分かるたび、胸を刺されるような痛みを感じる。
頭がおかしくなりそうだ。自分以外の誰もいなければいいとさえ思ってしまう。
次の日、私は学校を休み、自分の部屋で布団をかぶって一日中うずくまっていた。それほどまでに精神的に参ってしまう。
頭痛がかなりマシになってきた頃には、外はすでに暗くなっていた。
重くなった手足を動かし、むくりと起き上がる。
何だろう?目の奥が少し熱い。
部屋の壁にある鏡を何気なく覗いた時、一瞬息を忘れた。
そこには、見たことのない紋様を浮かべて緑色に淡く光る、二つの瞳があった。




