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10年前

 試合が終わり、訓練所の出口に向かうと、エミリーが迎えに来てくれていた。


「お疲れさま。すごかったよ。ナイスファイト。」

「ありがとう。」


 タオルを受け取り、汗をぬぐう。


「少しいいか?」


 カルナがエミリーに話しかける。


「悪かったな。色々と暴言を吐いちまって。」

 カルナは深々と頭を下げる。

「大丈夫だよ。慣れているもの。」

「そうか。お詫びに今度、うちの菓子でも持ってきてやるよ。」

「うん、ありがとう。」


 カルナの様子は試合前よりも友好的に見える。

 エミリーもあの時は少し辛そうだったが、今はもう大丈夫そうだ。


「それにしても、すごい試合だったね。カルナの圧勝かと思ってたのに、ショー君逆転しちゃうんだもん。」

「まぐれみたいなものだけどね。」

「まぐれでもすごいよ。それに、私の木刀をすごいスピードで投げたでしょう?」

「私の木刀?違う刀に変わっていなかった?」

「? 何の話?」


 カルナの方を見ても、エミリーと同じように首をかしげている。

 どういうことだ?あの時確かに木刀は魔玉刀に変化していた。入れ替わっていたといった方がいいかもしれない。

 それなのに、二人は僕が使っていたのはずっと木刀だと思っている。ただ単に見ていなかったなんてことは考えにくい。なら、僕だけに見えていたのか?


「また寝れば分かるかもな……。」

「ショー君?何か言った?」

「いや、何でもない。帰ろう。」

「うん。」


 たぶん、眠ればまたあの世界に行ける。その時、あの男に聞いてみるとするか。

 


 帰り道、カルナと分かれ、翔とエミリーは公園の近くを歩いていると、そこで遊ぶ子供たちを見かけた。ただの短い木の枝を持って、魔術師ごっこのような遊びをしているようにも見える。


「エミリー。一つ、気になっていたことがあるんだけど。」

「どうしたの?」

「エミリーはどうして魔術師になりたいんだ?」


 エミリーは少し顔をうつむける。


「どうして、気になったの?」

「僕の知る限り、魔術師はとても危険な仕事だと思う。それこそ、命を懸けてしまうような。

 でも、学校にいるクラスメイトも子供たちもその職業にあこがれを抱いている。少し失礼な言い方かもしれないけど、僕からしてみれば、これは異常だ。」


 エミリーは少し落ち込んだような顔をする。


「ごめん、言いすぎた。」

「うんうん、ショー君がそう思うのは当然だと思う。」


 話している間に二人は家に到着する。


「家で説明するわ。少しは納得できると思うし。」


 翔の頭にはいくつかの疑問が浮かんだが、まずはエミリーの話を聞くことにした。



 エミリーは家に帰ると私室に行き、ある資料を持ってきた。


「これは?」

「10年前に起きた事件のことが書かれている記事だよ。この町のほとんどの人はその事件に巻き込まれているの。私も含めてね。」


 それを聞き、翔は急いでその記事を読み込んだ。


 その事件の概要はひどいものだった。

 平和だった町が一晩にして火の海へと変わるほどの大規模なテロ。凶器に満ちた集団が女も子供も関係なしに次から次へと魔術を使って殺していく。

 軍が動いても、そう簡単に鎮圧できるものではなく、たった1週間で建国以来、史上最大の内戦といわれるものとなった。


「その内戦は結局、軍のある英雄によって収められたとなっているけど、本当は違うと思うの。」

「どういう意味だ?」

「私もその事件に巻き込まれたって言ったでしょう?私は家の隅に縮こまって隠れていたんだけど、見つかって拉致されそうになったの。」

「拉致って…、10年前っていったら、君はまだ5歳くらいだろう?」


 エミリーの目が曇る。


「あっ、ごめん。話しづらかったらいいんだ。」

「ううん、大丈夫。気を使ってくれてありがとう。」


 エミリーはお茶をいれながら話し始める。


「公にはされていないけどね、そのテロの原因は私なの。」

「えっ……。」

 

 僕は一瞬、思考が停止した。エミリーが原因?そんなことがありえるのか?


 エミリーは机に座り、感情をこめないように淡々とその事件の全貌を話し始めた。

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