全方位開放
身体の奥に流れる熱を外へ引き出し、魔素を体外へと放出する。
すると、どういうわけか、放たれた魔術は動きを止め、僕のものとなる。
学校で授業を受け、魔術がそれなりにどういうものなのかは分かってきた。だが、未だにこの原理が分からない。
魔術は自身の周囲1メートルほどでしか発生させることはできないが、発生した後の操作はかなり自由度が高い。それこそ、鍛錬を続けた魔術師は何十キロという距離からでも狙撃という形で対象に攻撃することが可能だ。
だからこそ、この男の言っていたことが本当だとして、相手の魔術の操作権までもが消滅することの説明がつかない。
そして今、目の前の光景を見て新たな疑問が生まれた。
翔の手のひらで揺らめき燃える火は魔術によるものではない。これはつまり、僕が魔術を受け止める力がある、というのは正しい表現ではないことを現している。
「ようやく分かったようだな。お前の能力は魔術を受け止めるなんて言う大層なものではない。お前の魔素の特性は別のものだ。」
「魔素の特性?」
「エミリーが言っていただろう、魔素には人それぞれに特性がある。大抵は火、水、雷、風、土の5大属性の内のどれかだがな。
だが、魔素っていうのは別に特性があるからといって、他のものに変換できないわけではない。火の特性があっても雷に変換することはできる。ただ、その特性に合った魔術でない場合は必要な魔力量が倍以上になるだけの話だ。
まあ、一度聞いただけじゃ分からないだろうがな。そのうち理解できるようになるさ。」
男はそう言って剣を構えなおす。
魔素の特性。大まかには理解できた。要は向き不向きがあるという事だ。
問題は魔素をどう使うかだ。この男の攻撃は不可避だ。速さでも技でも力でも何一つ勝てるものが見つからない。
……不可避?
そういえば、カルナの攻撃も同じだ。奴の攻撃は全方位からの攻撃。攻撃の原理は分からないというわけではないが、この男とカルナの二人の攻撃は「不可避」という点で同じだ。
不可避の攻撃に対応する技術。それが身に着けられれば、カルナとも勝負ができる。
あいつの剣もカルナの魔術も防げない。
だったら……
「攻めるしかないな!」
魔素を全開で放出する。
ただし、全身から。
手のひらだけでなく、指先、胸、腹、背中、脚、力を籠められる部位からなら、魔素を放出することはできる。
体の熱がかなりの勢いで奪われていくのを感じる。手のひらの炎はすでに全身を包み込み、視界が赤く揺らめく。
その様子を見て、男は笑みをこぼす。
「走法、≪刹那≫+刀義、≪影抜き≫。止められるものなら止めてみろ。」
男は先ほどと同じ構えで翔の方へ一直線に突っ込んできた。
動きは速くて遅い。
かなりのスピードであるにも関わらず、動きがはっきりと見え、自分の体が指先まで思い通りにコントロールできるような感覚になる。
こいつの剣の間合いの外で尚且つ僕が纏っている炎がギリギリ届く距離を見極める。
ふと、男の姿が消える。
先ほどと同じだ。だが、決して存在自体が消えたわけではなく、僕の死角にいることをもう知っている。ならば、視覚だけでなく聴覚も集中すればいい。
目を閉じて視界をなくし、音に意識を集中する。あの男の地面を踏む音、風を切る音、服の擦れる音、聞き逃すことは許されない。
……今だ!!
男が間合いに入った瞬間、翔は魔素の放出の勢いを全開にし、自分を中心とした、熱く、巨大な炎のドームを作り上げた。
それを保てるのはほんの一瞬。だが、十分だ。
ドームが消えると、周囲の瓦礫の中にある建物の木材などは真っ黒に焦げている。
翔は膝をついて四つん這いになり、肩で息をする。
視界は暗く、震えが止まらない。
……ザッ
足音がした。
「大した威力だ。これなら、元の世界に戻しても大丈夫だろう。」
男はそう言って翔を片手で持ち上げる。力が入らず、抵抗できない。
「まったく、手のかかる子だ。俺が手を貸せるのはここまでだ。やるべきことをやって来い。」
その男に放り投げられ、翔は何かに引き寄せられるような感覚を感じ、意識がとんだ。
「……さて、俺も、俺のやるべきことをやらないとな。」
ビキビキと空に黒い亀裂が入る。
「さて、勝負しようか。言っておくが、ただで逃げられるとは思うなよ?お前ら。」




