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試合②

 試合開始の掛け声が聞こえると同時に僕はカルナを目掛けて全力で走り出だす。


 カルナは少し驚いたように目を見開いたが、すぐに冷静さを取り戻し、杖先を自身の正面に弧を描くようにして動かす。


「≪雷槍(ライトニングランス)≫」


 カルナがその言葉を言うとバリバリと大きな音を立て、描いた弧の軌道上に6本の雷の槍が姿を現した。

 想定外だ。4本同時に打ち出されたりしたら、この距離では反応しきれない……!


 翔は急ブレーキをかけ、後ろに飛びのく。


「≪発射(ブラスト)≫。」


 雷の槍は同時に翔に向かって真っすぐに向かっていく。

 

 翔は木刀を捨て、両手に熱を灯し、体を思いっきりひねって4本のうちの4本をギリギリで躱し、残りの2本を受け止めた。

 受け止められた2本の槍は形を崩し、音も小さくなっていく。両手の熱を抜くとそれは完全に消失した。


「なるほど、火だけを受け止められるってわけじゃないようだな。」


 カルナはそう言うと、また杖先で弧を描いて4本の雷の槍を作り出す。


「≪雷槍(ライトニングランス)発射(ブラスト)≫。」


 さっきと全く同じ攻撃?雷の槍自体は速さはそれほどじゃない。これ以上数が増えると話は変わってくるが、全く同じタイミングというわけでもないし、この程度なら……。


 翔はまた同じように両手に熱を込め、魔素を放出して身構える。


 だが、その姿勢はあっという間に崩された。

 左肩に衝撃が走り、翔は膝から崩れ落ちる。


「ぐっ……!!」


 上から?いったいどうやって? 

 そんな疑問が頭をよぎるうちに雷の槍が翔の腹と右足を貫く。2本は体勢が崩れたおかげで命中はしなかった。だが、残りの2本で翔はすでに立つことすらままならないほどの激痛を味わっていた。


「おい。テメェまさか、魔術を使った戦い(ケンカ)で俺に勝てるなんて思ってねーよな?」


 カルナは今度は4本の雷の槍を現す。


「お前はこの学校に来てまだ一か月もたっていないが、俺は半年ここにいる。それ以前からもずっと魔術の修行をしてきたし、目標のために努力を積み重ねてきた。

 お前が今までどこで何をしていたのか、俺には分からないし、知ろうとも思わねぇ。だが、これだけは言える。俺はお前よりも真剣に努力をしてるぜ。」


 胸に刺さった。自分の身の安全のためにこの学校に入った僕と違い、目標のために努力を積み重ねてここへ来たという事実を知り、自分の考えの浅はかさを恥じた。

 少し調子に乗っていたのかもしれない。こちらの世界に来て、自分を認めてくれる人と出会い、もしかしたら自分にも何か特別な力が宿っているんじゃないかと心のどこかで思っていた。


 何の努力もしていないような奴がこの試合で勝とうだなんておこがましいのだろう。ただ、それでも……。


「お前の言うとおりだ。確かに僕は努力していないし、お前に勝つことなんてできないかもしれない。でも、エミリーを侮辱したことだけは撤回してもらう!

 エミリーは毎日木刀を振り続けてる。彼女のボロボロの手を見れば、人の何倍も努力しているのはすぐに分かるんだよ!」

 翔は木刀を拾い上げ、立ち上がる。

「あの時いった事を撤回するまで、僕は倒れない。」


 そういった翔に対してカルナは鼻で笑って馬鹿にしたように言う。

「何を言い出すかと思えば…。あいつには何のセンスのかけらもない。努力っていうのはそれに少しでも向いてるやつがするものだ。あいつがどれだけ努力したって何の意味もねぇよ!」

「この野郎…!!絶対一泡吹かせてやる!」


 雷の槍の形が細く変形し、音が大きくなってゆく。

 

 ———バチッ


 火花が散ったような音がしたかと思うと、槍が先ほどの倍の速さで突っ込んできた。頬をかすめはしたものの、僕は寸でのところで回避する。


「よく避けたな。だが、次は当てるぞ。」


 カルナはニヤリと口元を綻ばせる。

 まずい。手も足も出ない。残る槍の数は3本。再充填までには数秒の時間があった。つまり、あの3本の槍をどうにかして躱して、その隙をつけば、距離は詰められる。

 

 だが、それはあくまで3本躱せればの話だ。問題はどうやって躱すかだ。

 それに一度受けたあの上からの攻撃の種もまだ割れていない。 


 狙いを決め、翔がカルナの動きに集中する。どんな些細な初動も見逃さすまいと目を見開ける。

 

 一方のカルナは雷の槍のうちの1本の槍先を上へと向け、斜め上へと打ち上げる。槍は放物線を描き、こちらへと向かってくる。


 そうか、さっきは僕が雷の槍に気を奪われている間に上へと打ち上げ、僕の死角から攻撃したのか。だったら上からくる槍のタイミングを合わせて回避すれば…


 ……いや、そうじゃない。なぜさっきと同じようにせずにわざわざ()()()()()()

 見せられるまで攻撃が上から来たタネは分からなかった。また同じようにすれば攻撃は命中したかもしれないのになぜ?


 そんな疑問を抱いたとき、ふとカルナの視線が()()()()()()()に向いた気がした。

 後ろ?気にはなるが、カルナから目を離すわけにはいかない。目を離せば、まず間違いなくその隙をつかれて負けが確定する。

 ならば、音を聞く。後ろからの音は聞こえづらいが、かすかに雷の槍と同じ音がした。まさか…!


 ゾッとして後ろを振り向くと、先ほど放たれた雷の槍がこちらに矛先を向けていた。


 そうか、雷の槍を上に打ち上げたのは僕が攻撃の仕掛けを理解したと思わせ、油断させるため。そして、その状態の僕を後ろから不意を突いて倒す。これがカルナの狙いだ。


「よく気づいたな。だが、気づいたところで手遅れだぜ?」


 カルナが愉快そうに話す。

 実際、その通りだ。確かに気づかなければ後ろからの槍に無防備な状態で貫かれていたのは確かだ。

 だが、正面、頭上、背面の三方向からの同時に攻撃されれば、防ぐ手立てはない。


「同時攻撃だ。見たところ、お前が魔術を受け止められるのは手のひらだけ。二本の手で三方向から同時に来る魔術を受け止められるものなら受け止めてみろ!!」


 カルナがそう言って、雷の槍は同時にこちらに向かってくる。


 躱せるか?無理だ。一度放った魔術を後ろから打ち出そうとしているんだ。多少の軌道変更はできるはずだ。それに、全力で走っていたんじゃ魔術を受け止める余力はない。


 ダメだ、負け……


 目の前が真っ白になり、何も考えられなくなる。



 何も見えない。何も聞こえない。目は開いているのに、何も見えない。


 そして、気が付けば、そこは霧に包まれた戦場だった。

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