試合①
自分の思うように動いた。後悔はない。ないのだが、まさかこんなことになるとは思わなかった。
翔は家に帰ると、居間でエミリーに正座をさせられ、説教を受けていた。
「ちょっと聞いてるのショー君!」
「あっ、はい!ちゃんと聞いてます!」
こんなに怒っているエミリーを見るのは久々だ。
「確かにあんなことを言われて私は辛かったし、ショー君があの時怒ってくれたのは正直に言うと嬉しかったよ?でも、暴力をこっちが先に振るのはダメだよ!私たちは言葉で傷つけられただけで証拠はないけど、向こうには自分のことを証拠に挙げることが出来る。もしもどちらかが退学処分っていう事になったら、その処分を受けるのは私たちなんだよ?」
エミリーはそう言って怒っていながらも少ししょんぼりとした顔をする。
全くその通りだ。自分でいうのもなんだが、そんなことも考えられないなんて冷静ではなかった。最近妙に調子が狂う。やはりあの夢のせいだろうか?
なんにせよ、やってしまったことは仕方ない。素直に謝ろう。
「ごめん、エミリー。でも、あのまま言いたい放題にするのはどうしても許せなかったんだ。」
翔が顔をうつむけると、エミリーはあきれたようにため息をつく。
「分かったわ。ショー君の考えは理解できるし、私も尊重したい。けど、肝心の試合の方はどうなの?ショー君って試合自体はルールどころか見たこともないでしょう?」
その通りだ。学校では教師の許可をもらい、立ち合いをしてもらえれば生徒同士で試合をすることが出来る。
だが、僕が知っているのはそれだけだ。ルールも知らないし、どうやって競うのかも知らない。
「しょうがない、今から私が教えるからよく聞いて。
試合のルールは簡単に言えば、魔術の打ち合いよ。制限時間は5分。場所は訓練所で行われる。その時には結界が張られるから、外のことは気にしなくても大丈夫よ。制限時間内に魔術を行使してどれだけ相手に深手を負わせられるか、もしくはどちらかが降参するかで勝敗が決まるわ。魔術師同士の戦いは基本的には相手の魔術を防ぐか避けるかしながら、相手に攻撃を当てるっていう感じになるわね。」
「深手って……。そんなに危険なことをして、大丈夫なのか?」
「心配しなくても大丈夫。先生が始まる前に防御魔術を全身にかけてくれるのよ。痛みは通るけど、重症になるような攻撃自体は通らない。でも、戦うときには防御魔術はないと思った方がいいよ。
怪我はしないけどそれだけだから、電撃とかを食らうと痺れてすごく痛いしね。ああ、それと防御の魔術の損耗率も試合の勝敗に関わるから、注意してね。
ざっくりと説明したけど、何か質問はある?」
イメージとしては銃撃戦のような感じか。怪我が心配だったが、重症にならないのなら少しは安心できる。
魔術の種類は大まかに分けて4つ。攻撃・防御・付与・その他の特殊な魔術だ。魔術に関してはまだまだ分からないことは多いが、ハッキリとしていることが一つある。
それは、僕が攻撃の魔術を受け止める力があるということだ。つまり、明日の試合ではカルナが打ち出してくる魔術をひたすら受け止めれば、勝つことは出来なくとも負けはしない。
……いや、性格にはこちらからの攻撃はできる。竜と対峙したあの時のように、魔素を全力で体外に放出すれば、遠距離からの攻撃ができる。
だが、それは腕を犠牲にするならの話だ。右腕の火傷は治ってはいるが、シワシワと皮が薄くなり、弱弱しい見た目になっている。あの時の痛みは軽いトラウマになってしまっているし、出来れば二度とごめんだ。
となると、攻撃手段は物理的な攻撃。つまり、殴る、蹴るといったものになるが、そもそも魔術を使っている相手に近づけるかどうかが問題だ。僕は攻撃魔術しか見たことはないが、もしも身体能力を向上させるような能力があった場合、こちらの攻撃が当たることはない。
要するに、この試合は負けないことが僕にとっての勝利となる。
その場の勢いで返事をしてしまったが、やはりそう簡単に受けるべきではなかったな。
「そういえば、エミリーは試合をしたことはあるの?」
「私は1度しかやったことはないよ。何度か申し込まれたこともあるけど、試合は両者の同意が得られないとできないからね。
ちなみに一度やった時は本当にぼろ負けしちゃったんだ。魔術がまともに使えないから当たり前なんだけど。それで、私は剣の稽古をして、攻撃手段を確保しようとしたんだけど、そもそも剣を使うなら相手に近づかなきゃいけないし、私には無理だった。」
明るい声で言っているが、その顔はどこか悲しい感情が渦巻いているようだった。
「エミリー。いつも持っているあの木刀、明日の試合で使ってもいいかな?」




