生徒会②
その日の放課後、僕はいつも通りエミリーと帰宅していた。
他愛ない会話をし、校門のすぐ近くに来た時だった。
「おい、ちょっと待て。」
急に肩を掴んで呼び止められる。振り向くと、そこには黄色い瞳を持ったクラスメイトが立っていた。
背は翔より少し高い。髪は赤く、色黒の肌で目が吊り上がっており、機嫌が悪そうに見える。自身の腕ほどの長さの杖を片手で持ち、肩に担いでいる。
「えっと、確か……」
「カルナ君だよ。」
エミリーが小声で名を教えてくれる。
「ああ、そうだ。それで、何か用かな?」
「…っ!何か用だと?ふざけてんのか!」
いつも通りの口調で質問をしたのだが、彼にはそれが挑発のように聞こえたらしく、声を荒げる。
それに驚いた周りの生徒がざわざわとこちらを興味深く見ている。こういう状況は見せ物にされているようで気分が悪い。
「すこし落ち着いてくれ。僕が何かしたか?」
「この野郎…!自覚がないのなら教えてやる。テメェがここに通い始めた二日目だ。なんでお前は授業を受けなかった?」
二日目?ああ、魔術の授業があった日か。先生が出来るはずもないのに魔術をさせるとか言い出したから、抜け出したんだったな。
でも、あれはエミリーや先生の作戦だったわけだし……ってあれ?そんな作戦あるのか?
あの時、僕は自分で考えて授業を抜け出す判断をした。その思考を読んだってことか?
理解が追いつかず、少し恐怖を覚える。
考え込んでいると、カルナがイラついた口調でまた話し出す。
「この学校は魔術をより深く知りたいと思ったやつが来てる。通いたくても通えない奴だっているんだよ。それなのにテメェは試験も受けず、おまけに授業もすぐに抜け出して、その癖悪びれもなく平然としてやがる。ふざけてんじゃねぇぞ!?」
ああ、しまった。ここは学校だった。周りの奴の事をもっとしっかりと考えなきゃいけなかったのか。
まあ、そういう事が苦手だったから僕はよくいじめられていたわけだけど。
翔は向き直ると、頭を下げる。
「ああ、確かにそうだな。僕が悪かった。謝るよ。でも、それならどうして授業を抜け出したその日じゃなく、今日声をかけたんだ?」
「それだけならまだ何とか許せたさ。だがテメェ、今度は生徒会に勧誘されたんだろう?実力を俺に見せてみろよ。」
「……は?」
急に何を言っているんだ?生徒会に勧誘されたから実力を見る?過程と結論が滅茶苦茶な気がするんだが…。
その時、ふとエミリーの言っていたことを思い出す。
「生徒会は序列の高いものがよく選ばれる。」
その時は聞き流していたが、そういえば僕はもうこの学校の序列に組み込まれているのか?確か訓練や大会で決められるんだったよな…。
「生徒会に入ると成績表に反映されて就職するときに有利になる。生徒会だって序列がある程度高くないと務まらないから、入りたくても入れない奴は多い。
お前はどうだ?ここに編入してきたばかりだ。どうせ序列外だろう?なのにどうしてテメェみたいなやつがそんな権利を持ってんだ?」
なるほど、そういう事だったのか。どこで勧誘されたことを知ったのかは分からないが、確かにそれならこの反応も理解できる。
実際、僕はこの学校には何の目的もなく、ただ単に自分の身の安全のために編入した。そんな奴が生徒会に入るなんて、納得する方が難しいか。
翔はカルナの言ったことに納得をし、素直に謝ろうとした。だが、カルナは機関銃のようにしゃべり続ける。
「それに、エミリー。なんでお前もこんな奴につるんでんだ?普通の魔術も使えず、とうとう頭がおかしくなっちまったか?」
待て、落ち着け。多分向こうはあまり考えずにものを言ってる。ここで切れたら事態が面倒なことになる。
うつむくエミリーにかまわず、カルナは暴言を吐き続ける。
「それになんだよ、その木刀は。刀と魔術を同時に使うのは魔術を完璧にコントロール出来るようになってからだろうが。魔術師になりたいくせにお前は一体何を血迷ってんだ?」
「おい…!!」
頭の中で何かがプツンと切れた音がした。その瞬間、翔は自分でも認識できない速さで、カルナの首を左手で締め上げ、近くの塀に押し付ける。
「ぐっ…!?」
カルナが苦しそうな声を漏らす。
「言わせておけばペラペラと調子に乗りやがって…!!エミリーは関係ないだろうが!」
ギリギリと絞める力を強めていく。
「翔君止めて!私は大丈夫だから…。」
その声は震えていた。エミリーの目に紋様が浮かんでいない。こいつの言ったことが嘘ではなかった証拠だ。
翔はギリッと歯ぎしりをして、カルナを離す。
「明日の放課後、室内の訓練所で試合をしようか。楽に負けられると思うなよ?」
苦しそうに咳き込むカルナに、翔は一方的に言い放つ。
睨みつけるカルナの視線を無視し、翔はその場を立ち去った。




