能力②
翔がマリアに連れられて訪れたのは、室内の訓練施設だった。
四方を透き通ったガラスのようなもので囲まれており、中には障害物などは一切ない。靴で床をけると、キュッキュッと高い音が鳴り、学校の体育館を思い出す。
「ここは訓練所ですよね?外の訓練所とはどう違うんですか?」
「違いはあまりないけれど、こっちの方が治療室が近いわ。何かあったらすぐに治療を受けられるし、おススメよ。」
治療って……。いったい今から何をされるんだ?
何となく嫌な予感がする。
「さて、さっそくだけど、竜と対峙したときのことは覚えてるよね。その時にあなたがしたことを今やってみて。」
「僕がしたこと?」
マリアはポケットから小さな棒状の機械を取り出す。両端がとがっていて上を向いており、先端には赤い宝石がついている。
マリアが機械を持っていた手にぎゅっと力を籠めると、機械は両端が長く伸び、翔の周りを取り囲むように画面が映し出された。
「これは?」
「これがビジョンよ。見るのは初めて?」
「はい…、そうか、これが。」
エミリーから話には聞いていたが、こんなに小さいものだとは思わなかった。いや、驚いたのはその小ささよりも、空気中に映し出されたこの画面だ。
最近では映画などで3Dがあるし、何かが飛び出しているように見えるぐらいでは驚かない。
けど、これはそんなレベルではない。こちらの方が画面に飛び込んだといっても信じてしまいそうなほどに立体だ。
あっけにとられていると、大きく形状を変化させたビジョンを操作して、マリアは翔が竜と対峙していた時の映像を映し出した。
竜は鎌首をもたげ、牙の隙間からは炎の光が漏れ出ている。
一方で、そこには僕の姿もあった。よく見ると口元が動いていて、何かを呟いているように見える。こんなことをしていた覚えはない。どういうことだ?
竜が大口を開け、翔に向かって炎を放射する。よく見ると、所々で青い火も混じっている。火はあっという間に翔を周りの建物ごと飲み込む。
わずか5秒。たったそれだけの時間で、焼かれたものは見る影もなく黒焦げになっている。翔を除いて。
あの時は僕の視界から見ると、竜の炎を全て受け止めたように見えていたが、実際には自分のところに来た一部しか受け切れていなかったのか。
「この時と同じことはできるかしら。」
「まあ、何とか。」
「なら、それをやってみて。」
彼女の意図はあまり分からなかったが、ひとまず言うとおりにやってみることにする。
右手に意識を集中する。体の熱を手に集める感覚。ピリピリと腕がしびれ、手のひらは熱く、腕は冷たくなっていく。手のひらからは微風が渦を巻き起こしている。
「それで、ここから何かするんですか?ハッキリ言って、ここからは何もできないですけど。」
そう言って彼女の方を見ると、杖を取り出している。30センチほどの長さで、他の人が持っているものよりはかなり短い。
「じゃあ、今から火を打つので、あなたはその状態で受け止めてみてください。」
「え?」
彼女の言った意味をしっかりと理解しないうちに、杖の先には火の玉が現れる。彼女の杖の動きに合わせ、宙に浮いた火はゆらゆらと揺れ動く。
杖はこちらに向けられ、背中に悪寒が走る。まさか…。
「『発射』。」
それが呟かれると、火の玉は楕円形に形を変え、こちらに猛スピードで突っ込んできた。
僕はとっさに右手を前に突き出し、目をつむる。
バシュッっという音とともに、手のひらに熱さを感じる。目を開けると、その手には火が灯っていた。
「これは…?」
あの時と同じだ。今まで何度やっても駄目だったのに。
「あなたも薄々気づいていたでしょう?自身では火種を生み出すことはできないと。
でも、魔術を受け止め、その手で魔術を持つ能力がある。どういう理屈かは分かりません。
ただ、確実に言えることは、これは魔術師にとっては脅威になる。魔術が通じないのですから。
この学校では強力な魔術が教えられますが、その反面、魔術という強力な武器に酔いしれた者たちが事件を起こすことがあります。生徒会の仕事にはそのような者たちを捕縛し、事態を収束させることも含まれています。
あなたのその能力は強力な魔術を使う事に酔いしれた輩に対し、有効的です。ですから、生徒会は貴方を歓迎したいのです。」
僕が熱の放出を止めると、炎は風で吹かれたように消える。
こういう目には弱いが、事が事だ。この学校に通うと決まった時はそれ以外に選択肢がなかったが、今回は強制というわけではない。そう簡単には頷けない。
「……僕の能力を教えてもらった事には感謝しますが、生徒会に入るかどうかは話が別です。少し考える時間をください。三日後までには返事をします。」
翔はそう言うと、訓練所を後にした。




