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優しさ①

「その後、僕は一人暮らしをし始めました。当然親は反対しましたが、無理やり押しとおりました。年齢を偽ればアルバイトで金を稼ぐことも出来ました。

 一人暮らしは何かと大変ではありましたが、僕に考える時間をくれました。彼女のいう優しさとは何か。

 結局ハッキリとした答えは出ませんでしたが、自分がどのような人間なのかは嫌というほど思い知りました。」


 

 すべてを話し終えた。ここまで自分の過去をさらけ出したのは初めてだったが、悪い気はしない。むしろ、話し終えてすっきりとした気分になった。

 

 マリア先輩は何も言わず、隣で聞いていた。

 少し間をおいて、彼女は淡々と話しだす。


「だからあなたはエミに優しいといわれて自分が許せなくなったのね。」

「……はい。僕はもう二度とこの上辺だけの優しさで誰かに勘違いされたくない。僕は自分のことしか考えることのできない、屑だ。僕の優しさを信じてしまえば、エミさんはきっと後悔する。

 もしそうでなくても、僕自身が許せない。だから、彼女は僕の優しさを信じてはならない。自身の意思を曲げることのない強い優しさ。それを手に入れるまでは僕はエミさんのその言葉を受け入れてはならない。」


 そうだ。僕はエミリーと恵美さんをどこか重ね合わせていた。見た目も性格も何一つ似ていないのに、ただ僕を信じているというだけで。

 それではまた繰り返すことになる。

 彼女が僕の事を優しいというのなら、それを絶対に否定しなければならないんだ。僕はそういわれたことに満足して、自分の優しさを信じてしまう。

 上辺だけの優しさなんていらない。僕が欲しいのはそれが求められているものでなくとも、自分の意思を貫き通すことのできる強い優しさ、真の優しさだ。

 


「はぁ、あなたって、少し馬鹿よね。」

 突然、マリア先輩はため息をついて、呆れるように言う。

「どういう意味ですか。」

 僕は少しイラついて彼女を睨みつける。

「そもそもその恵美という女の子のいう優しさはあなたは分からないんでしょう?そんなあやふやなものを欲するなんて馬鹿らしいわよ。

 それに、あなたのいう強い優しさはもうすでに持っているじゃない。」

「……は?」

 何を言っているのか分からず、首をかしげる。  

「だって貴方、赤竜が町に現れた時、本当に()()()()しか考えていなかったの?」

「当たり前でしょう。」

「ふーん、そっか。まあ私は貴方と出会って間もないし、君を慰めたりするような答えをいう事なんてできない。私が何か言っても貴方の心を動かすなんてできるわけがないしね。」


 彼女はそう言って立ち上がると、杖を部屋の隅に向ける。

 何をする気だ?


「≪光屈折(ライトリフレクト)透明化(インビジブル)≫」


 呪文が呟かれる。すると、何もなかったはずの部屋の壁に揺らぎが生じ、透明な水の壁が現れる。マリア先輩が杖を少し振ると、その壁はほどけ、エミリーが現れた。


「なっ……!?」

 僕は驚いて立ち上がる。

 一体いつからそこにいたんだ?

「驚かせてごめんなさい。でも、エミリーがどうしてもというから、あなたの事を聞き出す手伝いをさせてもらったわ。ケイン先生にも手伝ってもらってね。」


 状況が上手く読み込めない。

 なぜそこにエミさんがいるのか、マリア先輩が今何をしたのか、なぜ先生やマリア先輩に協力をお願いしてまで僕の事をエミさんが知りたがっているのか。

 聞きたいことは山ほどあったが、頭をフル回転させて何とか最も重要なことを質問できた。


「エミさんはどこから話を聞いていたんですか。」

 恐る恐る聞く。

「ショー君が自分の過去を話し出した時からだよ。」


 なるほど、つまり最初からってことか。

 エミさんには聞かれたくなかったな。こんな話を聞いて、彼女がどういう反応をするのかは目に見えている。

 僕の過去を知ったのなら、彼女は僕に対して好意を抱くことは決してない。それどころか、嫌悪感を抱くことだろう。

 悲しいわけではない。ただ、ほんの少し、彼女の隣にいたかっただけ。


 僕はうつむき、ベッドに座り込む。


「それじゃあ、私はもう行くわ。あとは二人で話しなさい。」

 マリア先輩は背を向けたまま手を振る。

「あっ、はい。ありがとうございます。」

 エミさんが頭を下げて礼を言う。


 僕は挨拶はできなかった。ずっと俯いて、エミさんの顔を見れない。これは恐怖だ。彼女に冷たい目で見られることに対する恐怖。

 いずれこうなることは分かっていた。覚悟も決めていたはずだ。なのに、その覚悟は生ぬるい。

 あの時と同じだ。僕は恵美さんの悩みを聞こうと決意しておきながら、聞き出せなかった。

 何も変われていない。


 少し強引ではあったが、結果的にはエミさんに聞いてもらえてよかったのかもしれない。


 僕は諦めて顔を上げる。何ともない顔をして、彼女と目を合わせる。


 

 すると、その瞳に写っていたのは彼女の優しい笑みだった。

 

 

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