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翔の過去①

 中学1年生の頃。勉学や運動において、僕は常に中の上ほどで、得意不得意もあまりない。

 しかし、空気を読んだり、話の流れを読んだりすることが下手だった。そのせいで、クラスメイトからいじめを受けていた。

 上靴をどこかに隠されたり、体操服のジャージを泥だらけにされたり、ひどい時にはボクシングの練習などといって、何度も殴られたこともあった。

 当然怪我はいくつもしたが、父はその時はすでに交通事故で亡くなり、母は仕事で夜遅くにしか帰ってこなかったため、それらを隠すことは簡単だった。


 僕自身は自分がいじめられているという感覚はなかった。彼らのことを友達と捉えていたし、「少し暴力的な悪ふざけ」としか思わなかったからだ。

 毎日新しくできる痣の数を数え、顔には怪我をしないように気を付ける。顔の怪我は隠しづらい。


 僕は感情をあまり外に出さなかった。だから学校の教師がそれに気づくことはなく、他の生徒は見て見ぬふりをする。それが当たり前だ。僕には友達はいても、親友はいない。

 僕にとって、友達とは対等の立場にいる人、よく言葉を交わす人だ。それに対し、親友は心を許した対等の立場の人。僕は母以外の誰かに心を許したことはない。人には()()()があることを知っている。僕がそうだからだ。だから、誰も信用しない。自分で見たもの、聞いたものしか信用しない。こんな考えをしているから空気が読めないのかもしれないが、それに関してはもうすでに仕方のないことだと割り切っていた。


 だけどある日、そんな僕を助けてくれた先輩がいた。彼女の名は恵美。黒髪だし、顔立ちもあまり似ていないけど、今思えばエミさんと雰囲気が似ている。



 その日は運悪く、帰り道に僕をいじめていた3人と出会い、河原の橋の下で殴られ、蹴られを繰り返していた。泥にまみれ、服も鞄もボロボロだ。


「お前ってホント気持ちわりーよな。全然表情変わんねーし、全然喋らねーし。

 もしかして痛覚とかないんじゃねーの?」


 ほかの二人もそれを聞いてただ笑っている。


 なんでこんな事で笑えるんだ。俺が何をしたんだよ。痛覚がない?あるに決まってるだろ。ふざけんな。僕を殴るのがそんなに面白いのか?理解できない。なんでっ、なんでっ、なんでっ、なんでっ!!


 僕はこの気持ちを全て押し殺した。少し目をつむって我慢すれば、誰も傷つかない。

 そう考え、僕はいつも通りこのままやり通そうとした。 

  

「あなた達!そこで何してるの!!」


 倒れこんだまま、僕は声のする方向を見る。

 僕の中学校と同じ制服を着た女の子。学校では見たことがない。先輩か?


 長い黒髪をポニーテールにしていて、前髪を花の飾りがついた髪留めで留めている。

 声には張りがあり、いかにも気が強そうで、運動が得意そうな風貌をしていた。 

 僕を殴っていた友達は一瞬たじろいだが、すぐに言い訳を始める。


「ちょっと格闘技の練習をしてたんだよ。な?」


 そういって、僕の方を見る。ここで違うといえばあの人は助けてくれるんだろうか。

 あれ?何を考えてるんだ?そうじゃない。僕は別に助けなんて求めていない。違うなんて言っても後で面倒になるだけだ。なら黙っていた方がいい。

 

「……うん、そうだよ。だから気にしないで。」

 無理やりに笑顔を作り、僕は楽しいふりをする。


「そう……分かったわ。邪魔して悪かったわね。」


 彼女は背を向け、その場から離れる。これでいい。これが最善だ。

 何度も何度も心の中でつぶやく。だが、そんな言葉とは裏腹に希望を手放してしまったかのような気持ちになる。



 僕はまた殴っていた男に立たされ、サンドバッグ代わりにされる。

 殴られると思い、目を瞑った。

 すると、誰かがこちらに向かって走ってくる音がする。僕はてっきり、飛び蹴りでもされるのかと思い、ぎゅっと目を強くつむる。だが、その足音が僕のすぐそばまで来ると、誰かに腕をつかまれ、引っ張って走らされた。


 目を開けると、あの声をかけてきた少女が僕の袖を引っ張って、走っている。


「走って!」


 彼女は走りながら僕にそう言う。僕は胸の中から何かが込み上げるのを感じる。



 息を切らしながら僕は彼女に連れられて走り、気が付けば後ろにはもうあの男たちの姿はない。


「ふぅ……大丈夫だった?いやー、ちょっと怖かったね。年下とはいえ男3人だし。」

 

 汗をぬぐい、彼女が言う。握られた手から震えが伝わってくる。本当に怖かったのか。

 僕は少し不満げに話し出す。

 

「なんで助けたんですか。僕は助けなんて望んでなかった。もし、いいことをした気分になっているのならそれは間違いですよ。それに助けたところで」

 

 僕が話していると、突然頭突きをされた。


「助かったのにペラペラと喚かないで。今は助かったことを喜んだらいいじゃない。

 それに、別にいいことをしたなんて思ってないよ?私は私がやりたいことをやっただけ。だから感謝なんてしなくていいよ。」

 彼女は僕の言葉に被せて言う。


 なんて身勝手な人だ。自分のやりたいことをやっただけ?その場で思ったことをすぐに行動に移したっていうのか?考えなしにもほどがある。

 そのはずなのになぜだろう、その身勝手さが少し眩しく思う。

 

「……ありがとうございます。」


 彼女にギリギリ聞き取れない程度の声で口にする。なぜこんなことを言ったのかは自分でも分からない。でも、僕は感謝を表すその言葉をいつの間にか言っていた。

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