心残り
今日の朝は雨の音で起こされる。
いつも通りのあの戦場の夢を見たが、この世界に来てからどんどんとあの男の感情が手に取るように分かるようになっていくのを感じる。
部屋で身支度を済ませ、僕が1階へ降りるとすでにエミさんが朝食をとっている。
昨日別れてからは僕とエミさんはろくに会話をしていない。あの時は明らかに僕が悪い。彼女が勇気を振り絞って告白してくれたのに、あんな態度をとるのは自分でもおかしいと思う。
だけど、どうしても僕が優しいと言われると苛立ちが収まらない。彼女は僕のことを優しいと思ってしまっている。それはとても嬉しいことだが、それだと彼女は僕にいつか必ず裏切られることになる。
僕はそのことを身をもって知っている。
「おい、食べ終わったら書斎に来い。」
レイガスさんが僕の耳に口を近づけて言う。
「?はい、分かりました。」
書斎に入ると、そこにはたくさんの本と様々な武器が置かれている。
以前エミさんから聞いた話ではレイガスさんは元々は相当な腕前の鍛冶師で、今はたまに傭兵として金を稼ぎに行くらしい。
鍛冶師をしていた時にかなりの大金を稼いだことがあり、生活には金銭面では全く困らないのだとか。
レイガスさんは書斎の椅子に座り、かなり落ち込んだ様子で話し出した。
「昨日から娘の様子がおかしい。何かあったのか?」
腕組みをして僕を睨む。昨日一緒にいたのは僕だし、疑うのは当たり前か。
「……よく分からないです。」
僕はとっさに嘘をつく。
「……詳しいことはあえて聞かないでおく。だが、あの子は昔から友達を作ることが出来なくてな。最近ようやくエリカという子と仲良くなったばかりなんだ。
ずっと一緒にいてくれとは言わん。お前にもやるべき事があるのだろう。だが、お前と会ってからのあの子は今まで見たことのないくらい楽しそうだった。仲良くしてやってくれ。」
レイガスさんはエミさんの様子の原因が僕だと感づいているようだ。親なのだから、もしかしたら嘘を見抜く魔術と何かしら関係のある魔術を使えるのかもしれない。
「……はい、分かりました。」
少し目をそらして言う。実際には自信はない。僕はともかく、あんなことを言ってしまったのだからエミさんの方は仲良くしたくないと思うかもしれない。
僕はいったいどうすべきなのだろう。今までに僕のことを優しいといってくれた人はエミさん以外にも一人だけいる。だが、僕はその期待を裏切った。
人は咄嗟の時や自分の身に危険が迫った時に本性を現す。僕の本性は自分の安全を最優先し、他人のことは見て見ぬふりをするものだ。誰の期待にもこたえられない、屑そのものだ。
そんな奴が彼女と一緒にいるのは間違いだ。どうせ、彼女の期待を裏切ってしまうに決まっている。
エミさんは僕を待つことなく、すでに家を出ていた。やはり、僕とはあまり顔を合わせたくないんだろうな。
少し残念だが、これで良かったと思う。これが最善だ。
……僕はもうエミさんとはあまり関わるべきではない。
レイガスさんの言った事には反してしまう。でも、それが彼女のためならば、きっと許してくれる。
僕は朝食を食べ終えると、身支度を済ませて学校へと向かった。




