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破綻

 放課後、僕とエミさんは一緒に家に帰る。

 登校時とは違い、何だか吹っ切れたような清々しい表情をしている。一方で僕はエミさんにどう接すればいいのか悩み、ずっと眉間にしわを寄せている。 


「ショー君、ちょっと寄り道していかない?」


 エミさんは言う。別に断る理由もないため、僕は言うとおりにエミさんの後をついていくことにした。


 

 案内された場所は、入り組んだ脇道を通り、突き当りに出てきた塔型の古い建物だった。付近の他の建物よりは少し高く、建物には蔓がいくつも巻き付いている。この様子だと、中に人はいないようだ。

 

「まさかここに入るの?あちこちボロボロだし、危なくないか?」

「大丈夫だよ、小さい頃からここで一人でよく遊んでたし、今でもたまに来るから。」


 そう言って、慣れた足取りで所々床の抜けた建物を進んでいく。僕はエミさんの通った道を進もうとするが、たまに「そこ脆いよ」とか言われて下を見ると本当にボロボロで少し体重をかけただけで踏み抜きそうだから、ゾッとしたりする。そんな僕を見て、エミさんは少し面白がっている。 

 少し苦労しながらもついていき、屋上に着くとそこには町全体が見える景色があった。


「いい景色でしょ。一人になりたいとき、たまにここに来るんだ。この場所を教えたのショー君だけだよ?」


 夕日が僕らを照らし、目がくらむ。エミさんは気持ちよさそうに風を受け、伸びをしている。

 

「それで?ショー君は私の魔術を知ってどう思った?」


 優しい表情を浮かべ、エミさんは言う。

 答えは出ていない。結局、僕はこれからどうエミさんに接していけばいいのか分からなくなってしまっている。エミさん自身がその魔術にどんな目に合われたのかなんて分かるはずもないし、気のきいたセリフなんて言えるはずもない。


「僕は……」

「嘘。」

 言葉を遮り、エミさんが言う。

「まだ何も言ってないんだけど……。」

「魔術を使わなくてもわかるよ。ショー君が今から言おうとしていることは嘘。でも、それはきっと優しい嘘。

 私の魔術はね、単に嘘が分かるってだけじゃないの。嘘にはいろいろな種類がある。優しい嘘、怖い嘘、悲しい嘘、せつない嘘。それぞれの種類によって感じ取り方は違うけど、私は基本的にその感情に沿った感覚を味わうの。

 怖い嘘をつかれた時なんか、胸を後ろから突き刺されたみたいな感覚がして、痛みで気絶しちゃったもの。」


 それを聞いて、ゾッとした。そんな自分を痛めつけるようなものなら、僕なら耐えられない。

 

「でもね、ショー君だけは違った。確かに君はまったく嘘をついていないわけじゃない。でも、君の嘘は胸が温かくなる優しい嘘、泣きたくなるような悲しい嘘の二つしかない。

 私はね、君に会って救われたの。私は今までこの魔術に何度も振り回されて、誰も信じられなくなりそうだった。自分だけの殻にこもって、周りを見たくなかった。

 でも、君に会って本当に優しい人がいるんだって分かった。いつも誰かに優しい言葉をかけられると嘘がいつもあったのに、君だけはそんな事無かった。」

 エミさんは僕の方に向き直る。

「私はきっと、ショー君のことが好きなんだと思う。誰かを好きになったことなんてないから、この気持ちがその言葉とあっているのかまだちゃんと分からない。

 ただ、これだけははっきりしてるの。私はこれから、学校で惨めな姿をたくさん君にみられることになる。それでも、これからもずっと隣にいてほしい。」

 

 エミさんは顔を赤らめ、真っ直ぐに僕を見る。

 告白されて、嬉しくないなんてことはない。だけど、これはたぶん彼女の本来の意思による言葉ではない。学校で惨めな姿を見られると言っているという事は、それを見られることへの恐怖に似た感情によるものなのだろう。

 見放してほしくない、遠くへ行かないでほしい、そんな願いからの言葉だ。

 それでも、彼女が勇気を振り絞って言った言葉であることに変わりはない。ちゃんと彼女と向き合って、答えるべきだ。

 頭では分かっていても、彼女の思いに答えるには罪悪感にも似た感情が僕の中で邪魔をしていた。


 僕は彼女が思うような優しい人間ではない。僕のことを優しい人だと言ってくれた人を僕は救えなかった。

 もう二度と、あんな思いはしたくない。なら、僕の今言うべきことは決まっている。


「エミさん、僕はエミさんの味方だし、もちろん隣にはいる。でも、僕はエミさんの言うほど優しい人間じゃない。僕みたいな奴よりも本当に優しい人がきっと現れる。だから、その人にその気持ちを伝えるべきだよ。」

「……え?」


 僕はそう言ってその場を立ち去る。歯を食いしばり、必死に感情が顔に出るのをこらえる。


 ああ、大切な人を自ら拒絶することはこんなにも辛いものなのか。


 エミさんの引き留める声が聞こえるが、頭に入ってこない。意識と無意識の両方の自分がその言葉を拒否している。

 

「………ごめん、エミさん……。」

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