教室
学園長からもらった書類の中には学校の地図もあり、それを見ながら僕は自分の教室に向かう。
はずだったんだけど……。
「迷った。」
自分でいうのもなんだけど、僕は決して方向音痴というわけではない。この世界では基本的に話し言葉は元居た世界と変わらないのだが、文字に関しては所々違う。
特に部屋の名前や施設の名前といったものは何が書いてあるのかほとんど読めない。漢字で書いてあるのだが、その漢字に問題がある。一部が鏡文字になっていたり、にんべんがこざとへんになっていたりして、とてもではないが読めない。
だから道の曲がり角や長さを地図と見比べながら移動していたのだが、何せこの学校の校舎は広く、おまけに曲がり角も多い。
チャイムもすでに鳴り、僕は途方に暮れ、右往左往する。
「あれ?翔君……でしたよね。こんなところで何をしているの?」
すぐ後ろで聞き覚えのある女性の声がする。
「マリアさん……。」
ベッドにいた時は暗くて気づかなかったが、ヒスイの色をした綺麗な瞳がよく目立つ。容姿は整っていて、言葉遣いも綺麗だ。。きっとこの学校での人望は厚いのだろう。
「ここは2年生の校舎ですよ?もしかして迷子?」
首をかしげながら人差し指を立てるその仕草は、普通の人がするとあざといとしか思わないのだろうが、彼女がすると、どうしてもそうは思えなかった。それほどにその仕草が似合っていて、なんだかこちらが恥ずかしくなる。
「えっと……、はい、そうです。」
こんな事なら学校長にちゃんと道を教えてもらうんだった。
そんな風に後悔していると、突然マリアさんが笑い出す。
「ふふっ、あなたは本当に素直ですね。いいでしょう、案内してあげます。どこに行きたいのかしら?」
彼女の微笑み方はどこかエミさんに似ているような気がし、安心感が感じられる。
僕は言葉に甘え、彼女に教室まで案内してもらう事にした。
「あの……、生徒会長。」
「マリアでいいですよ。あっ、でも君の性格だと年上を呼び捨てなんてできなさそうね。マリア先輩とでも呼んでもらおうかしら。」
マリアさんは僕の性格を見透かしたように言う。
「あ……っはい。なら、マリア先輩。エミさんはどこの教室にいるのか分かりますか?」
僕がそう言うと、先輩は少し驚いたが、すぐにいたずらっ子のような表情を浮かべる。
「すぐに分かるわ。」
そんなことを話しているうちに教室の近くにつく。教室の前の廊下では何やらしきりに時計を気にしている男性がいる。もしかして、担任の先生か?
その人は僕らに気付くと、すぐに駆け寄ってきた。
「もしかして、君が翔君かい?」
「はい、そうです。遅くなって申し訳ありません。道に迷ってしまって……。」
「そうか、よかった。どこかで倒れていたりしたらどうしようかと思ったよ。」
何だか気の弱そうな先生だが、気が強いよりは弱い人の方が僕は何だか親近感が沸く。
「よかった、どうやらこの教室で合っていたようですね。それでは先生、あとはよろしくお願いいたします。」
マリア先輩はそう言って立ち去ろうとしたが、僕は慌てて呼び止める。
「先輩、ありがとうございました。」
僕がそう言うと、彼女はふんわりと笑みを浮かべ、その場を去る。
「それでは教室に入ろうか。あ、ちなみに私はケインといいます。君の担当教員だ。よろしくね。」
「はい、こちらこそ。」
お互いに挨拶を済ませ、僕は教室の中に入った。




