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 夢を見た。とある戦場と化した町の夢。

 何の罪もない人々、小さな子供やまだ大切な人のいる者。彼らは瓦礫に埋もれ、血を流しながらも、助けを求め、願った。

 そこにたった一人たたずむ男に。

 白い髪に黒ずくめの服。青い瞳はどこか、悲しい瞳をしていた。



 こんな風景でも、物心ついた時から毎日のように続けばそれが夢であることはすぐに分かる。

 チリンッチリンッと、この戦場とは場違いな目覚ましの時計の音が僕を夢から現実へと引き戻す。


「……、またあの夢か。」


 毎朝の寝起きの最初の言葉がそれだ。

 窓から差し込む光がまぶしく、手で光を遮る。

 

 今日から高校生活が始まる。

 とは言っても、僕の周りの環境は大して変わらない。

 中学から高校へ。普通なら新しい環境や人間関係に不安を膨らませているものだろう。

 

 けれど、僕にとってはそれらのことはどうでもよかった。人間関係なんて中学の頃関わりがあった生徒が一人でもいれば、周囲の人間はその生徒から情報を引き出し、僕という人間がどのような人物であるのかを予測する。

 分かりきっている。きっと友達の一人もできやしない。僕のような屑には1人きりでいるのがお似合いだ。

 

 頭ではわかっていても、心にはずっとしこりが残っている。



 視界の曇りを洗面所の冷たい水で洗い流し、居間で前日に買っておいたパンを一つ食べる。

 一人で朝食をとるというのは寂しいものだ。恵美さんがいなくなったあの日のことが、全て夢だったらよかったのにと、毎朝思う。


「行ってきます。」


 誰もいない家に、その言葉が響く。いつものことでも、返事がないということに慣れることはなかった。


 登校していると、桜の花びらが鼻の頭に舞い落ちてきた。見上げると、公園の側に巨大な桜の木が咲き誇っている。

 こんなところに桜の木なんてあったか?

 学校まで少し距離はあるが、この時間なら少しぐらい寄り道しても十分間に合う。

 

 僕は少し、この桜の木を眺めていくことにした。

 僕は木、というより、自然の生き物が好きだ。ああいう、野生の生き物を見ていると厳しくはあるけれど、心の自由さが広がる気がしたからだ。

 

 桜の木には、スズメが何羽も集まってきていた。スズメが枝から枝へ飛び移る拍子に、一凛の桜の花が足元に舞落ちる。

 

 その花が落ちる様はまるで時間が遅くなったかのようで、地面に落ちた時の花びらの散り方まではっきりと見えた。

 


 それが僕がこの世界で見た最後の光景。

 その一凛の桜の花を中心に、地面は水面に雫が落ちたかのように波打ち、僕は落ちた。

 比喩などではない。本当に、地面を踏みしめる足裏の感覚がなくなり、落ちたんだ。あの真っ暗な空間に。


「うわああああ!?」


 その時僕は、想像もしていなかった。これが僕の人生を大きく変える出来事になると。

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