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学校長

 老人は背もたれが僕の背丈ほどもある椅子に王座に座るかのようにしている。

 ゆったりとした服装で、白髪の髪と髭を生やしており、髭は胸のあたりまで細長く伸ばしている。そして、魔女のような黒いとんがり帽子をかぶっていて、顔があまり見えない。腰には外にいた生徒のように杖を持っていたが、それには大きな黄色い宝石が埋め込まれていて、何だかそれだけでも迫力がある。

 僕がその老人に圧倒されていると、向こうから話しかけてきた。


「君が翔君じゃな?そこの椅子に座りなさい。1分以内に。」


 1分以内?結構時間をくれるな……。妙な言い回しだけど、気にしない方がいいのか?


 僕は少し戸惑いながらも指をさされた椅子に座る。

 老人は一つ咳ばらいをし、話し出した。


「初めまして、儂は学校長、エムリス・レオグランドという。呼び方は適当でよい。さて、君も自己紹介しなさい。5分以内に。」

「あ、はい。僕……、じゃなくて、私は翔といいます。ところで学校長、その言い回しはいったい……?」

「儂の座右の銘は『有言実行』。何事も言ったことは撤回せんし、不可能にもさせん。そして、それは儂の周りの者にも言えることじゃ。」

「は、はぁ……。」


 言っている意味がよく理解できないが、とりあえず悪い人ではなさそう……かな?何だか面白そうな人だ。


「それで翔といったか……。まずは入学おめでとう。君の活躍はビジョンで見た。なかなか骨のある若者じゃな。歓迎しよう。」

「あっはい、ありがとうございます。えっと……、学校長もあの事件を知っていたんですね……。」

「知らん奴の方が少なかろう。結界内への竜の侵入という前代未聞の大事件に加え、無謀にもそれに立ち向かった少年。これだけ要素があれば、ことも大きくなるわい。」


 知らない人の方が少ない?そんなに認知されているのか?いや、でもそう考えるといろいろと納得できる。人の視線の多さも異常だし、テレビで全国放送されたと考えればいいのか。

 だけど、僕はそんなに大したことはできていない。結局あの時僕は逃げ回っていただけだし、竜自身もこれっぽっちも本気じゃなかった。正直、炎を操ったのだって、何をやったのかすらあまり把握できていない。

 あれ?そういえば、竜は倒されたと聞いたけど、誰がどうやって倒したんだ?あんなの天災そのものといっても過言ではなさそうなのに……。


「あの……、竜を倒したのは生徒会長なのですか?」

「そうじゃよ、彼女は竜に有効な攻撃手段を持っておる。竜とはいえ、赤竜では相手にもならんじゃろう。もっとも、青竜や竜王なら話は変わってくるじゃろうがな。」

「竜には種類があるのですか?」

「それはあまり正しくない表現じゃな。正確には竜に位があるのじゃ。下から順に赤竜(せきりゅう)青竜(せいりゅう)白竜(はくりゅう)、竜王(りゅうおう)といったところじゃな。

 細かく言えばまだまだおるが、赤竜はその中でも最も位の低い竜じゃ。」


 校長はそう言って、髭を触りながらまじまじと翔を観察する。


「しかし、翔、そこまで知識がないとなると、記憶を一度なくしているか、人里から離れた場所で暮らしていたか、もしくは別の世界から来たとも考えられるが……。」


 唐突な言葉に一瞬息を詰まらせる。学園長はその一瞬を見逃さず、真実を見抜いた。


「どうやら別の世界から来たというのが正しいようじゃな。」

「なっ……!」


 いや、落ち着け。校長はそうかもしれないといっているだけで、まだ断言はしていない。


「……何のことです?別の世界なんてものがあるんですか?」

「とぼけても無駄じゃよ。話し方の若干の訛りが気になっておった。おまけに黒い瞳自体は珍しいわけではないが、お主ほどなら話は別じゃ。

 黒い瞳とは言っても、この世界の住人ならば若干茶色がかった黒をしている。それに対し、お主の瞳は純粋な黒。少し珍しい色じゃ。

 加えて、知識の無さや先ほどの反応を見れば、確定したも同然じゃわい。」


 なんって老人だ。僕が少し動揺してしまったのもあるが、たったこれだけのやり取りで僕の経歴の可能性を考え、反応を見て真実を見抜くなんて……。

 学校長は少し笑う。


「君は嘘が付けない人間のようじゃな。」

「……だったらどうします?僕をどこかの研究所なんかに放り込みますか?」

 僕は冷や汗を流しながら、震える声で言う。

「ふむ、どうやら君の世界にもそういった施設はあるようじゃな。儂が言っても信用はできんじゃろうが、安心しなさい。儂は君にそのようなことをする輩を許しはせん。

 もし仮に君がどこかに連れ去られたのなら必ず連れ戻そう。2時間以内に。もっとも、そんなことは儂がいる限り許さんがな。」


 この人は自身が信用されないと分かっていながら言っている。それは正しい。実際、僕はこの人を完全に信用したわけではない。だが、もしも信じていいのならこの学校は僕にとってかなり安心できる場所になる。


「もしも儂のことを信用できんというのなら、君の友人のエミリーを連れてくるとよい。儂のいう事が真実か否かを教えてくれるじゃろう。」

「え……?」


 なんで今エミさんの名前が出てくるんだ?今の話の流れで彼女の名前が出てくる理由が分からない。


「どちらでもよいがな。儂は予定さえ空いていればいつでも相談を受けるのでな。」


 学園長はそう言って、必要な書類や教科書を僕にいくつか渡す。

 僕は書類にいくつか必要事項を記入した後、教室に向かった。

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