傷跡
傷の治療が一通り済む。
自身が増幅した炎に包まれた腕はまだ包帯とギプスが巻かれ、自由に動かすことはできない。その他にも指の骨が折れていたり、肋骨が何本か折れていたりと、全身ボロボロだったが、治癒の魔術とやらでそのあたりの傷の治りは早い。
魔術は僕の眠っているうちに行使されていたらしく、実際には見ていないが、とりあえず凄いものだとは分かる。元の世界でこんなものがあれば、一体どれだけの人々が命を救われることだろう。
そう思うと、この世界の人々が少しうらやましく思う。もっとも、竜や狼に襲われるのはごめんだけど……。
朝、僕が目覚めると、隣では何かの果実の皮をむくエミさんの姿があった。
「あ、レン君。起きたんだね。気分はどう?」
エミさんは目の下に隈が浮き出ている。彼女の肌は色白だったため、それがすぐに分かった。
「エミさん、ちゃんと寝てる?隈が出来てるよ?」
僕がそう言うと、エミさんは無理やり笑顔を作って、大丈夫という。だが、そこには明らかに悲しみにも似た薄暗い感情が含まれている。
「何かあったの?僕で良ければ話を聞くけど……。」
僕が言うと、彼女は余計に辛そうな顔をする。
「何かあったのじゃないよ……。私のせいでショー君がこんな怪我をしたのに、なんでそんなこと言えるの?ショー君はもっと私を攻めるべきでしょう?私が何もできないくせに飛び出したから、ショー君は……。」
エミさんはそこで言葉を殺し、下唇をかむ。
もしかして、本当にこの傷が自分のせいだと思っているのか?
「ちょっと待ってくれ、エミさん。この傷はべつにエミさんのせいなんかじゃない。この傷を負わせたのはあの竜だし、あの時飛び出したのは僕の意思だ。
確かにエミさんはあの時飛び出した。けど、それはあの子供を助けるためだったんだろう?僕はそれが間違いだったなんて思わない。
エミさんがあの子供のために飛び出したように、僕はエミさんのために飛び出した。エミさんが自分を責める必要なんて絶対にない。」
僕は思っていることをすべて吐き出す。彼女が自分を責めている姿は見たくない。
すると、彼女は目を見開き、一筋の涙を流している。よく見ると、その瞳にはあまりに不自然な紋様が浮かび上がっており、とても美しく見える。
「まったく、ショー君は少しぐらい嘘ついたっていいのに。本当に正直なんだね。」
そう言って彼女は涙を指で拭きながら笑う。
エミさんは何か、縛られていたものがほどけたかのように柔らかな表情を浮かべる。
「当たり前だよ。エミさんに嘘なんて僕にはつけない。」
僕が言うと、エミさんは少しうつむき、無言のまま僕の手を優しく握る。
「ねぇ、これからも私の家に……、私の隣にいてくれない?私もお父さんに頼むから。」
一呼吸おき、彼女は言う。
僕は少し驚いたが、彼女の顔を見ると答えはすぐに決まった。
「エミさんさえよければ。」
エミさんは僕の手を握り、「ありがとう」と礼を言う。
僕はほとんど触れたことのない女性の手の感触に少し顔を赤くしながらも、彼女の手を優しく握り返した。